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第231話 秘めたる力

9月12日発売されました!

よろしくお願いします!!


挿絵(By みてみん)

「あ。来た!」


 一時避難場所であるジーマ初等学校の敷地内にある農園で、生徒の誘導を手伝っていた僕は、クモワースを担いだレーネルを見つける。側にはナーエルと、クモワースの取り巻きアーラとシャイロの姿もあった。随分と疲れた様子だけど、無事のようだ。


「ナーエル!」


 駆け寄ったのは、カルゴさんだった。

 幼馴染みのナーエルを随分心配していたらしく、農園の入口で待っていたのだ。


「カルゴ!」


「その……無事で良かった」


 カルゴさんは少し泣きそうになりながら、ナーエルの無事を喜ぶ。


「ルーシェル、ボクたちで最後?」


「それが……」


 僕は思わず言葉を詰まらせる。

 実は講堂で劇をする予定だったチームがまだ戻ってきていない。

 演劇をするチームには、リーリスとユランが含まれている。

 その2人も戻ってきていなかった。


「ユランがいるから大丈夫だと思うけど」


「ちょっと心配だね。……ルーシェル、行ったら?」


「え? でも?」


 僕は振り返る。

 そこには逃げてきたたくさんの生徒や教員がいた。

 数名レティヴィア騎士団がいるけど、戦力としてはまだ心許ない。

 これ以上の増援の可能性は十分あるし、新手の戦力が出てくるということも捨てきれない。


 そんなことを考えているうちに、ブルーバットベアーの群れが農園に向かってくるのが見えた。レティヴィア騎士団が対応する。でも戦況は一進一退だ。


「ここは僕が……」


 魔法を使おうとした瞬間、僕よりも早く氷結系の魔法がブルーバットベアーに襲いかかった。振り返ると、アプラスさんだ。『精霊の花嫁』から離れても、元『氷の魔女』の魔力と知識は健在らしい。


 アプラスさんはさらに吹雪を巻き起こし、ブルーバットベアーの動きを封じる。

 チャンスを見逃さなかったのは、クライスさんだった。曲刀のように伸びた爪を伸ばして、鋼すら通さないブルーバットベアーの毛皮を切り裂く。騎士団、アプラスさん、クライスさんの活躍で一気に危機を脱した。


「ルーシェル、行くがよい」


 呆然とする僕に、ロラン王子が声をかけた。


「いいんです、王子」


「かまわん。クライスと余でなんとかする」


 王子が言い切ると、横でクライスさんは頭を下げた。


「私もいますよ」


 アプラスさんが僕の頭に手を置く。


「本来、生徒を守るのは教師の務めですからね」


「ボクも頑張るよ、ルーシェル。だから、リーリスとユランを助けに行って」


 最後にレーネルが両拳をぐっと握った。


「ありがとうございます、ロラン王子、クライスさん、アプラスさん。それとレーネルも。僕、行きますね」


「おう。行って来い」


 ロラン王子は僕の背中を叩く。

 【浮遊】の魔法で浮かび上がると、僕はあることに気づいた。


「そうだ。農園に念のため【結界】を張っておきますね」


 僕は手をかざし、【結界】の魔法をかける。

 白いヴェールのような【結界】が、農園全体を包んだ。


「じゃあ、行ってきます!」


 そのまま猛スピードで僕は講堂に向かった。






 ルーシェルを見送ったロラン王子は、おもむろに【結界】を叩く。すると金属のような硬質な音が返ってくる。ロラン王子は叩いた手を思わずプラプラと手を振った。そして農園全体を包んだ巨大な【結界】を見渡す。


「ルーシェルの奴、よっぽどテンパってたな。最初から【結界】を張っておけば良かったではないか? 奴もまだまだだな」


「王子、それがルーシェルくんの魅力だと思います」


「深い知識と、大きな力を持ちながら、その知能、精神性はまだ子どもということか。確かにそれがルーシェルの魅力なのだろうな」


 ロラン王子はルーシェルが消えた校舎の方を見つめるのだった。



 ◆◇◆◇◆



「まったく……。倒しても倒しても出てきおるわ」


 ユランは講堂に入り込んだブルーバットベアーをなぎ倒しながらため息を吐く。

 その背後の壇上には演劇を行う生徒、さらに劇を見に集まっていた観客たちがいる。

 劇が始まる前だったので観客も、集まっていた生徒の数も少ない。

 しかし、ブルーバットベアーに唯一の出入り口をおさえられてしまい、身動きが取れなくなっていた。


 演劇組にはさらに不運が重なる。

 ブルーバットベアーに対抗するためのヴァンパイアキラーを半数の生徒が持っていなかったのだ。原因は演劇をするために、制服から衣装に着替えたことだった。半数の生徒がうっかり制服に入れたままにしてしまい、ヴァンパイアキラーを飲むことができなかったのである。加えて、ここには元々ヴァンパイアキラーを持っていなかった観客もいる。

