第226話 思い出を残したい
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「我らだけで爆弾をさが――――」
思わず叫びそうになったユランの口を無理矢理押さえたのは、僕とリーリスだった。
でも、ユランが驚くのも無理はない。【移声】の効果が付いた魔導具越しに聞いたロラン王子の話は、あまり荒唐無稽な話だったからだ。学校に爆弾が仕掛けられただけでも大事なのに、ロラン王子は僕たちだけで探そうという。しかも爆弾は今から1時間50分後に爆発する可能性がある。
僕だって、話を聞いた時には目眩がしたほどだ。避難を優先すべきじゃないかと考えたけど、ロラン王子の言う通り、その場合反獣人派が何をしでかすかわからない。パニックになれば、さらに被害者が出るかもしれない。ここには子どもがいっぱいいるから尚更だ。
それにこういう事態になることは、予想していなかったわけじゃない。
「わかりました。僕たちだけで探しましょう」
「ルーシェル、レティヴィア騎士団にだけ応援を頼んではどうでしょうか?」
リーリスは提案する。
しかし、僕は即座に否定した。
確かにフレッティさんに手伝ってもらえるのは、心強いけど……。
「騎士団が動けば、きっと反獣人派も何らかのアクションを起こすと思うんだ」
『ルーシェルの言うとおりだな。大人が慌ただしく動けば、反獣人派に勘づかれる可能性がある』
「でも、子どもならわからない。ホストは僕たち子どもだ。遊び回っているのか、あるいは催しの用意をしていると見られると思う」
かといって、何百人という子どもを動かせば、それはそれで反獣人派も怪しむだろう。逆に子どもを捕まえて、人質にする危険性だってある。
『そこで我々の出番というわけだ』
たしかに子ども祭の実行メンバーだけなら怪しまれないだろう。
「おい。我とリーリスはこの後舞台があるぞ。それはどうするんだ?」
最初は興奮していたユランだけど、冷静さを取り戻したらしい。いつもプリプリ怒ってるユランだけど、こういう荒事になった時、妙に的確な判断をしてくれる。これって年の功というヤツなんだろうか。
『逆に僥倖だ。舞台や講堂に設置した可能性も考えられる。演じながら探すのは難しいと思うが、今怪しまれず舞台に入ることができるのは、リーリスとユランしかいない』
「なるほどな。リーリス、我らは講堂に行くぞ」
「えっと……。でも――――」
リーリスは僕の方を向く。
その反応を見て、目を細めたのはユランだった。
「リーリス……。お前、まだ……」
「リーリス、どうしたの?」
「え? あ、いや……。べ、別になんでもないです。い、行きましょう、ユラン! お化粧をし直さないと!」
「あ。こら! ちょっと!!」
リーリスはユランの背中を押して、講堂の方へと走っていく。
何だったんだろうか。
妙にリーリスの顔が赤くなっていたような気がしたけど。
『ごほん! 話をしていいか?』
「すみません、ロラン王子」
ロラン王子は爆弾が設置されていると思われる大まかな場所を指示する。それを聞いて、僕は腕を組んだ。子ども楽団のコンサートは講堂ではなく、中庭に併設されている屋外テラスで行われる。問題は中庭と合わせて、かなり広いということだ。加えて仮のコンサートホールを設置中で、たくさんの資材が積まれている。
『うーん。あの広さを少ない人数で手分けして探すのは難しいかも……』
僕と同じ意見だったのは、レーネルだった。側にはナーエルとシャイロもいるようだ。
「爆弾を探すより、この祭りに紛れ込んでいる反獣人派の人を捜して、爆弾の場所を教えてもらう方が早いかもしれない」
『それができたら苦労しないぞ』
「王子、この子ども祭は子どもの祭りです。大人よりも子どもの方が多い。それに参加者のほとんどが親族です」
『そっか。子ども連れじゃない大人を捜せばいいんだ』
魔導具ごしにナーエルがポンと手を打つのがわかった。
「その通り。今回の祭りでは、子ども連れではない大人はかなり目立ちます」
『もしかしたら不審者として騎士団に報告されている可能性もありますね。ぼくは騎士団の本部に行って、そういう情報がないか調べてきましょう』
積極的に提案したのは、シャイロだ。
早速とばかりに本部へと向かっていく足音が聞こえた。
『よし。あとの者は爆弾を探そう。余は北側、ルーシェルは東。レーネルとナーエルは南と西側を頼む』
「「「わかりました」」」
『いいか。絶対に無理をするな。変なヤツを見たら、とにかく叫んで、騒ぎを起こせ』
『騒ぎを起こしたら、反獣人派にバレるんじゃ』
『人命優先だ。ルーシェルはともかく、レーネル、油断するなよ。ナーエルを守ってやれ』
『……うん。わかってます』
言葉しか聞こえてこなかったけど、レーネルの覚悟がわかる。きっといつかのブルーバットベアーのことを思い出しているに違いない。
「あ。そうだ。みんなに緊急用にいくつか種を渡したよね」
『あ。そう言えば……』
「その青の種を飲んでみて」
『青だな』
魔導具の向こうで、実行メンバーたちが喉を鳴らす音が聞こえる。
『おお。これは……』
『なんか人が見やすくなったというか』
『不思議な感じです』
「みんなが飲み込んだのは、ソクワヌ草の種だよ。気配を敏感に感じられやすくなるはず。捜し物は見つける時に最適なんだ」
『面白い! 背後にいる人の数を見なくてもわかる感じだな』
こんな状況でもロラン王子が楽しんでいた。
学校の鐘が鳴る。
本来この鐘は、1日の最後のホームルームを告げる鐘だ。これが鳴ったということは、もうすぐ陽が沈み、夕方が始まるということ。同時に子ども祭の目玉トワイライトコンサートまで1時間半を切ったということになる。
『ここが余たちの踏ん張りどころだぞ』
『絶対お祭りを成功させよ!』
『うん!』
魔導具越しに、僕たちは一致団結する。
ジーマ子ども祭りは子どものお祭りだ。
最後の最後に大人たちを主役にするわけにはいかない。
それが悪者なら尚更だ。
国王様の褒賞とかよりも、僕はみんなとの思い出を残したい。
それが300年生きるルーシェル・ハウ・トリスタンではなく、5歳のルーシェル・グラン・レティヴィアからやり直そうと提案したクラヴィス父上の望みでもある。
そのためなら誰にも邪魔をさせない!