第232話 責任をとって!
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最新話が更新されました!
有料最新話では、ついにロラン王子が登場です。
ロラン王子ファンは必見なので、是非読んでくださいね。
そして来月――10月18日にはコミックス5巻が発売されます。
未晶化の特訓や、ルーシェルの賄い飯など、今回もおいしい料理が揃っています。
秋らしい表紙にも仕上がっていますので、そちらもお楽しみに。
パチパチ……。
僕が拍手すると、リーリスたちは空を見上げた。
空から降りてきた僕は、リーリスに駆け寄る。
「心配してきたけど、取り越し苦労だったみたいだね」
「ルーシェル!」
リーリスの力は間違いなく魔獣を食べていた成果だ。
僕のように毎日食べていたわけじゃないけど、リーリスは1年半定期的に魔獣食を口にしてきた。結果、同級生たちよりも遥かに身体能力が上がったのだ。
「カッコよかったよ、リーリス」
「そ、そんなことは……」
「でも、あまり危ないことをしちゃダメだからね」
「……はい」
リーリスは少し反省したように返事する。
自分の手に視線を下ろすと、震えていた。
戦っている時のリーリスはとても勇敢だったけど、本当は怖かったのだろう。
「何を言っているですか、ルーシェル様」
「そうだ、そうだ。リーリス様が魔獣を投げ飛ばすことができたのは、そもそもルーシェルくんがあんなおいしい魔獣料理を出すからだ」
リチルさんとミルディさんがうんうんと頷く。
「え? 僕が悪いの?」
「その通りです。自覚がなかったのですか?」
「これでリーリス様の嫁のもらい手がなくなったら、ルーシェルくんのせいだからね。責任をとってくださいよ」
「責任……!」
自分の顔が熱くなるのが、すぐにわかった。
そっとリーリスの方を見ると、赤らめた顔を僕の方から背けている。
僕がリーリスと……?
あたふたしていると、横でリチルさんとミルディさんが顔を合わせていた。
「どうやら今のはクリティカルだったようね、ミルディさん」
「くししし……。いい傾向ですな、リチルさん」
2人とも聞こえてますよ。
あと、何を言っているかわからないけど、そこはかとなく僕をバカにしてるでしょ。
戦場に一瞬気の抜けた空気が満ちる。
すると、魔導石から声が聞こえた。
『ルーシェル、聞こえるか?』
「ロラン王子! 何かありましたか? 【結界】が壊れたとか」
『それなら心配ない。が、もしかしたらそれ以上に悪いことかもしれない』
「というと?」
詳しく事情を聞くと、ブルーバットベアーの数はどんどん増えて行ってるらしい。
ロラン王子が言うには、召喚用の魔導具は子ども祭の会場ではなく、王都全体にも設置されていたようだ。そのせいで王宮からの援軍も、子ども祭の会場に到着できずにいるらしい。
「いつ王宮が襲撃されてもおかしくない状態だ。今、【剣王】が踏ん張ってくれているようだが……」
確かにブルーバットベアーの気配は最初の頃よりも多くなってきている。
その範囲は広がり、今や王都の外側に達しようとしていた。
このままじゃ王都が火の海になりかねない。
ブルーバットベアーはAランクの魔獣。
普通の衛兵の皆さんでは難しいだろう。
アルヴィンさんもいつまで持つか。
『そこでだが、ルーシェル。お前の力を借りたい』
「僕の?」
『幸いなことにお前たちやレティヴィア騎士団のおかげで、ジーマ初等学校周辺のブルーバットベアーは粗方片付いた。新手がきても、ルーシェルが張った【結界】の中にいれば、問題ないだろう。頼む……。今度は王都を救ってくれ』
ロラン王子の声はかすかに震えていた。
たぶん、王宮内にいる家族のことが心配なのだろう。
王位継承争いをしているとはいえ、王宮は血を分けた兄姉が住んでる王子の家だ。
何よりあそこには、ロラン王子が慕う国王陛下がいる。
僕としても期待に応えてあげたい。
でも、ロラン王子の家族を助けることは、僕の家族から離れることになる。
心配じゃないといえば、嘘になる。
「ルーシェル、行ってください」
「リーリス? でも……」
「ルーシェルにしかできないことだと思います。わたくしが手伝うことができないのは悔しいですけど……。王都を、王宮を、ロラン王子のご家族を救ってください」
リーリスが僕の手を取る。
さらにリチルさんが僕の肩に手を置いた。
「リーリス様たちが、わたしたちが守るわ」
「ここはあたしたちに任せてよ、ルーシェルくん」
最後に元気よくミルディさんが、親指を立てた。
そこで僕の迷いは晴れた。
「わかりました、ロラン王子。僕は王宮に向かいます」
『感謝を、ルーシェル。この恩は絶対に報いる』
「恩なんて。僕たちは友達じゃないですか? 王子が言ったんですよ」
『そうだったな。我々は生徒自治執行部を立ち上げる同志だ』
「みんなが国王陛下に恩寵を賜るために必死に頑張って来たんです。その努力を絶対に無駄にはできません」
僕はミルディさんとリチルさんに、生徒と観客たちの誘導をお願いする。
その側でリーリスは突然、僕の手を取った。
「ルーシェル、気を付けてくださいね」
「うん。わかってる」
「あと、ずっと言おうと思ってたんですけど」
「何?」
リーリスの耳がみるみる赤くなっていく。
どうしたらいいかわからず、僕はあたふたしていると、突然リーリスは叫んだ。
「……こ、後夜祭!」
「え? 後夜祭……? あっ!」
僕はリーリスが企画した後夜祭のことを思い出す。
所謂、生徒だけが参加できるお疲れ回で、ダンスパーティーだ。
そう言えば、何度かリーリスが僕に訴えかけようとしていたけど、もしかして……。
僕はなかなか言い出せないリーリスの手を強く握った。
「リーリス、後夜祭。僕と一緒に行ってくれますか?」
「――――ッ!!」
リーリスの顔が額まで真っ赤になった。
耳からポーッと勢いよく蒸気を上げる。
最後に、頭をシャッフルするみたいに何度も頷いた。
「行きましょう!」
「うん。約束」
僕とリーリスは小指を絡め、約束の指切りをする。
後ろでミルディさんとリチルさんがニヤニヤと笑っていた。
あと「尊い」って何?
生徒と観客がその場を後にした後、僕は名前を呼んだ。
「ユラン、いるんでしょ?」
「なんだ。気づいてたのか?」
「当たり前だよ。……ごほん。一緒に行ってくれるよね」
「別にお前と一緒に行かんでも、我は勝手に行くがな」
ユランらしいや。
「だが、ルーシェルがどうしてもというのであれば、やぶさかではない」
「はいはい。じゃあ、お願いします、ユラン様。僕を王宮まで連れてってください。これでいい?」
「なんだ。やればできるではないか? 普段からそういう態度であれば、我も許してやったのに。あと、『はい』は1回な」
本当にユランってぶれないな。
ユランはたちまちホワイトドラゴンの姿になる。
僕がその背中に乗ると、大きく翼を動かして、飛び上がった。