第217話 開催宣言
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◆◇◆◇◆ 暗躍する者たち ◆◇◆◇◆
暗い室内に20人ほどの男女が集まっていた。それぞれ頭からフードを被り、足首まで覆うローブで身体を隠している。それぞれの顔を確認するには、近づかなければならないような状態だ。
如何にも怪しい男女が話し合っていたのは、今ルーシェルやロランたちが進めているジーマ子ども祭のことだった。
「子どもによる、子どものための祭りだと」
その聞いたこともない祭りの趣旨を聞いて、1人の男が険しい表情を浮かべる。前代未聞の祭りに、他の者たちの表情も同じく渋いものだった。
しかし、彼らの議論はそこではない。
「そこに剣王の娘が参加している」
「A班が仕留め損なった娘だな」
彼らは、人の世界の中で生きる獣人を排斥しようとする者たちだ。世間では彼らのことを反獣人派と呼んでいる。
300年前、人間と獣人はいがみ合い、大規模な戦争に発展することもあった。聖霊教の入信と、魔族という新たな敵の登場で、その関係性は改善していったが、未だに彼らを忌避する者たちは反獣人派を含めて少なくない。
「祭りというなら一般の人間も学校に入ることができるな」
ジーマ初等学校は貴族の学校だけあって、入校する人間を厳しくチェックしている。怪しい人間が現れれば、たちまち王国の騎士団や衛兵がすっ飛んでくるようになっていた。
「はい。剣王も参加するとのことです」
「娘ともども剣王を暗殺するチャンスだな」
「無辜の人族を巻き込むことになるやもしれませんぞ
「多少の犠牲は仕方あるまい。この絶好の機会、逃す手はないぞ、同士よ!」
猛々しく声を張りあげると、叫び声が上がる。蝋燭の明かりしかない暗がりの中で、腕を掲げた男女の姿はまさしく遠吠えをする野良犬のようであった。
決起する反獣人派たちの姿を遠巻きに見ている1人の女性がいた。さっと影に紛れると、集まりの中からひっそりと出ていく。
集合場所となった下町の廃墟から出ると、女性は目深にかぶったフードを取る。現れたのは、クライスだ。ロランの側近である。
「王子に報告しなければ……」
黒狼族という獣人である彼女は、黒毛の狼となり、夜の闇に紛れるのであった。
◆◇◆◇◆
「いよいよだね」
開会宣言をするために舞台袖に、僕たちは集まっていた。緊張というよりは、委員会のメンバーの表情には疲れが見える。今日に至るまで本当に大変だった。こうやって開会宣言ができるのが、半分夢じゃないかと思えるぐらいにだ。
「みんな、ありがとうね。僕の思い尽きに付き合ってくれて」
みんなの方を向いて、頭を下げる。
「何を言う。お前の思いつき程度なら、ここまで付き合わなかった。それに元々余がやり始めたことだぞ。サラッとお前の手柄にするな、ルーシェル」
「す、すみません、王子。そういうつもりじゃ」
「ロラン王子の言う通りだよ、ルーシェル」
王子の意見に、レーネルも賛同する。
「ボクたちはお祭りの魅力に惹かれて協力するって決めたんだからね」
「成功させましょうね、ルーシェルさん」
ナーエルも両拳を握った。
その後ろで寡黙なカルゴさんも励ますように頷いていた。
「ありがとう。ユランとリーリスも」
「お前の無茶はいつものことじゃ」
「とっても楽しかったですよ」
ユランは急に怒り始めたけど、満更でもなかったらしい。リーリスの笑顔はいつも100点満点だ。
「こらこら。お楽しみはこれからだぞ、リーリス」
「そうだね。僕たちもお祭りを楽しもう、リーリス」
「はい!」
歯切れのいい応答が返ってくる。
「そういえば、リーリス。今さらだけど後夜祭の問題は大丈夫なの?」
「問題? ……いえ。それはそういうことじゃなくて」
「じゃあ……」
「時間だ。行くぞ。余について参れ」
ロラン王子が舞台袖から飛び出していく。
そこにレーネル、カルゴさんがナーエルに押されるように壇上に上がった。さらにユランが胸を反らしながら前に出る。
みんな元気だ。舞台袖で疲れていたように見えたのは、もしかして僕の気のせいだったかもしれない。
「行きましょう、ルーシェル」
「え? うん」
僕はリーリスに手を引かれ、壇上に上った。
半年前と同様、全校生徒が講堂に集まっている。その時と違うのは、どの生徒の顔も輝いていることだ。みんな、今か今かと開催宣言を待っていた。
「さて、誰が言う?」
「え? 決めてなかったんですか? 僕はロラン王子が言うものとばかり」
「こういう時だけ、余が喋ってばかりいるのは、どうも心苦しく感じてな。ほら。誰かやれ」
「なら、ルーシェルじゃない?」
「え? ぼ、僕?」
唐突なトラブルが発生して、開会宣言の押し合いが始まる。まさかロラン王子が辞退するとは思ってもみなかった。
役目を押し付け合う僕たちを尻目にして、銀髪の少女が壇上の縁に立った。小さな身体を目一杯そらし、大きく息を吸い込む。
そして竜のブレスもかくやという大声を張りあげた。
「これよりジーマ子ども祭を開催する!!」
銅鑼のように響いた声を聞き、生徒たちは沸騰した。同時に花火が上がり、急遽組織された楽団によるファンファーレが鳴り響く。
生徒たちはそれを聞きながら、自分たちの持ち場へと散っていった。壇上では早速、演劇の準備が始まる。
「ははっ……。まだ耳がキィーンとするよ」
こうして波乱のジーマ子ども祭が幕を開けたのだった。