表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/283

第216話 鍛冶屋見学

☆★☆★ 第4巻 好評発売中 ☆★☆★


発売から1週間経ちました。

まだネット書店を中心に在庫がありますので、

是非ご利用ください。よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 ジーマ子ども祭が近づく中、僕は相変わらず慌ただしい日々を送っていた。


 ロラン王子やリーリスはお祭りの配置や警備など全体を担当している一方、僕はお祭りで出す料理や、屋台の建築の指導などを行っている。これにプラスして農園の管理などもしているから、大忙しだ。


 クラヴィス父上やソフィーニ母上は忙しそうにしている息子を見て、倒れないか心配しているけど、僕は元気だ。山で過ごしたことによって培われた体力もあるけど、とにかく祭りの準備が楽しかった。


 自分の知識を人に伝える楽しさはもちろん、時々突飛な意見をしてくる生徒たちを見ているのも面白かった。ちょっと大げさにいうと「人間と接している」という気分になってくる。多分これは魔獣だらけの山で過ごした僕なりの感覚なのだろう。魔獣は喋らないし、考えて行動することはほとんどないからね。


 それに新しい知識を得る良い機会にもなっていた。


 本日は王都にある鍛冶屋に、数名の上級生とともに訪れている。ジーマ子ども祭で販売する鍋や食器を作るためだ。


「おう。お前ら、よくきたな!」


 ここの店主はナーエルのお父さんの知り合いで、腕利きの鍛冶師だ。何でも一時王家にも製品を卸していたこともあるらしい。大きな声と豪快な挨拶に、初めは生徒たちは戸惑っていた。貴族社会ではあまり見かけないからだろう。


 ちょっと言葉は荒っぽいけど、基本優しく、面倒見のいい店主だったので、生徒たちはすぐに懐いてしまった。


 おかげで鍛冶仕事もめきめき上達していっている。貴族の子息ばかりだけど、元々興味があったらしい。本当は剣を作りたかったけど、さすがにゾーラ夫人に止められた。包丁もしかりだ。何か不測の事態が生じた時、最終的に責任を追及されるのは鍛冶屋になってしまう。それで店主が職を失うようなことになれば、もう子ども祭をやろうという気にはならなくなるだろう。


 でも鍛冶屋で働く危険性は、作るものだけじゃない。高温の炉の近くで作業するからいつも危険とは隣合わせだ。そこで僕は火の精霊サラマンダーを呼んで、参加している生徒に一時的に「火の加護」を与えた。火や熱の耐性がついたことで、一先ず火傷する心配はなくなった。たまに指にハンマーをぶつけて悶絶する生徒もいるけど、それぐらいはご愛敬の範囲だ。


 カーン……。カーン……。カーン……。


 小気味良い音が鍛冶屋に響いている。

 最初は恐る恐る作業していたから、ハンマーを叩く音もどこか鈍い感じがした。でも半年も経てば、人は成長する。子どもならなおさらだ。


「できた!」


 1人の生徒ができあがった鉄鍋を掲げる。かなり大きな鍋だ。薄くて軽い。さすがに既製品と比べるとまだ洗練されていないけど、十分売り物になるレベルだった。


「うまいなあ。大人でもここまで立派な鉄鍋は打てないぞ。よくやったな、坊主」


 店主は生徒の頭を撫でる。炭のついた手で撫でられることに最初は忌避感があった生徒も、すっかり煤まみれになってい。もう職人の顔だ。


「どうだ。大きくなったら、うちで働かないか? お前ならいい鍛冶屋になれるぜ」


「嬉しいけど……。ぼくは家を継ぐことになるから」


「そうか。残念だ」


 店主は心底残念そうに項垂れる。


 ここに生徒のほとんどは貴族の長男だ。たいていの家は長男が家長になることが決まっている。トリスタン家もそうだった。だからヤールム父様は僕を必死に育てていた。トリスタン家を継ぐのにふさわしい次期当主にするためだ。


 これはあくまで妄想だけど、ここにいる子息たちは、本当は家長になるのではなく、自分がやりたいことやりたいと思っているのかもしれない。


 項垂れている店主を見て、生徒は手を取りこう言った。


「来年も来るよ。子ども祭で作った鍋を売りたいからさ。な?」


 生徒は振り返ると、他の生徒も笑顔で頷いた。僕も頷く。まだ来年やれるかどうかわからない。いや、やらなければならないと思う。こうやって子どもたちの笑顔を待ち望んでいる人たちのためにも。


