第22話 もう嘘はつけない
「頑張ったな……」
思いも寄らない労いの言葉。
だけど、僕はそれよりもクラヴィスさんの穏やかな口調と顔から目を離せない。
一瞬……。ほんの一瞬だけど、父上に褒められたような気がしたからだ。
そんなことはあり得ないのに。
僕が惚けていると、拍手が聞こえてきた。
見ると、カリムさんやフレッティさん、ガーナーさんやミルディさん、リチルさんも口を開けて驚いている。
あの少女はどうかと言えば、青い瞳を丸くして少し興奮した様子で手を叩いていた。
ただ1人戸惑っていたのは、僕だけだ。
「魔晶化させずに、魔獣の一部を取るとは……。しかも、魔晶化の理論解明まで終わっている。すごい才能だ」
「正直に言って、信じられませんが……」
カリムさんは少し顔を曇らせる。
「ああ……。だが、ルーシェル君は実演してみせた。それが確かな証拠と言えるのだろう。それに帰って検証すれば、明らかになることだ」
「すみません。今まで黙っていて」
僕が項垂れると、クラヴィスさんは頭を振った。
「ルーシェル君が生きるために発見した技術だ。それに君が良かれと思ってしてくれたことだろう。驚きこそすれ、咎めはせん。それにだ。カリム以外には黙っておったのだが、我々は君がミルディやリチルに食べさせたものが、スライムの一部であることは知っておったのだよ」
「え?」
「ええええええ!!」
一際大きな声を上げたのは、ミルディさんだった。クラヴィスさんの言う通り、何も聞かされていなかったらしい。
「あの……。クラヴィスさん、あなた方は一体どういう方々なのですか? 随分と魔獣に詳しいように思うのですが……」
魔晶化することや、消滅のことは一般的に知られていることだけど、クラヴィスさんたちの落ち着きようは、僕の目から見ても一種異様だ。
僕のように魔獣が生活の一部ではないと纏うことができない空気を持っているように思えた。
「なるほど。君は本当に頭がいいな。……レティヴィア家は武門というよりは、どちらかというと学問によって王の寵愛を受けてきた家柄でな」
「学問……?」
「我々は魔獣の研究をしておるのだ」
「魔獣の研究??」
「ああ……。魔獣がどこで生まれ、どのような行動を取り、そして死んでいくのか。その生態を調べておる」
魔獣の生態……。
なるほど。そう言えば、300年山にいるけど、魔獣がどうやって生み出されるのか、考えもしなかった。
当然、そこにあるものだったし、僕が興味あるのは、食べれる部位やその効能、あるいは調理の仕方だった。
貴族の中に――それも公爵家が、魔獣の研究をしてるなんて、ちょっと驚きだ。
「スライムが飴として、フレッティたちに付与した【炎耐性】は違う魔獣だろう。ということは、他の魔獣にも魔晶化を防ぎ、その肉や一部をそぎ取る方法があるということだな」
クラヴィスさんは顎髭をさする。
さすがは魔獣の研究者だ。
そこまでもう考えが及んでいるなんて。
「はい。その通りです。フレッティさんたちには、獄烙鳥の肉を食べていただきました」
「「「ご……獄烙鳥!!」」」
フレッティさんたちが声を上げる。
寡黙なガーナーさんも、眉を大きく跳ね上げた。
「なるほど。火山より生まれ出るという――かの火鳥の魔獣か。確かに、その肉を食べれば炎への耐性が付きそうだが」
「ご、ごめんなさい」
僕は頭を下げた。
「何故、謝る?」
「その……勝手に魔獣の料理を食べさせてしまって」
「別に気に病むことではない。むしろルーシェル君のおかげで、私の騎士が命拾いした。ん? そう言えば、フレッティ。頭領が炎の魔剣を使うと、彼に教えたのか?」
「いえ。私は何も……」
「まさか――――」
僕の方を見つめる。
カリムさんは僕の頭に手を置いた。
「失礼するよ」
青い目が閃く。
鑑定魔法を起動したのだ。
