第209話 3つの大切なこと大切なこと
☆★☆★ コミカライズ 更新 ☆★☆★
本日ヤンマガWebで最新話更新されました。
本編と単行本宣伝話の2本立てとなっております。
是非読んでくださいね。
4月18日発売、単行本4巻よろしくお願いします。
「ダメです」
生徒自治会を立ち上げる!
息巻いたロラン王子は、勢いのままに学校司教長のゾーラ夫人にかけあった。教職者の長である夫人は、ひとしきりロラン王子の演説を拝聴した後、あっさりとその提案を跳ね除けてしまう。
(だよね……)
なんとなくだけど、結果はわかっていた。
リーリスも同じ気持ちだったらしく、特段驚きはしない。勝手に仲間に入れられたユランは、未だに仏頂面のままだった。
ロラン王子が生徒自治会を作る理由は、生徒が生徒を統制することによって、学内の差別を撲滅していこうというものだ。生徒の意識改革を外部から変えていこうという、ちょっと荒っぽいやり方だけど理には叶っていると思う。もちろん生徒たちをコントロールするのは、大人つまり教職員たちの仕事だけど、すべての生徒を見ていることは不可能だ。その点、子どもの目はどこにでもある。同じ子どもだからこそ相談できることもあるだろう。
でも、ロラン王子がやろうとしていることは、さすがに生徒の権利が及ぶところを逸脱しているように思える。何せ僕たちはまだ6歳だからね。
「なんでだ、アヴィヨル。生徒が学内の平和を望んで何が悪い!」
ロラン王子は怯まなかった。それどころか真っ向から対立する。
しばしゾーラ夫人とロラン王子のとの間に激しい火花が散った。
「悪いこととは思っていません。しかし殿下――――」
「ここではロランで良い。余も生徒だからな」
「ではロラン。いえ、ルーシェル、リーリスたちもよく聞きなさい。あたくしがあなたたちの提案を却下する理由は3つあります」
「3つもあるのか」
「1つは明白です。あなたたちは幼い。まだ6歳の子どもです。似たような組織は上位組織である職工学校にはありますが、あなたたちにはまだ早すぎる」
これは僕と同意見だ。
僕たちが生徒を正すに、あまりに幼すぎると思う。
「2つ目はジーマ初等学校のルール上難しいという意味です」
「というと?」
「あなたたちの活動は、言わば倶楽部活動に当たります。しかしその倶楽部活動をするには、まず部員が7名以上であること。さらに顧問がいること。最後に実績があることが求められます」
「7名以上の部員と、顧問……。それに実績か……」
ロラン王子は腕を組む。
「部員と顧問はともかく、あなたたちに実績はありますか?」
ゾーラ夫人に突かれて、僕たちは黙り込むしかなかった。
そりゃそうだ。僕たちもさっき初めてロラン王子から聞いたのだから。
そのロラン王子は両腕を組んで考えたが、いい反論は思い付かないようだ。
「ない。残念ながら、だ」
「お話になりませんね」
ゾーラ夫人は息を吐く。でも、例え火を吹きかけられたとしても、ロラン王子は考えを改めるつもりはないらしい。続けて「3つ目は?」と質問する。夫人はちょっと呆れながら、口を開いた。
「大事なことです。よく聞いてください」
「わかった」
「学内の差別を撲滅しよう。あなたたちの理念自体には、あたくしも敬意を表します。素晴らしいことです。しかし、仮に生徒自治会が生まれたとして、それは新たな差別を生み出すきっかけにならないでしょうか?」
「新たな差別……?」
「そうです。生徒を統制するということは、あなたたちが強い権力を持つことでもあります。まして、ロランは王族、ルーシェルとリーリスは公爵家のご子息ご令嬢です。呼びかければ、子どもたちは頭を垂れて言うことを聞くかもしれませんが、それがあなたたちがやろうとしている生徒自治なのですか?」
もっとも意見だと思う。
僕たちは生徒たちに頭を下げてほしいわけじゃない。
学内で日常的に起こっている差別に問題意識を持ってほしいのだ。
教師をやっている時も思ったけど、僕は生徒たちに教師として認めてほしいわけじゃなくて、教えることに興味を持ってほしかった。いじめ撲滅もそれと同じなのだ。
「ロラン王子、一旦出直しましょう」
「しかしだな、ルーシェル。余は――――」
「王子の気持ちはわかっています。でも、これ以上はゾーラ夫人のご迷惑になります。王子ならこのままゾーラ夫人の首を縦に振らせることはできるかもしれませんが、そこまでお望みではないでしょ?」
リーリスもロラン王子を説得する。
僕だけじゃなく、リーリスまで言われたとなれば、ロラン王子も立つ瀬は無かった。
「仕方ないか。少なくとも、あと3人は仲間が必要だしな」
僕たちは一旦教職員室から出ることにした。
◆◇◆◇◆
放課後、僕たちは誰もいない教室に集まり、作戦会議を行った。
ちなみにユランはいない。騎士団の演習があるからだ。
「良い案だと思ったのだがな」
ロラン王子は首を捻る。
何か打開策はないかと、ずっと考えていたらしい。
「いい案だと思います。でも、僕たちはまだその組織を立ち上げて、何をするかをちゃんと理解できてないんだと思います」
「なるほどな。具体的に差別をなくす方法が必要ということだな」
「それが実績になるんじゃないかと」
「良案があるのか、ルーシェル」
「恐れながら……」
「言ってみよ」
ロラン王子は椅子に座り、僕の言葉に耳を傾ける。
「王子は去年の納涼祭のことを覚えていますか?」
「当たり前だ。ルーシェルと初めて会ったのも、その会場でなんだからな」
「でしたら、その納涼祭で僕がお菓子の家を作ったのを覚えていらっしゃいますよね」
「もちろん! あれは見事だった。使われているお菓子も美味だったしな」
「あの時、あの場にいたのは、貴族や領地にいる平民の子どもなんです。でも、あそこに差別なかった。みんな仲良くお菓子を分け合って食べていました」
「確かに」
「お菓子の家の中にいる子どもたちは、一体となって家で遊んでいました。ああいう場を、僕たち生徒自治会が提供するというのはどうでしょうか?」
「読めたぞ、ルーシェル」
ロラン王子はニヤリと笑う。
「つまり祭りだな。学校で祭りをしようということか」
「ちょっとだけ違います。学校に通うすべての生徒が主人公の祭り……」
子どもだけの祭りを作ってはいかがでしょうか?