第21話 頑張ったな……
☆週間総合2位☆
あと、もうちょっとで1位に入れそうです。
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我が家に来てくれまいか?
クラヴィスは今、確かにこう言った。
確かレティヴィア家は公爵の家系だと言っていた。爵位の順序がこの300年間変わっていなければ、貴族の中で1番位が上のはずだ。
そんな公爵家に僕が……!
「…………」
僕が戸惑っていると、先にクラヴィスさんが口を開いた。
「難しく考えなくていい。ルーシェル君を我が家に招くのは、理由は1つ。君の力を貸してほしいからだ」
「僕の力?」
「ずばり言うぞ、ルーシェル君。君は優秀な薬師であろう。もしくは、我々の想像も付かないような薬の技術を持っているのではないか?」
「――――ッ!!」
僕は息を飲んだ。
頭の中に浮かんだ文字は、たったの3文字だ。
ばれた?
僕は計3回、フレッティさんたちに魔獣の技術を使っている。
1つ目はミルディさんの怪我。2つ目はリチルさんに魔力を供給するために与えたマジックスライム。最後は獄烙鳥を使った炎耐性だ。
ひっそりとはいえ、他人に魔獣の知識を振るったのは、これが初めて……。
慎重にこっそりと使ったつもりだったけど、何かおかしいと気付いたのかもしれない。
何より顔に出してしまった時点で、僕の負けだった。
「ど、どうしてわかったんですか?」
「ははは……。そんなのは簡単だ。君の力が凄すぎるからだよ」
クラヴィスさんは笑った。
そのクラヴィスさんの説明を引き継いだのは、カリムさんだ。まだ自己紹介してもらっていないけど、おそらくカリムさんはクラヴィスさんの子どもなのだろう。
どことなくクラヴィスさんが纏う覇気と同質のものを感じる。
「君がミルディに与えたものだが、強い鎮痛作用と再生作用があるものだと、鑑定魔法でわかった」
カリムさんは自分の目を指差す。
片目がふわりと淡く光り、中で魔法陣が輝いていた。
やっぱり鑑定魔法か。それもかなり高位のものだ。
「薬の性質上、鎮痛の作用と肉体を再生させる作用を同一に持つ薬など聞いたこともない。まして、君が与えたのは飴のようなものだったと聞く。屋敷のものに調べさせたが、そんな薬など文献にはなかった」
カリムさんはまくし立てる。
1歩ずつ確実に追い詰められていってるような気がした。
「リチルに与えたという魔力回復薬もそう。そして何より、騎士団全員が強力な炎耐性を得ているという点だ。これも君の仕業だろ?」
カリムさんはあくまで僕に優しく問いかける。
1つ間違えれば強い詰問に聞こえるけど、カリムさんも、クラヴィスさんも僕を怖がらせないように細心の注意を払っているように見えた。
泣いてる子どもをあやしながら「おうち、どこ?」って聞いてる衛兵さんみたいだ。
と言っても、騎士団を勝手に魔改造してしまった子どもに対し、警戒していないわけじゃない。
カリムさんの手は常に剣の鞘に置かれているし、クラヴィスさんは僕に近づいてから一時も目を離していない。
子どもの僕に気取られないようにしていることからも、2人が配慮していることがわかる。
やはりフレッティさんの主君だ。
きっとこの人たちも、とても優しい人なんだろう。
子ども相手に刃を抜きたくないと心底思っているはずだ。
クラヴィスさんたちなら大丈夫。
真実を明かして、とてもびっくりするかもしれないけど、嫌われるかもしれないけど……。
この人たちなら魔獣の技術のことを明かしていいように思えた。
何よりもう僕が、この人たちに嘘を吐き続けたくなかった。
「少しここで待っててくれませんか? すぐに戻ってくるので」
クラヴィスさんは横にいるカリムさんと目を合わせる。
しばし目配せした後、クラヴィスさんは頷いた。
「よかろう」
僕は一時クラヴィスさんから離れ、山の方へと戻っていく。しばし捜し物を探した後、すぐにそれを見つけて戻ってきた。
僕が地面に下ろしたのは、1匹の魔物だ。
「スライム?」
ミルディさんが首を傾げる。まだ名前も聞いていない少女はクラヴィスさんの後ろに隠れて、肩を振るわせた。
「今からちょっとした手品をご覧に入れます」
「手品??」
僕が道化師のように頭を下げると、少女に微笑みかける。
怖くない。大丈夫だよ、と目で訴えた。
おそらく魔獣を使った飴と言っても、信じてくれないだろう。
魔獣は魔晶生物……。
核となる魔石が破壊された時点で、この世から消滅する。
普通の人はそう思っているからだ。
そう。おそらくこの世でただ1人、この僕以外では……。
僕はスライムに手を伸ばす。
核に極力近づかないように動かし、アメーバ状になっている部分だけをそぎ取った。
「おお……!」
「そんな!!」
「まさか!!」
みんなが素っ頓狂な声を上げる。
少女もクラヴィスさんの後ろに隠れながら、大きく目を開いて驚いていた。
「スライムが消滅しない?」
「スライムって、そのアメーバ状のところだけなら消滅しないの?」
ミルディさんは質問する。
「いえ。そうではありません」
僕はスライムのアメーバ状の部分を爪の先だけ引っ掻いた。
すると、スライムの核――魔石が潰れ、その瞬間この世から消滅する。
「核を覆う外殻に一定のダメージを負うと、みなさんもご承知のように消滅してしまいます。また一概には言えないのですが、外殻と核の魔力を受け渡す細い管のようなものが途切れてしまうと魔石化してしまうようです。……それらに影響を及ぼさないように外殻をそぎ取れば、核が壊れる前に分離した外殻の一部はそのまま残ります」
「魔獣が生きているうちに、歯や牙、あるいは鱗を取るとそのまま残るが、それはつまりその部分に核と外殻を繋ぐ魔力の道がないからということかな?」
カリムさんは僕の質問を聞きながら、顎に手を置いた。
「ないわけではないですが、おそらく魔力を繋ぐ道が細いんだと思います」
「人間の血管も大きいものと小さいものがある。それと同じように魔獣にも大小様々な魔力を通す管があるということか」
クラヴィスさんは1つ頷いた。
「それに近いものと思っていただいて結構です」
「あ、あのさぁ。ルーシェル君。その……もしかしてあたしやリチルにあげた飴って」
「は、はい……。大変申し上げにくいのですが、あれはスライムで作った飴なんです」
「や、やっぱり! はわわわわわわ……。あたし、魔獣の飴を食べちゃったよ」
「でも、安心して下さい。ちゃんと湯煎して、殺菌してありますから」
僕が弁解するけど、すっかり場は鎮まってしまった。
それはそうだろう。
咄嗟だったとはいえ、魔獣を人の口に入れてしまったのだ。
怒られても仕方がない。
僕はそれ以上何も言わず項垂れているとクラヴィスさんは、僕の頭に手を置いた。
「頑張ったな……」
クラヴィスさんは穏やかにそう言って、僕の頭を撫でたのだった。
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