第238話 王様の要求
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ロラン王子、リーリス、ユラン、そして僕は、一緒に舞台に上がる。
階段を上っている時に、僕はふと自分の足が震えているのがわかった。こんな風に反応したのは、いつぶりだろうか。山で生活し始めた時か、あるいは最後にヤールム父様と剣を打ち合った時だろうか。記憶は定かではなかったけど、原因は舞台に上ってみて、すぐにわかった。
僕たちは国王陛下の前に並ぶ。
不意に熱い風のようなものが頬を撫でたような気がした。なのに全身が総毛立つ。緊張というよりは、国王陛下が放つ大らかな気に僕は当てられ、固まった。
しかし、怖い感じはしない。ヤールム父様のように常に斬られているようなとげとげしいものもなかった。ふわりと何かに包まれているような感じがする。国王陛下が緊張する僕たちを見て笑った時、少し楽になったような気がした。
「楽にしなさい」
国王陛下に言われるまま、僕たちは膝を突くことなく、立ったまま話を聞く。
「ジーマ初等学校1年生ルーシェル・グラン・レティヴィア」
「はい!」
僕は大きな声で返事する。
強制されたとか、そうではなくて、陛下が持つ気配がそうさせた。
国王陛下はさらに名前を読み上げる。
「同リーリス・グラン・レティヴィア」
「はい」
「同ユラン」
「なんじゃ」
リーリスはやや緊張し、反対にユランは素っ気ない。なんだか退屈そうにしていた。
最後に国王陛下の優しげな目は、ロラン王子に向けられる。
「そして、同ロラン・ダラード・ミルデガード」
「はい」
最後にロラン王子は歯切れ良く返事をする。
「そなたら、子どもによる子どもの考えた祭りを実行し、見事最後まで完遂した。その手腕は大人ですら舌を巻いたと聞いておる。何より困難な中にあっても、一致団結し、諦めることなく立ち向かい、学校が抱える問題にも取り組んだ。大義であった」
「「「「ありがとうございます」」」」
僕たちは頭を下げる(ユランが遅れて、渋々だったけど)。
すると、国王陛下は舞台袖の方を見つめる。そこにはアルテン学校司祭長、ゾーラ学校司教長、さらに子ども祭実行委員の顧問を務めてくれたアプラス先生が立っていた。3人は国王陛下の視線に気づき、それぞれ頷く。
何かの合図だろうか。少し気になっていると、再び国王陛下は口を開いた。
「ロラン・ダラード・ミルデガードよ」
「はっ。ちち……国王陛下」
「そなたは、この学校の生徒自治なる組織が必要と望んだそうだな」
「仰る通りです」
「今、こうして子ども祭を行ってみて、なおその自治が必要と考えるのか?」
国王陛下も生徒が学校の自治を行うことに否定的なのだろうか。いや、違う。たぶん子ども祭の中で、生徒の意識は確かに変わった。クモワースなどは特にそうだ。今の状態を見れば、生徒が生徒を管理するというのは、少し見当違いのような気がする。陛下はそれを指して話しているのだろう。
「陛下、意見をするご許可ください」
「良い。存分に話すがよい」
王子は「ありがとうございます」と頭を下げた後、話した。
「ジーマ子ども祭において、確かに学校の中にある問題を意識する子どもは増えました。そして、それを解決する方法もまた、学校祭を通じて共有できたと思っております。それ自体は尊く、人間の素晴らしさに私は改めて感銘を受けました。ですが、陛下……。残念ながら人には愚かな部分ございます。今日のことを忘れ、投げだし、最終的には私利私欲に走るものも少なからずいることを、私は理解しているつもりです」
「むぅ……」
「子ども祭のことが遠い歴史の中へと消えた時、誰かが今日の日のことと、その意義を伝える必要が出てくる。差別や格差に泣く者に寄り添う者が必要だと考えています」
「それが生徒自治会であると」
「1人ではダメなのです。差別と格差には必ず2人の人間が関わるでしょう。だからこそ組織が必要なのです」
「なるほど。『今日の日のことと、その意義を伝える』者、か。良かろう」
我が子を前にして、少し表情の硬かった陛下の顔がこの時、ようやく緩む。
「ジーマ初等学校に生徒自治会の発足を許す」
「ありがとうございます」
ロラン王子はホッとした様子で息を吐いた。僕たちも思わず顔を上げて、笑みを浮かべる。
「ただし、そなたらの参加は保留とする」
「陛下、それは……」
「そなたらはまだ1年生じゃ。人の上に立つには幼すぎる。4年、いや5年生からが適当であろう。その頃となれば、多少は物の分別は付くであろうからな」
「わかりました」
「ロラン」
「はい」
「もう少しそなたらは子どもであれ。よく学び、遊び、友と固く友情を結び、そして4、5年後には胸を張って、この学校をより良くするために汗をかくが良い。これは父としての言葉だ」
「陛下……。ありがとうございます、父上」
自治会が承認された時以上に、ロラン王子はどこかホッとした様子だった。そして王子も含めて、僕たちは陛下から頭を撫でられる。陛下の手は思ったよりも大きく、その表情同様に優しかった。
こうして全ての子どもの褒賞が終わった――はずだった。
舞台から降りようとした時、4人のうち僕だけが陛下に呼び止められる。「なんだろう」とまた陛下の前に立つ。緊張した面持ちの僕を見て、陛下は柔和な笑みを見せた。
「ルーシェル・グラン・レティヴィアよ」
「はい!」
先ほどとは違う。陛下のよく通る声を聞いて、僕は思わず背筋を伸ばす。
なんだろう。嫌な予感がする。
また僕、何かをやってしまっただろうか。
「そなたに王宮への参内を命じる」
ややざわついていた講堂が、しんと静まるのがわかった。僕も一瞬何が起こったかわからず、固まってしまう。まるで時が止まったかのようだった。
呆気に取られる僕を見て、陛下は笑ってこう言った。
「つまり、我が宮に招待するということじゃ」
我が宮って……、王宮?
1度行ったことはあるけど。
招待って……。国王陛下が? 僕を?
「は、はいいいいいい??????」
すごいことになってしまったぞ!