表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
226/284

第221話 商言葉

昨日発売!

「ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~」の第1巻をよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 僕の話を聞いて、家族は全員呆然としていた。クラヴィス父上は口を開け、ソフィーニ母上の顔は真っ青になっている。カリム兄様はやれやれと肩を竦め、ユランは「いつものことだ」というふうに腕を来無。

 リーリスは「嘘」とばかりに口を覆っていた。


 みんな、ちょっとオーバーなリアクションだ。


「どこかに出かけていたのは知っていたが、まさか『蛸』を取りに行っていたとは……」


「それで蛸は捕れたのかい?」


 カリム兄様は興味津々だ。

 蛸は魔獣ではないけど、クラヴィス父上と同じく学者の血が騒ぐのだろう。

 そんな兄様を母上がたしなめる。


「カリム……! ルーシェル、怪我はしなかったの?」


「大丈夫ですよ。むしろ楽しかったです」


「楽しかった?」


「はい。南の方では一般的に蛸を食べていました。特に伝統的な漁法が面白くて、素焼きの壺を海底に沈めておくだけなんです。蛸は天敵の少ない岩場の隙間や海底にできた穴などを好みます。その習性を利用する素晴らしい漁法なんです」


 件の屋台に向かいながら、僕は蛸壺漁の素晴らしさを説く。ソフィーニ母上をはじめ、家族みんなが物珍しそうに聞いていた。

 この辺りというか、一般的に『蛸』は食べるどころか、恐ろしい生物だと思われている。中には巨大な蛸がいて、大きな船を沈めてしまうという言い伝えすらあるほどだ。

 後で調べてわかったけれど、『蛸』を海神の化身と崇める国もあるらしい。


 それだけ『蛸』は畏怖の象徴なのだろう。


 それを捕るどころか、今から食べようとするなんて、僕の家族からすれば前代未聞の出来事なのだ。しかも、子どもが主催する祭りの屋台に出ているというから驚きだろう。


「おお! いい匂いがしてきたぞ」


 初めに反応したのはユランだった。

 屋台には様々な料理が並んでいるけど、まるでユランは蜜を探す蝶のようにユラユラと誘われていく。

 家族と一緒に追いかけると、そこは件の屋台だった。


 構えこそ一般的な屋台だが、目を引くのは見たことのない鉄板だろ。

 そこには丸い凹みがいくつも並んでいた。


「これがルーシェルが言っていた屋台か」


「そうです、父上。これがたこ焼きの屋台ですよ」


「ふむ。話に聞いていたから何となく使い方はわかるが、鉄板にあらかじめ凹みを開けるとはな。しかし、型に流し込む方法もあったのではないか?」


 クラヴィス父上がもっともな意見を言う。

 すると反論は僕ではなく、店の奥から聞こえてきた。


「それは型を2つ使(つこ)うたら、型の代金がもう1つかかるやろ? それにこのたこ焼きの作り方にもちゃんと理由があるんやで」


 思わずギョッとするようなキツい訛りに、家族は型を2つ使わないこと以上に驚いていた。

 訛りの主は僕より背の高い女の子だ。

 2つお団子に結んだ黒い髪。健康的な褐色の肌。愛想のいい糸目をこちらに向けて、愛嬌を振りまいている。


 その女の子に先に話しかけたのは、カリム兄様だった。


「ず、随分古い商言葉を知ってるんだね、君は」


「お兄さん、これが古い商言葉やって知ってるなんて、博識やね」


 商言葉とは商人の間で使う言葉なのだそうで、今はあまり使われていない。それを操る女の子には驚きだけれど、知っているカリム兄様の知識量には驚きを禁じ得ない。


「それにかっこいいし。よっしゃ! たこ焼き1つおまけしたろ」


「それは有り難いけど……。僕はまだ食べるとは決めてないよ」


「そんなイケずなこと言わんといてください、お兄さん! わかった。ならたこ焼き2つでどうや?」


 あくまでカリム兄様にたこ焼きを買ってほしいようだ。商魂たくましいな。

 まあ、だから屋台を任せたんだけどね。


「ご紹介します。たこ焼きの屋台を任せているカナリア・ギル・カンサイベーンさんです」


「ああ。カンサイベーン侯爵のご令嬢か」


 カンサイベーン侯爵家はミルデガード王国の南の地を統べる大貴族だ。北のレティヴィア家、中央のハウスタン家、そして南のカンサイベーン家と比べられるほど、力を持っている。ただ当主は王宮の権威にまったく興味を示さず、自ら大商会の頭取となって、ミルデガード王国の経済を支えている。


