表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/283

幕間 ある夏の山の出来事④

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


ヤンマガWEBにて、最新話が更新されております。

有料最新話では、いよいよ「公爵家の料理番様」の中でもっとも大きな料理が出てきます(そう。あれです!) 是非読んでくださいね。


挿絵(By みてみん)

 ある日のことだった。

 アルマはルーベルを連れて、狩りの訓練を行っていた。

 ルーベルはまだ子どもだ。けれど、クアールの幼体は1年もせずに親の行動を見て、狩りの訓練を始めるという。


 訓練というと大それて聞こえるけど、要はアルマとルーベルの鬼ごっこだった。


 当然、ルーベルは普通のクアールだから300年生きるアルマには勝てない。でも足腰を鍛えるには、森の中を走り回るのが一番だ。その日もアルマはルーベルを連れて、山を駆け回っていた。


「はあ……、はあ……。パパ、速いよ」


「まだまだ。根を上げるのは速いぞ、ルーベル」


 ルーベルはヘトヘトな一方、アルマは髭を撫でながら余裕を見せる。夢中になって訓練をしていたら、気が付けばアルマたちは人里の近くまで来ていたことに気づいた。


「調子に乗って、人里まで来ちゃったか。そろそろ引き返そう」


 アルマが踵を返した時、足を乗せていた枝が折れる。一瞬油断したとはいえ、そこはアルマだ。華麗に空中でくるりと回ると、うまく着地する。そこまで良かったのだけど……。


「なんだ?」


 不意に人の声が聞こえた。

 アルマは咄嗟に振り返ると、そこに人間の青年が立っていた。ルーベルの訓練に夢中になって、人間の探知を怠っていたのが原因だった。普段のアルマならすぐに気づいたはずだ。


 この日空気が湿っていて、沼地から来る風が濁っていたせいもあるかもしれない。


 青年はアルマを見なり、ギョッと目を剥く。そして――――。


「ば、バケモノ!!」


 今にも失禁せん勢いで叫んだという。

 対するアルマはというと……。


「だ、誰がバケモノだよ!! むしろ可愛いだろ!」


 無意識にツッコミを入れた。

 自他ともに認める、その愛らしい姿を見て、「バケモノ」と言われたことがよほどショックだったのだろう。さりとて問題だったのは、アルマが咄嗟に人間の言葉で喋ってしまったことだった。


「しゃ、喋ったぁぁぁああああ!!」


 人間は持っていた剣を落として、一目散に山を下りていく。

 危機は回避されたのだが、その後がよろしくなかった。






「その青年ってのが、里の有力者の息子だったんだ。たぶん人間がよくやる度胸試しって奴で、1人山に踏み込んできたんだと思う」


 単なる平民なら戯言と誰も取り合わないだろう。聖職者なら、それを聞いて神の教えに背くといって、黙ったかもしれない。でも有力者の息子となれば、身元がしっかりしているぶん、安易に否定できなくなる。


「しかも、その息子……。どうやらギルドにまで退治を呼びかけたらしいぜ。よっぽどボクの姿が醜く見えたらしい。こんなに可愛いのにさ」


 アルマは唇をとがらせ、モフモフの尻尾をしっしと振った。


「それで……」


「ギルドも加わって、山狩りさ。仕方ないのでボクが呼びかけて、魔獣には山奥の方に逃げてもらったけどね」


「え? なんでそんなことを?」


「決まってるだろ。魔獣に人を殺させないためさ」


「アルマ……。それって……」


「勘違いするなよ、ルーシェル。君が人間だからとか、元相棒だとか関係ない。むしろボクはよく人間を知っているからこうしているんだ」


 仮にアルマが魔獣を移動させなかったら、多くの人間が魔獣に殺されていただろう。そうすれば、人間はもっと人を連れて、山狩りを行う。喋る魔獣がいると聞けば、きっとどこかの貴族が大量にお金を出してくれるだろうから、人も集めやすい。アルマは自分がきっかけとなったことだから、責任を以て、双方に迷惑にならないように立ち回っているのだ。


 だけど、この件は喋る魔獣が見つからない限り騒動は終わらないと思う。


「いっそどこかの里でも焼き払ったら、怖くて手を出さなくなるかなあ」


 アルマは眠たいのか、少しウトウトしながらとんでもないことを言い始める。根が魔獣だからか、アルマは悩んだり、考えたりするのが苦手だ。頭を使ったら、疲れて眠たくなってきたのかもしれない。