 店主は生徒たちパクリと食うように抱きつく。そしていつも通り豪快な声を上げて、泣き始めた。


「うぉーん! ありがとな! 絶対来てくれ! 待ってるぞ!! うぉーん」


 こんな幸せな光景を見られただけでも、今回の子ども祭を実行できたのは良かったかもしれない。






 鍛冶屋での作業も今日で終わりだ。

 僕たちは店主に別れを告げる。

 馬車の荷台には、たくさんの食器や鍋が並んでいた。


「面白かったな」


「俺なんて皿を200枚作ったぞ」


「おれは210枚」


 生徒たちは学校へ戻る馬車の中で充実感を露わにしていた。


 学校に戻ると、子ども祭実行委員の部屋に戻る。ロランとナーエル、カルゴさんが必要な備品、食材に加え、それらにかかった経費の計算に追われている。僕が帰ってきたのに、こっちを見ようともしない。

 生徒の引率も大変だけど、部屋に篭もってひたすら事務をするのも大変そうだ。


「みんな、たまには空気を入れ換えたら」


 僕は部屋の窓を開ける。

 その前にロラン王子が反応した。


「ちょ! 待っ――――」


 窓を開けた途端、風が入り込む。

 すると、机に置いていた書類が風に流されてしまった。

 まるで紙吹雪のように舞うと、虚しく床に落ちる。


「しまった……」


「ルーシェルぅぅぅぅううう!」

「ルーシェルさん!」

「ルーシェルくん!」


 振り返ると、ロラン王子、ナーエル、カルゴさんが獰猛な野犬のように僕を睨み付けていた。


「ご、ごめんなさい。すぐに戻します」


「すぐに戻すって……」



【巻時】



 魔法を唱えた瞬間、その場にいたあらゆるものが5秒までの状態に巻き戻ってく。慌ててこぼしてしまったロラン王子の紅茶も、割れたカップとともに元に戻ってしまった。


「時の魔法か。こんなものまで使えるのか、お前は。相変わらずだな」


「すみません。いいよ、別に。それよりルーシェル、リーリスにはあったか?」


「授業が終わった後から、まだ……」


「そうか。鍛冶屋への引率が終わったなら、顔を出してやれ」


「実はこの後、農園に行こうと思って」


「忙しい奴だな」


「王子も人のこと言えないじゃないですか」


「まったくだ。じゃあ、レティヴィア家に戻ったら顔を合わせてやれ。何か相談したがっていたぞ」


「リーリスが? わかりました」


 何だろ?



 ◆◇◆◇◆



 農園を一回りした後、僕はレティヴィア家に戻っていた。居間を見ると、ユランがソファで眠りこけている。側には食べかけの苺ショートが置かれていた。どうやら完食せずに寝てしまったらしい。食いしん坊なユランにしては珍しいことだった。


「普段なら寝ながら食べているのに」


 ユランも僕と同じく色々動いてくれている。冒険者に引率して、魔獣の素材を集め、それを加工して、子ども祭に出品するためだ。未晶化が苦手なユランだけど、忙しい僕と代わってくれたんだ。


「お疲れ、ユラン」


 収納の中から布団を取り出し、かけてあげる。

 さて肝心のリーリスだけど、部屋にはいなかった。


「となると……。あそこかな」


 秘密の植物園へ行ってみると、リーリスを見つけた。こっちもユランと同じだ。机に突っ伏して、寝ている。リーリスも疲れているらしく、起きる気配がない。


「相談は明日かな」


 僕は部屋までリーリスを担いでいく。

 ベッドに寝かせるも、結局リーリスは起きなかった。


「おやすみ、リーリス。子ども祭、絶対に成功させようね」


「ルーシェル……」


「え?」


「こう……や…………さい……」


 なんだ、寝言か。

 起こしてしまったのかと思ったよ。


 後夜祭についての相談だったのかな。


 まあ、明日聞くことにしよう。 


☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


本日『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、 なぜか勇者と聖女の師匠になる』の更新日です。ニコニコ漫画で読むことができます。魔王ちゃんがめちゃくちゃ可愛いから絶対見てくれ!


☆★☆★ 同日発売 ☆★☆★


5月10日に同時2冊発売が決定しました。


『アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』

『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』


どっちもおっさん主人公の作品ですが、

毛色がまったく違う話となっております。

「公爵家の料理番様」4巻をお買い上げの際、一緒にご予約もしていただけると嬉しいです。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