第19話 通じ合う心
素敵なレビューいただきました!
書いていただいた方ありがとうございますm(_ _)m
何故、老人口調でなくなったのかは、追々お答えさせていただきます。
今日も楽しんでいって下さいね。
「団長!」
ミルディさんが声を絞り出す。他のリチルさんやガーナーさんも息を飲んだ。
それぞれ構え、目の前の頭領を睨み付ける。
魔剣を使う頭領の前で闘志を燃やすも、団員たちを制したのは、フレッティさん自身だった。
「お前たちは下がっていろ。こいつは、私1人で戦う」
「ああん? 何を言っている? 前回やった時、てめぇは手も足も出なかっただろうが。舐めてんのか!?」
敗北の苦い記憶を思い起こさせるように、頭領は紅蓮の魔剣を掲げた。
再び炎が逆巻く。
竜のブレスを思わせるような凄まじい熱量だ。
それでもフレッティさんは、目を細めても構えた剣を翻すことはない。
「私は騎士だ。お前が1人で相手をするというなら、私も1人で戦う――ただそれだけだ」
「それが舐めてるっていうんだよ!!」
魔剣から巻き起こる炎がさらに大きく、天井へと向かって伸びていく。
すでに天井は煤だらけで、真っ黒に焦げていた。
まるで頭領の怒りが乗り移ったかのようだ。
その怒りの炎とも言うべき熱量を前にしても、フレッティさんが怯むことはなかった。
真っ直ぐ頭領の目を射抜き、決して構えを崩そうとはしない。
「チッ!」
ついに頭領が折れる。
「そうかい。じゃあ、まずはあんたから消し炭にしてやるよ」
合図もなく、その戦いは始まった。
先に仕掛けたのは頭領の方だ。暗い地面を蹴ると、フレッティさんとの距離を一気に潰してしまった。
炎と共に魔剣を大きく振り下ろす。
フレッティさんは剣筋を見切って、丁寧に弾くと、一気に懐に飛び込む。
頭領をあっさりと押し返した。
「何ぃ!!」
頭領は困惑する。
フレッティさんの剣の技量に押され始めた。
当然の結果だ。野盗の剣は所詮我流の剣術。はっきり言えば理論も何もなく、乱暴に振り回しているのと変わらない。
対するフレッティさんはきちんと理に適った剣筋だ。
相手のどこに打ち込めば、次に相手がどう動くか、2、3手先を読む動きをしていた。
ぶれない体幹は長年の鍛錬の跡がよく滲み出ている。
努力を放棄した者と、努力を続けた者。
どちらの剣が勝つなど、自明の理だ。
「てめぇ! あの時は手を抜いていたのか?」
「不思議なことを言う……。あの時の私も、今の私も同じフレッティ・へイムルドだ!」
フレッティさんの剣が一閃する。
大きく頭領は弾かれた。
まるで蛙が二本足で立って、踊っているかのような無様な後退を見せる。
その力強さにさしもの頭領も、目を大きく広げて瞠目していた。
その頭領の前に、フレッティさんは仁王立ちする。
「違いがあるとすれば、お前の方だ、野盗。今度こそ我が主君たるレティヴィア家の家宝を返してもらうぞ」
堂々と言い放つ。
だが、頭領の攻撃が恐ろしいのは刃だけじゃない。
頭領は腰を捻る。野蛮ともいえる捻転から一気に魔剣を振るった。
炎がフレッティさんに向かって、津波のように押し寄せる。
「ヒャアアアアアアアア!! 消し炭になれ、馬鹿野郎!!!!」
頭領は中指を立てて、勝利を確信する。
視界にいっぱいに広がった炎。
フレッティさんに逃げ場はなかった。
押し寄せる炎にフレッティさんは短く息を飲み込み、呼吸を整える。
次の瞬間、剣を斜め後ろに構えながら、炎に向かって走って行く。
「団長!!」
「フレッティ団長!!」
「…………!!」
ミルディさんたちの悲鳴が響く。
それでもフレッティさんの足は止まらなかった。ついに炎の中に飛び込む。
紅蓮の中に、フレッティさんの身体は消えてしまった。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! 自分から飛び込むなんて馬鹿――――へっ?」
舌を出してフレッティさんを馬鹿にしていた頭領の表情が固まる。
その様子を見ていた団員たちもまた驚いた。
直後、鉄靴の音が響く。
魔剣の炎から現れたのは、そう――フレッティさんだ。
「な、なんだとぉおぉおぉおぉおぉお!!」
頭領は慌てて魔剣を構え、再び魔力を充填しようとする。
だが、1歩も2歩も遅かった。
フレッティさんが手にした剣の刃が閃く。
上段から一気に振り下ろした。
「…………」
頭領はカラリと持っていた魔剣を手から落とした。末期の悲鳴はなく、そのまま冷たいアジトの床に倒れる。
「やった……」
ミルディさんの声が急に静かに、そして暗くなったアジトに響く。
「やった! 団長!!」
「フレッティ団長!!」
「団長!!」
団長、と声をかけ、フレッティさんを取り囲んだ。
そのフレッティさんは剣についた血を払い、愛剣を労うようにソッと鞘の中に収めた。
「団長、お怪我はありませんか?」
リチルさんはフレッティさんの身体を診る。装備の一部が炭化してるものはあったが、身体には異常はない。
異常があるとすれば、火傷1つ負っていないことだろう。
リチルさんは口を開けて驚いていた。
「よく火の中に飛び込めましたね。あたし、びっくりしちゃった」
ミルディさんが声を掛けると、フレッティさんは己の手を見た。
「私にもさっぱりわからん。だが――――」
「だが? 何かあったんですか?」
「変な感覚だった。火を前にして、私は何も恐怖がなかったのだ」
「それだけ集中していたのでは?」
ガーナーさんが口を挟む。その指摘にフレッティさんは首を振った。
「義務感や使命感はあった。それで極限まで集中力が高まっていた可能性があるだろうが、単純に火が熱いものだとは思わなかった。……事実、炎に巻かれても私は熱いとさえ思わなかった」
フレッティさんの感想に、ミルディさんたちはポカンと口を開けた。
みんなで目配せするけど、誰もフレッティさんの感想に対して適切な返しすることはできない。
まさか僕が用意した料理で、炎への耐性が付いていたなんて夢にも思わないだろう。
だとしても、フレッティさんが炎の中に飛び込んでいった時は、僕も驚いたけど。
「火を克服した。それはつまり団長がまた1歩強くなられたということでは?」
今日のガーナーさんはなかなかお喋りだ。
「そうなのか……。私には自覚はないのだが」
「ほら。あれですよ、フレッティ団長。あたしたちに付いてる勝利の天使のおかげですよ、きっと」
ミルディさんが言うと、リチルさん、ガーナーさん、そしてフレッティさんが大きく頷く。
4人は同時に後ろに振り返った。
一瞬、僕は後退る。
みなさんが向ける視線の先に、ジュエルカメレオンの皮を羽織った僕が立っていたからだ。
「ありがとう、ルーシェルくん」
フレッティさんは噛みしめるように感謝の言葉を呟く。
4人全員、頭を下げた。
その言動を真っ正面で受け止めながら、僕の顔は無意識に笑顔になっていく。
(いいえ。こちらこそ……)
僕は声に出さずに呟き、頭を下げるのだった。
日曜日ということもあって、再び日間のポイントが5000ptを越えました。
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