「それもいいかもしれないね」


「おいおい、ルーシェル。ボクは君が否定すると思って口にしているんだぞ。いつからジョークが通じなくなったんだい」


「脅すのも、殺すのも難しいなら、怖がらせるしかないかなって思ったのさ」


「もしかして、何か思い付いたのか?」


「聞いてみる? ボクのアイディア?」


「なんだか、嫌な予感がするんだけど」


「大丈夫。人間にも、魔獣にもメリットがある話だから」


 ボクはニヤッと笑った。



 ◆◇◆◇◆



 それはアルマたちが住む山の近くの里で、突然始まった。


「魔獣だ! 魔獣の群れが来たぞ!!」


 どこからともなく子どもの悲鳴が聞こえてくる。家の中で仕事をしていた女たちは、雨戸から顔を出し、農作業していた男たちは鍬を振るう手を止めて、顔を上げる。すると村の外から砂煙が立ち上っているのが見えた。

 それが何を意味しているのか、まだこの時村人たちは気づいていない。しかし、地面を揺るがす地鳴りを聞いて、正気じゃないことが起こっていることを察する。


 本格的に事態を理解できたのは、里に設置された小さな鐘が鳴らされた時だった。


 里にやってきたのは、たくさんの魔獣の軍勢だ。馬や豚、あるいはゴブリン系の獣人タイプの魔獣が列をなし、里に向かってきていた。その様子を見て、魔獣たちの逆襲だ、と叫ぶ。正常な判断ができる人間はほとんどいない。子ども連れて、みんな逃げるのが精一杯だった。


 しかし、すでに里は魔獣に包囲されていた。1度は里を出た人々も、里の中央に戻って来る。一方魔獣たちは里の小さな柵を難なく越えて、里に侵入した。嘶き、あるいは遠吠えを上げながら、里の者たちを威嚇する。


 万事休す。もはや里人たちにできることは、指を組んで神に祈る以外に方法はなかった。


「魔獣がなんで急に?」

「祟りじゃ! 祟りが起きたのじゃ」

「うわーん。ママぁ!」


 人間の方も大変だ。狼狽える人もいれば、これが山の中に人間が入った報いだと声高に叫ぶ人もいる。あちこちから子どもたちが咽び泣く声が響いていた。ちょっとかわいそうだけど、人間と魔獣が共存するには、今の所この方法しか考えられない。


 僕は【竜眼】で様子を窺う。同じく【竜眼】で里の人間たちを見ていたアルマは、少々複雑な表情をしていた。


「ルーシェル、大丈夫なのか?」


「今のところはね。あとは君次第だ。頑張って、神様(ヽヽ)


 カメレオンジュエルの皮を被った僕は、アルマの背中を叩く。そのアルマは渋々といった様子で【透明化】を解いた。


「ええい! こうなったらとことんやってやるよ!!」


 アルマにやる気スイッチが入る。

 僕と組んでいた時は怠惰で、めんどくさがったものだけど、父親になって性格に変化が出たのかもしれない。昔なら、きっとそっぽを向いていただろう。


 アルマは【浮遊】を使って、空へと舞い上がる。さらに光属性の魔術を使って、身体を輝かせると、人間たちが集結していた中心に踊り出た。


「鳥か?」

「魔女か?」

「いや、違う」


『クアールだ!!』


 突然、里の中心に降り立った光る謎のクアールを見て、魔獣が現れた時以上に慌てふためく。大人たちは悲鳴を上げ、魔獣をあまり見たことない子どもたちは、子犬サイズぐらいのクアールの幼体を見て、「かわいい」「お人形みたい」文字通り目を輝かせた。


 人間の皆さんがどうしようか迷ってる様子を、こっそり目を開けて見たアルマは次なる段階に入る。


 人間たちを中心に風を起こすと、近寄ってくる魔獣に対して解き放ったのだ。風は魔獣たちを吹き飛ばしていく。残った魔獣は慌てふためき、山へと戻っていった。


「すごい! 魔獣が逃げていった」

「どういうことだ? 魔獣が魔獣を……」

「助かった……」


 九死に一生を得た里の人間たちは、ホッと胸を撫で下ろすと、その場に座り込む。しかし、問題なのはそこに残ったアルマだ。依然として神々しく光り輝き、里の者たちを見下ろすアルマは、ついに口を開いた。


「人間たちよ」


 喋った! 魔獣が? と里の皆さんはどよめく。一際騒いでいたのは、例の青年だ。アルマの前に出てくると、「こいつだ」とばかりに指差す。


「ほら! いただろ! こいつが喋る魔獣だ! 俺が言ったことは――――」


「黙れ!」


 アルマは雷の槍を青年に落とす。見事射貫かれた青年は命を落とすことはなかったものの、その場で気絶し倒れてしまった。青年を一瞬にして倒してしまった小さなクアールを見て、再び里の者たちは恐れおののき、ついには平伏する。


「聞け、人間たちよ」


「ははあ!」


「ぼ……じゃなかった、我は山の神なり」


☆★☆★ 来年1月9日発売!! ☆★☆★


『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』単行本9巻発売です。魔王降臨編完結。そして新章へ! お年玉を少し残してどうかお買い上げいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