第233話 王都に光る青
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ロラン王子との決闘を見ることができますので、
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ユランの背に乗り、僕は王都を眺める。
あっちこっちで火の手が上がっていた。
剣戟の音が響き、衛兵の皆さんが市民を誘導する音が聞こえる。
もうジーマ初等学校だけじゃない。王都が戦場になっていた。
「ふん。久しぶりに嗅ぐ戦争の匂いだ」
ユランは忌々しげに呟く。
暴れるのは大好きでも、ユランは戦争自体が好きではないらしい。
「ルーシェル、いいのか?」
「何が?」
「お前の力を公に見せることになるぞ」
「うまくやるさ。ユランもいるしね。頼りにしているよ」
僕がそう言うと、ユランは突然むせ返る。
一体どうしたんだろう。
「そういうことをいきなり言うな」
「どういうこと?」
「もうよい。始めるぞ」
「いつでもいいよ」
僕は立ち上がり、手を掲げる。
魔力を練ると、たちまち王都の上に暗雲が垂れ込めた。
ユランもまた長い首を空に向ける。
口の中で魔力を溜めると、それは吹雪の塊になった。
「食らうがいい。我が試練の息吹を……」
「誰か知らないけど、王都も王宮もめちゃくちゃにさせない。ここはもう僕にとって、大事な人たちが住む街なんだ」
「カアアアアアアアアアアアアア!!」」
「【獣特攻】【魔法攻撃力上昇】【命中度上昇】【魔法誘導】【フィールド強化】【魔力増幅】【雷能力強化】【二重魔法】【二重魔法強化】【二重魔法付与】【魔法全体化】【防御耐性貫通】【魔法防御耐性貫通】……」
そして、すべての強化魔法を一点に押し込む。
最後に魔法を放出した。
【雷罰】
雷鳴が轟く。
瞬間、王都は青白い光に染まった。
◆◇◆◇◆ アルヴィン ◆◇◆◇◆
アルヴィンは事態を察して、急ぎ王宮に戻り、守りを固めていた。
彼はルーシェルたちよりも早く、反獣人派の企み――その背後にいる者たちの計画を見抜いていた。論理的な思考はない。ただの獣人としての勘だ。学校に娘を残してきたのも、同じく勘だったが、獅子は子どもを千尋の谷に落とすという。心配と言えば心配だけど、這い上がってこれないほど、レーネルは柔な鍛え方していない。
アルヴィンの勘は見事に当たる。
王宮の守りを完璧に整えたが、敵の方がうわ手だった。
ブルーバットベアーが次々と王都に現れたのだ。
結局、アルヴィンは王宮に敷いた守りを解かざるを得なかった。
本来であれば国王を守るために戦力を残すのが定石だろう。
しかし、国王陛下がそれを望まない。
王宮の兵を分け、王都の守りに当たらせる。
一方、アルヴィンは王宮に殺到するブルーバットベアーの相手を余儀なくされた。
「うおおおおおおおおおおお!!」
ブルーバットベアーを胴体から切り裂く。
アルヴィンが持っていたのは、巨大なバスターソードだ。
竜の牙から削り取られたという剣は大きく、分厚く、重く、そして大雑把だった。
剣というより、刃の形をしたハンマーといっていい。
それで魔獣を切り裂けるのは、獣人の中でもアルヴィンだけだった。
「さすがアルヴィン様だ!」
その勇ましい姿に兵士たち、何度も心を奮い立たせる。
アルヴィンもようやく一息吐く。
空を見上げ、我が子の安否を慮る。
だが、休息は長く続かない。その空に再び穴が広がる。
またブルーバットベアーが飛来した。
「ブルーバットベアー、多数……!」
城門の上から戦況を確認していた物見が叫ぶ。
アルヴィンは舌を鳴らした。
「おのれ! まだ続くのか?」
すでに召喚に魔導具が使われていることは、アルヴィンも知っている。
人をやって、探させているものの芳しくない。
相当な数の魔導具を設置したのだろう。
(反獣人派の仕業だけではないな)
アルヴィンは目を細める。
やがてその彼の前にブルーバットベアーが現れた。
立って、胸をさらし、威嚇するように吠える。
その声に、兵士の一部が悲鳴を上げた。
アルヴィンは兵士達を鼓舞するが反応はいまいちだ。
かなりの時間、強敵と戦い続けているのだから仕方ないかも知れない。
「こうなれば俺が前に出て……」
前に歩みを進めようとした時、ふと空が暗くなる。
同時に一気に気温が下がったかと思った瞬間、青白い光が目の前を覆った。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッッ!!