 加えて、ブルーバットベアーは暗い場所を好む。日陰を求めて、どんどん講堂にやってきている状態だった。


 結果、演劇組はブルーバットベアーに襲撃され続けていた。


「我の真なる姿を見せれば、こやつらなど1発なのに」


「ダメです、ユラン。ホワイトドラゴンになったら、講堂ごと崩れてしまいます」


 段々面倒くさくなったユランを、リーリスが引き留める。

 ユランは唇を尖らせた。


「むぅ。ややこしいことだ」


「でも、講堂を崩すのはいい案かも」


「何か言ったか、リーリス」


「ユラン、講堂の壁に穴を開けて」


「む? いいのか?」


「あとでわたしも一緒に謝ります」


「よーし。任せよ」


 ユランはぐるぐると肩を回すと、大きく振りかぶった。

 爆発音に似た音にブルーバットベアーはおろか、生徒や観客たちが驚く。

 次の瞬間、暗い講堂に差し込んだのは、明るい光だ。

 急な光に、ブルーバットベアーの動きが止まる。

 その時、発案者であるリーリスが見逃さなかった。


「みなさん、あの穴から逃げてください!」


 大声を張りあげる。

 久方ぶりに吸う新鮮な空気に気付き、生徒や観客は顔を上げた。

 リーリスの言葉に従うと、一気になだれ込む。

 その間もブルーバットベアーは襲いかかってくるのだが……。


「お前らの相手は我じゃ!!」


 ユランがペロリと舌を舐める。

 久しぶりに大っぴらに暴れるからだろう。

 周囲が恐怖に顔を引きつらせる中、ユランだけは嬉しそうだった。

 抑圧されていた感情を爆発させるように、迫ってくるブルーバットベアーたちを千切っては投げ、千切っては投げていく。


「みなさん、こっちです」


 ユランが魔獣の相手をしている間にリーリスが、観客と生徒の誘導をする。

 だが、外に出たところで危険であることは代わりない。

 戦場の空気はリーリスたちを竦ませた。


「リーリス様!」


 声を上げたのは、リチルだ。

 側にはミルディもいる。

 助かった、とリーリスは胸をなでおろした。


「こちらです」


「あたしたちについてきて」


 ミルディが先導し、避難先になっている農園を目指す。

 駆け足で走っていると、1人の女子生徒が転んだ。

 演劇でヒロインのお姫様役を演じていた生徒だった。

 それを見て、リーリスは逆走し、女子生徒を抱き起こす。

 とった手は震えていた。


「大丈夫。赤い実は食べた?」


 リーリスの質問に女子生徒は首を振る。

 すると、リーリスは自分のポケットから赤い実を取り出す。


「これを食べて」


「大丈夫。さあ、立ってください」


 リーリスは女子生徒と一緒に立ち上がる。


 逃げようとした時、再び空が暗くなった。

 ぽっかりと開いた穴からブルーバットベアーが落ちてくる。

 ちょうどリーリスの前に轟音とともに立ちはだかった。


「「リーリス様!」」


 ミルディとリチルが間に入ろうとしたけど、遅い。

 ブルーバットベアーの凶爪が今まさにリーリスの頭に振り下ろされようとしていた。

 すると、リーリスは奇妙な行動をとる。

 あとで振り返っても、どうして自分がそんなことをしようと思ったのかわからない。

 ただ側にいる女の子を守ろうとしただけなのだが、ついぞ理由が理解できなかった。


 リーリスはブルーバットベアーの爪を止めようと、手を掲げたのだ。


 ドンッ!


 身が凍えるような轟音が鳴り響く。

 ぺしゃんこになっていてもおかしくないのに、リーリスは生きていた。

 それどころかブルーバットベアーの手を、小さな手で止めていたのだ。


「り、リーリス様」


「リーリス様、すごい?」


「これは一体? あっ――――」


 リーリスに身に覚えがあった。

 1年半以上、リーリスはルーシェルの魔獣食をいくつも食べてきた。

 ルーシェルが言っていたが、魔獣食の中には自身の身体能力を上昇させたり、スキルを獲得したりするものがあるという。実際リーリスもいくつかスキルや魔法を獲得した。

 ついにはブルーバットベアーの一撃を受け止めるだけの身体能力を、リーリスはこれまで食べた魔獣から獲得したのである。


「もしかしたら……」


 リーリスは何か確証を得たのだろう。

 さらにブルーバットベアーの腕をとる。

 小さな手はグッと巨大な魔獣を持ち上げてしまった。


「り、リーリス様」


「あわわわわ……」


 これにはリチルもミルディも驚く。

 生徒や観客たちも目を丸くしていた。


 リーリスはそのままブルーバットベアーを投げ飛ばす。

 そのまま地面に叩きつけた。魔晶化には至らないものの、強烈な一撃にブルーバットベアーは目を回す。


「すごい、リーリス様」


「でも、いいのかしら」


「なんでいいじゃん」


「リーリス様は公爵令嬢なのよ、ミルディ」


「あっ!」


 ミルディは耳と尻尾を立てて、相棒の話の真意を理解する。

 「ふぅ」と額の汗を拭うリーリスを見つめるのだった。


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