表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/287

第190話 ルーシェルの悪い噂

☆★☆★ コミカライズ特別編 ☆★☆★


本日ヤンマガWEBにて、コミカライズ特別編が掲載されております。

是非チェックしてください。


また第3巻がいよいよ発売日まで4日と迫ってきました。

こちらも是非お買い上げよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

「くそっ!」


 声を荒らげたのは、クモワース・フル・ミードである。

 ミード伯爵家の子息で、それもあってか学年の中で幅を利かせている。


 野蛮で支配的なクモワースのことを怖がる子どもは少なくない。爵位は伯爵だが、ミード伯爵は歴史の長い名家だ。鉱山を1つ所有し経済的にも豊かで、王族からの覚えもめでたいという。


 彼より爵位が高く、さらにミード家以上の名家は別として、そのネームバリューは他の貴族たちには効果抜群だ。ある者は恐れ、ある者は従属を誓う。まさにガキ大将だ。


 そんなクモワースの威勢が削がれる事件があった。

 最近魔獣学の教壇に立つ、1つ年下の教師に手玉に取られていたのである。


 クモワースほど目立つ子どもなら、その噂が広がるのも早い。例の課外授業から1日も経たずに、その授業内で見せた醜態が広まってしまった。


 そのためクモワースはおおっぴらに動けなくなってしまったのだ。


 しかし、自分が巻いた種ゆえに怒りのやり場に苦労し、自分の家臣か目の前の分厚い牛肉に当たるしかなかった。


「どうした、クモワース? そんな怖い顔をして? 食事が合わなかったのか?」


「ち、ちげぇよ」


「最近、魔獣学の教壇に立った先生に痛い目にあったのよ、あなた」


 見かねたミード伯爵夫人が口を出す。

 クモワースの顔はたちまち赤くなった。


「ま、ママ! 今いうことじゃないだろ!?」


「誰のおかげで、今日学校に呼び出されたと思ってるのです? あなたからも叱ってやってください」


「痛い目? クモワースはいじめられたのか?」


 事情を知らないクモワースの父ドラードは、同母のレベリーからジーマ初等学校であった話を聞く。


「なるほどな」


「ぱ、パパから言ってやってよ。あいつ、年下なのに生意気なんだ」


「レティヴィア家と言えば、我らミード家よりも歴史は浅くとも、公爵家だ。さらに王家の歴史を編纂する大事な役目をになっている家系故に、我ら以上に王族との結び付きは強い。レティヴィア公爵家と事を構えたくはない。それも子どもの喧嘩でもな」


「じゃあ、おれが悪いってのか?」


「その通りよ」


 母レベリーは口元を軽く拭いながら、素っ気ない口調で言う。

 学校に呼び出されたことを、密かに腹を立てているらしい。


 ドラードとレベリーは20歳以上年が離れている。若い新妻の制御の仕方には、ドラードも頭を悩ませていた。一方、クモワースはドラードが50歳の頃に生まれた子どもだ。孫ほどの年が離れているから可愛くて仕方がなかった。だからなのかレベリーのように叱る気にはならない。むしろ妻とは違って、その怒りの矛先はルーシェル、そして公爵家に向けられた。