けたたましい音に、アルヴィンは反射的に頭の耳を押さえる。
気が付けばブルーバットベアーが、真っ黒になっていた。
かと思えば、反対の戦場では城壁の一部ごと氷付けにされている。
王宮の周りだけではない。先ほど王都や王宮に飛来したブルーバットベアーが黒焦げになるか、氷付けになっていた。
何が起こったかわからない。本気で神様がやってきて、魔獣に罰を与えたのかと【剣王】は考えた。
ふと空を望むと、真っ白なホワイトドラゴンは翼を広げて悠然と飛んでいる。
その背には子どもが乗っていた。
「まさか、ルーシェルくんか?」
ルーシェルはアルヴィンの言葉に応えるように、ホワイトドラゴンの背から落ちてくる。
一瞬慌てたが、ルーシェルは魔法を使って、見事着地した。
「閣下、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……。全部君の仕業か?」
「半分はユランですけど」
「ユラン……? まさかあの銀髪の娘があの……」
アルヴィンは王都上空を旋回するホワイトドラゴンを睨む。
ルーシェルが苦笑いで応じると、アルヴィンは呆気にとられていた。
他の兵士たちは未だに何が起こったか理解できず、突然降って現れた少年を見て、目を丸くしている。
目の前で起こった現実を飲み込むのに、アルヴィンですら五秒を要した。
「ごほん。とりあえず感謝する。助かった」
「いえ」
「だが、安心するのはまだ早い。敵は魔導具を使って、ブルーバットベアーを召喚している。王都に張られた結界を通り越し、一体どうやってそのようなことができているのか皆目見当も付かないが、今はその魔導具を壊す方が先だ」
「それなら大丈夫ですよ。僕が【竜眼】を使って、すべて見つけて破壊しましたから」
「は、破壊した。まさか今の雷……」
「はい。ブルーバットベアーだけじゃなく、王都に設置された魔導具をすべて破壊しました」
「なっ……」
アルヴィンは絶句する。
【剣王】と名を知られ、その勇猛さに舌を巻く者がほとんどだ。
どちらかといえば、アルヴィンは驚かれる側の人間だった。
その彼が今、自分の子どもとそう変わらない年頃の初等学校の生徒に驚かされている。
屈辱というより、何故か笑いがこみ上げてきた。
「すごいな、君は。その君を受け入れたレティヴィア閣下には脱帽を禁じ得ないな」
「僕のことがやはり怖いですか?」
「怖い? そんなわけあるものか」
そう言うと、アルヴィンはルーシェルの脇に手を入れる。
そのまま高く掲げた。
「レティヴィア公爵家でなければ、俺が養いたいぐらいだ。……どうだ。うちの子になる気はないが」
「い゛! え、えっと……。遠慮します。たははは」
ルーシェルは苦笑で返すのが精一杯だ。
「残念だ。レティヴィア家が飽きたら、いつでも来い」
「そんな玩具じゃないんですから」
ルーシェルはそう言った後、すぐに真剣な表情になる。
「どうした?」
「すみません。最後の魔導具が今起動しました」
「なに? 全部つぶしたのでは?」
ルーシェルは首を振った。
「全部発見していたのですが、そこには魔法を落とすことができなくて。万が一のことがありますので」
「もしや、それは……」
アルヴィンは気づく。
真っ先に後ろを振り返った。
そこには白亜の王宮が聳えていた。