第210話 学校祭の提案
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「学校祭?」
ジーマ初等学校の司教長を与るゾーラ夫人はかけていた眼鏡を外して、顔を上げた。手にはロラン王子、僕、リーリスの3人で作った企画書が握られている。
対面に座ったロラン王子は、組んだ足を元に戻すと立ち上がった。
「そうだ。子どもによる、子どものため学校祭を開きたい。その運営を我々が担いたいのだ」
「祭りならオーランド祭(文化祭)、秋には対校祭があるではありませんか?」
「オーランド祭はつまら――――」
いきなりとんでもない反論をしようとしたロラン王子の口を、僕は蓋をする。ややこめかみをピリつかせたゾーラ夫人を見ながら、僕は苦笑いを浮かべた。
「オーランド祭のことは調べました。戦争で焼け残った名画を集めて、それを鑑賞するというのはとても文化的な祭りだと思います。ねっ、リーリス」
「え? ええ! そうです。とっても!」
突然の僕からの振りに、リーリスは笑顔で対応する。我ながらわざとらしい笑顔だったが、一応ゾーラ夫人の機嫌は戻ったようだ。危なかった。今、夫人を怒らせたらそれこそ計画がパァだ。
「ルーシェル、余に話させろ」
「だ、大丈夫ですか?」
「ふん。こういうのは、お前より余の得意なのだ」
大丈夫かな。まあ。王子が言うなら任せてみようか。
「オーランド祭も、対校祭も確かに重要な行事であろう。しかしいくらお題目を並べても、子どもが祭りに参加させられているに過ぎない」
またゾーラ夫人の眉宇が動くのだけど、ロラン王子は構わず説明を続けた。
「余たちが提案するのは、できるかぎり子どもの手だけで運営する祭りだ。屋台を運営するのも子ども、催しを運営するのも子ども、劇を演じるのも子どもだ」
「また大それたことを……。それは生徒自治会を起こすことより難しいことですよ。そもそもあなた方の目的は生徒自治会の発足だったのではありませんか? 何故、祭りなど」
「アヴィヨル、そなたが言ったのだぞ。実績を持ってこい、と」
「それはそうですが……。あたくしが言いたいのは、殿――……ロラン、生徒自治会と祭りをやることが結び付かないと言っているのですよ」
ゾーラ夫人の疑問に、僕が答えた。
「理念は変わりません。僕たちはまず学校で起こる差別について、生徒自身が問題意識として感じてほしいと考えました。その1つのモデルとして、祭りを開くことが重要だと考えました」
「余が言うのもあれだが、ここにいる子どものほとんどが与えられて当然という家庭の中で育った。だから自分たちが毎日食べているものが、漁師が毎日海に出て取ってきた魚であったり、小作人たちが精魂込めて作った野菜であることをな」
ロラン王子の説明に、僕が付け加える。
「逆もしかりです。子どもの頃からしっかり教育を受けた貴族がいるからこそ、政治は回るし、平民たちは安心して眠れるのだと」
「余は祭りは社会の縮図だと考えている。貴族も平民も、下位の爵位も、上位の爵位もそれぞれ相互に補完しあい、社会が作られている。それを祭りを通して学ばせる。教育機関として、これほど有意義なカリキュラムはなかろう」
「そんな大それたこと……」
僕とロラン王子の説得はうまくいっていたと思うけど、ゾーラ夫人はあくまで慎重だ。けれど、今の説明だけで夫人が首を縦に振るとは僕たちも思っていない。とにかく粘り強く説得することにした。
「大それたことだからこそ、教育機関として箔が付くというものだろう。成功すれば、ジーマ初等学校の名前は絶対のものになるはず。違うか?」
「それはそうですが……」
「幸運にもこの学校には、王子である余がおり、公爵の子どもがいる。よその学校で難しくとも、余とルーシェルがいればできるはずだ。なっ! ルーシェル」
「え? あ、はい!」
「アヴィヨル、どうだ? 他校にない、前代未聞の祭りを見たいと思わぬか」
いつの間にかロラン王子の顔は、ゾーラ夫人の顔の真ん前まで迫っていた。トドメとばかりにロラン王子は和やかに笑う。妖精のように可愛げな王子を見て、ゾーラ夫人の頬ははっきり朱に染まっていた。
ゾーラ夫人は何か邪な心を払うように首を振る。やがて助けを求めるように振り返った。座っていたのは、アルテンさんだ。実は、今回は学校司祭長も加わって、僕たちの話を聞いてもらっていた。
老齢のエルフは肩を振るわせ微笑んだ。
「ほっほっほっ。面白そうじゃ。やらせてみては如何かな?」
「よろしいのですが、学校司祭長」
ゾーラ夫人は眉を顰めた。
夫人としては、断ってほしかったのかもしれない。
「前例がないというわけではない。戦争が起こる前に、似たような祭りを開催する教育機関はあった。ジーマ初等学校の前身となる学校もそうじゃ」
そうだったんだ。初めて聞いた。
「あたくしもそれは存じておりますが、子どもだけというのは?」
「むろん、子どもだけというのは難しかろう。王子たちも大人から何もかも取り上げて、一から作ろうとは思っておらんじゃろ?」
アルテンさんの優しげな瞳が僕たちに向けられる。
「余は子どもたちだけ――――もごごごご」
「いえ。アルテンさんを始め、司教長のゾーラ夫人にもご指導いただきたいと思っております」
僕は再びロラン王子の口を押さえながら言った。王子は何でもかんでも子どもだけでやりたいようだけど、大人の手も絶対に必要になるはずだ。
しかし、ゾーラ夫人にはまだ懸念点があるらしい。
「子どもたちだけの祭りは素敵なことよ。でも、子どもたちが子どもの言うことを聞くかしら。いや、あなたたちの言うことは聞くでしょうけど、結局のところあなたたちは学校全体の団結を促したいのでしょ? けれど、その中で差別は生まれないかしら。あたくしはそれが心配なのです」
「身分による差別は根深く、僕たちもそこですべての問題が解決されるとは思ってません。あくまで生徒たちには問題意識を持ってほしいんです」
「なるほど」
ゾーラ夫人は頷く。
どうやら旗色は悪くなさそうだ。
そこにロラン王子が畳み込む。
「しかし意識を持ってほしいと訴えたところで、貴族の息子どもは理解できないだろう。だからあくまで、アヴィヨルが言ったように団結を促す。これは暫定のモデルだが、クラスごとにチームを作り、催しの対抗戦を行わせるというのはどうだ?」
「なるほど。わかりやすい。人参をぶら下げ、団結する意識を持たせるということかな?」
アルテンさんがリボンの付いた髭を撫でながら、説明に感心する。
「対抗戦を制したチームには何か褒美を与えねばな」
「ジーマ初等学校の生徒のほとんどが、貴族の子息子女ですからね。並の褒美では動かないと思うのですが」
「褒美は考えてある。とっておきのな」
ロラン王子は口角を上げた。
その場にいる全員に耳を貸すように指示する。
実は僕もリーリスもまだ聞かされていなかった。
「褒美はな――――――」
声を潜めたロラン王子の言葉を聞いた瞬間、僕もリーリスも、アルテンさんやゾーラ夫人まで叫んでしまった。
「どうだ?」
「そ、それは子どもたちもやる気が出ると思いますが、本当に実現可能なのですか、殿下?」
ゾーラ夫人が確認すると、ロラン王子はドンと胸を叩いた。
「任せよ。大船に乗ったつもりでな」
ロラン王子は声を上げて笑うのだった。
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