「お前はやり方が直接すぎるのだ。わしのようにもっと頭を使え、頭を……」


「頭?」


「直接くださなくとも、その者にダメージを与えることはできる」


 その発言に横で聞いていたレベリーが目くじらを立てた。


「あなた、何をしようというのです? 相手は公爵家なんですよ」


「レベリー、落ち着け。ジーマ初等学校は爵位のしがらみなく、学校生活を送れる自由で啓けた教育機関を謳っている。そういうのは関係ないだろ」


「それは建前でしょ」


「わしの可愛いクモワースが屈辱にまみれたのだ。その借りはきっちり返してもらう」


 うちに怒りを秘めたドラードの顔は、横で食事を摂る息子と同じ顔をしていた。



 ◆◇◆◇◆



「こんにちは」


 魔獣学を受けている生徒を見かけて、僕は挨拶をした。

 僕は教師でもあるけど、向こうは先輩だ。こちらから挨拶するのは当然だと思っていた。でも、向こうから挨拶が返ってくることはなかった。返ってきた冷たい視線だけだ。


 何故かこういうことが、ここ数日よく起きている。

 気が付けば、僕の方に視線を向けては、何やら陰口を叩いている生徒もいた。僕の聴力ならすぐにわかるのだけど、あえて無視している。


 学食のごはんをもらい、テーブルに着く。

 不安げな視線を向けたのは、リーリスだった。


「大丈夫ですか、ルーシェル」


「ん? 何が?」


「ルーシェルに変な噂が立っています」


「言わせておけばいいのだ。他人の陰口など」


 リーリスの横で先に食べ始めてしまったユランが、パンをかじっている。

 この後、騎士団の昼訓練があるらしく、急いでいるようだ。


「ありがとう、ユラン」


 そう。最近周りで、何かしら僕に対する悪い噂が流れている。


 影で同級生をいじめているとか。

 学校にお金を積んで、入学させてもらったとか。

 莫大な給金を要求してるとか。


 本当によく出てくるなという根も葉もない噂ばかりだ。


 けれど、僕は山育ちだけど公爵家の子息。

 爵位が高い貴族ほど、偉そうにしているイメージが付き纏うから、結構信じている人が少ない。

 僕が教師をして、学校で特別扱いされているのも1つの要因になっているようだ。


 どうして、こんな噂が立っているのか。

 正直に言って、僕もわからない。

 なんとなく想像は付くけどね。何せ噂が立ったのは、例の課外授業の後だ。


 その出所を特定するのは難しいことじゃない。でも残念ながら証拠がなかった。

 僕自身に直接影響がないこともあって、放置していたのだけど、さすがに看過できなくなってきていた。


「やはりアルテン学校司祭長様か、お父様に相談した方が……」


「それだと逆効果かもしれないね。噂の内容を考えると」


 僕がアルテンさんや父上に、優遇された学校生活を送っている――ということが、噂の反感を買う原因になっている。

 だからアルテンさんや父上に相談するのは、逆効果かもしれない。


「ルーシェルが遠慮してるのはわかりますが、最後はやはり……」


「うん。わかってる。いざという時は、アルテンさんに相談するつもりだよ。でも、あとちょっと――――」


「そうではなくて」


「え?」


 そう言って、リーリスは僕の手を取った。


「わたくしもいます。だから、微力ながらわたくしにも手伝わせてください」


「リーリス……。ありがとう。うん。その時には頼りにさせてもらうよ。……もちろん、ユランもね」


 僕は椀を掻き込みながら、チラチラと僕の方を見るユランにも声をかけた。


「うぐ……。べ、別に我は心配などしておらんぞ。ルーシェルにそんな必要などないからな」


「僕を信じてくれているんだね」


「べ、別に……」


 ユランの白い耳たぶが赤くなる。

 急いで残りの食べ物を食べると、椀と皿を重ねて立ち上がった。


「訓練に行ってくる」


「うん。頑張って、ユラン」


「ふん。我のことより、さっさと口でしか喧嘩できないヤツらの口を黙らせよ」


 これってユランなりの励まし方なんだろうな。


「ありがとう。ユラン」


 というと、ユランはふっと顔を赤くして、食堂から出て行った。


「僕たちも行こうか、リーリス」


「はい」


 ユランと別れ、僕たちは中庭に向かう。

 渡り廊下を歩いている時、不意に横合いから人の影が現れた。


「あっ!」


 避けることは可能だったのだけど、場所が悪い。

 少女が避けると、目の前の薔薇の木に突っ込む可能性があった。


 僕は少女を受け止めることを選択したのだけど、今度は向こうが先に態勢を崩してしまった。


「あぶない!!」


 転けそうになったのを見て、僕は少女の頭を抱え、一緒に倒れる。

 そのまま少女に馬乗りするような形になってしまった。


 見ると、少女に怪我はない。

 ホッと息を吐いたのもつかの間、少女の目から涙がこぼれた。


「いやああああああああ! ルーシェル・グラン・レティヴィアにいじめられるぅううううううううう!!」


 え? いじめ??


☆★☆★ 12月他新刊 ☆★☆★


12月19日発売。『公爵家の料理番様』3巻の前日発売です。

『劣等職の最強賢者~底辺の【村人】から余裕で世界最強~』


挿絵(By みてみん)



大好評発売中!! 30万部突破! 大人気シリーズ第6弾。

『アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』(6)


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 夫人が家中掌握しないともう駄目だミード家 バレた時かあの王子が権力持った時に消され兼ねん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