 カナリアはその侯爵家のご令嬢だ。


「なんや頭取の家族かいな」


「頭取?」


 カナリアが僕を「頭取」と呼ぶのを聞いて、ソフィーニ母上は首を傾げる。


「カナリア、その呼び方はやめてって言ったでしょ。家族が混乱するじゃないか?」


「ええやないですか? 頭取は頭取なんですから」


 カナリアは悪びれることなく「頭取」を連発する。

 後ろでクラヴィス父上と、カリム兄様がふき出していた。


「子ども祭なんておもろいイベントを考えついたのは、頭取やないですか? それにこのたこ焼きもめっちゃおもろい! 絶対売れまっせ!」


「それならロラン王子がいるじゃないか」


「王子は会頭でんな」


 カナリアは屈託のない笑みを見せる。

 どうやら説得は無駄のようだ。


「それでたこ焼きの売り上げはどうなんだい?」


「…………」


「カナリア?」


 何故か急に黙り込んでしまった。

 あれ? なんとなく察していたけど、もしかしてカナリアが落ち込むぐらい売り上げが悪いのだろうか?


「ルーシェル。カナリアさん、さっきからなんかこちらを見て目配せしてますけど?」


 リーリスがカナリアの様子を見て、首を傾げている。ホントだ。なんか瞼を大きく開いたり、瞬いたり、あるいは口を動かしたりしている。


 あ。なんか今察した。

 まさかあの教えてもらった言葉を使えってことかな。


「も、もうかりまっか?」


「ボチボチでんなあ。……いやあ、やっと言えたわ。おおきに、頭取。学校に入ってからこのやり取りができんくて、口がモゾモゾしてたんや」


「そ、そう……。それよりボチボチってことは、結構売れてるの?」


「そりゃ爆売れって言いたいとこやけど」


「何個売れたの?」


 次第にトーンダウンしていくカナリアの様子を見て、僕は恐る恐る尋ねた。


 すると、カナリアは指一本立てる。


「1つしか売れてないの??」


「いや、1つも売れてない」


「だぁぁぁあ!」


 思わず家族と一緒にずっこけてしまった。

 あまり僕たち家族をからかわないでほしい。


 今はもう昼だ。昼食代わりに屋台のご飯を食べようとしているお客も多い中、まだ1つも売れていないのは、さすがに予想外だった。


「おいしいんやけどなあ」


 カナリアさんは冷め切ったたこ焼きを、パクリと一口食べる。


「元気出してよ。注文するからさ」


「おおきに! 頭取もサービスするさかい」


「その代わり、出来立てを頼むよ」


「まかしとき! 世界一おいしいたこ焼きを作ったるさかい。そこで待っときや!」


 カナリアはねじり鉢巻きを締め、気合いを入れ直す。特製の生地を流し込むと、熱々の鉄板の上からふわりと湯気が上がった。


 香ばしい匂いに期待がわき上がる。


 ついにこの後、僕の家族はたこ焼きの全貌を見ることになるのだった。


☆★☆★ 6月新刊 ☆★☆★


6月14日発売!!

「ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~1」

【レーベル】 サーガフォレスト

【イラスト】 松うに(『チート薬師のスローライフ』他)

最強の大賢者の記憶を思い出した転生者の異世界無双譚!!


挿絵(By みてみん)


6月25日発売!!

「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」1巻

レーベルはブレイブ文庫!!

イラストレーターはふつー先生です。

回復魔術を極めたい魔王様は、聖女に転生し、聖女の訓練校で大暴れをするお話になります。こちらもご予約お願いします。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