【透視】【軍歌凱旋】【浮遊】【気配探知】【竜火猛煌】【構造分析】【気配遮断】【風弾】【炎弾】【水弾】【土弾】【雷弾】【光弾】【闇弾】【炎槍】【風槍】【水斬】【土槍】【雷槍】【光槍】【闇槍】【炎斬】【風斬】【水斬】【土斬】【雷斬】【光斬】【闇斬】【暴風】【吹雪】【凍てつく息】【焼け付く息】【麻痺耐性】【麻痺無効】【炎息】【魅了】【魅了耐性】【石化】【石化耐性】【技術全体化】【眠歌】【眠り耐性】【魔法耐性】【魔法吸収】【魔力制御】【魔力精密精度】【自動回復】【自動大回復】【自動魔力回復】【自動魔力大回復】【不死】【炎爆撃】【風爆撃】【水爆撃】【雷爆撃】【聖光撃】【闇の衣】【波動】【凍てつく波動】【衝撃耐性】【衝撃吸収】【落下耐性】【落下無効】【毒】【猛毒】【毒耐性】【毒無効】【毒吸収】【猛毒耐性】【猛毒無効】【猛毒吸収】【死への秒読み】【即死の魔眼】【即死耐性】【即死無効】【魔眼耐性】【魔眼無効】【魔眼返し】【大地撃】【大地震】【装備重量軽減】【装備重量無効】【回復】【大回復】【天使の祈り】【蘇生】【大蘇生】【酸弾】【酸耐性】【酸無効】【酸吸収】【腐食弾】【腐食撃】【腐食耐性】【腐食無効】【状態異常軽減】【状態異常耐性】【状態異常無効】【状態異常吸収】【痛み軽減】【痛覚遮断】【斬撃強化】【刺突強化】【弓術強化】【短剣術強化】【斬撃耐性】【刺突耐性】【狙撃強化】【連撃強化】【見切り】【鑑定】【空間移動】【解錠】【封印】【回避強化】【運強化】【俊敏性強化】【鍛冶術】【魔剣の作り手】【神剣の職人】【薬の知識】【薬の学者】【薬の賢者】【鋼の心】【使役】【傀儡】【支配】【竜特攻】【人型特攻】【巨人特攻】【巨獣特攻】【スリップ】【時間停止】【時の砂】【竜王の巣】【天雷】【召喚】【魔物召喚】【精霊召喚】【神獣召喚】【神竜召喚】【予見】【予知】【体術強化】【拳の達人】【蹴りの達人】【寝技の達人】【錬金】【創造】【分子分解】【炎耐性】【炎能力強化】【炎属性付与】【炎属性無効】【炎属性吸収】【風耐性】【風能力強化】【風属性付与】【風属性無効】【風属性吸収】【水耐性】【水能力強化】【水属性付与】【水属性無効】【水属性吸収】【土耐性】【土能力強化】【土属性付与】【土属性無効】【土属性吸収】【雷耐性】【雷能力強化】【雷属性付与】【雷属性無効】【雷属性吸収】【金属性破壊】【金属性支配】【光耐性】【光能力強化】【光属性付与】【光属性無効】【光属性吸収】【闇耐性】【闇能力強化】【闇属性付与】【闇属性無効】【闇属性吸収】【二重魔法】【二重魔法付与】【重力50】【重力100】【重力耐性】【高重力耐性】【竜変化】【二刀流補正】【熱耐性】【熱無効】【熱吸収】【冷気耐性】【冷気無効】【冷気吸収】【恐怖耐性】【精神――――。
そこでカリムは見るのをやめて、そっと鑑定魔法を閉じた。
「どうであった、カリム?」
クラヴィスさんは尋ねる。
カリムさんはやや意味深な笑みを浮かべた後、軽く首を振った。
「恐らく彼は、この場にいる誰よりも強いと思います」
一瞬音を伝える空気がなくなったかのような静寂が落ちた。
カリムさんの言葉を聞き、息を飲まなかったものはいない。
みんなが僕を見て、再び目を丸くしていた。
しばし、僕にとって重い空気が流れる。
今すぐ逃げ出したい気分だったけど、その直前にクラヴィスさんは口を開いた。
「なるほど。そなたが魔獣がひしめく山で生きてこられたのも、これで合点がいった」
クラヴィスさんの言葉に、フレッティさんは頷く。
「ルーシェル君、もしかして野盗たちを眠らせたのは君の仕業か?」
その質問についても、僕は素直に頷いた。
もうここに来て、嘘は吐きたくない。
洗いざらい喋った上で、山へ帰ろう。そしてまた山での生活を続けるのだと心に誓う。
そして今後2度と、余所の人には関わらないと決めた。
僕は麓にいた野盗を排除したこと、野盗のアジトを偵察したこと。そこで魔剣を見たことを話した。
そして、最後に決定的な言葉を付け加える。
「3年というのは嘘です。僕はもうかれこれ、300年山で暮らしています」
多分例大人気の蜘蛛さんとかは、このスキル以上を持ってるんだろうなあ……。
本日も2話投稿です。
よろしくお願いします。








