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第185話 獣の子

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


お待たせしました。

ヤンマガWEBで最新話が更新されました。

いよいよ試練の竜編決着?? 是非読んでくださいね。


挿絵(By みてみん)

 癖っ毛の茶色い髪と、刃物のような鋭い灰色の瞳。

 頭の上にある狼のような耳はふわふわしていて、時々動く仕草が少し愛らしい。

 スカートから出たモフモフした尻尾は時折鞭のようにしなっていた。


(この子か……)


 僕の授業を受けている生徒のことは大体頭に入っている。

 悪目立ちしていたクモワースとは違って、今僕を睨んでいる獣人の娘は別の意味で目立っていた。大勢の生徒の中にあって、声も気配もない。いつもひっそりと教室で息を潜めていて、獲物を狙う本物の狼のよう――それが僕が抱いた彼女の印象だ。


(それにしても獣人がジーマ初等学校にいるなんて珍しいな)


 別に差別してるわけじゃない。

 でも、世界的に見て、獣人の扱いは人族優位の世界にあって、やはり格が落ちる。

 というのも、昔――それこそ300年前、人族と山や森に住む獣人たちは資源を巡って争っていた。その急先鋒と言えるのが、ヤールム父様だ。数々の獣人たちを討ち取ったことによって、ヤールム父様は名実共に『剣聖』となれたのである。


 しかし、いがみ合っていた人族と獣族との間に、転機が訪れた。


 それが魔族の侵攻だ。

 魔族が現れたことによって、人族と獣族は争っている暇はなく、それどころか自分たちの存亡をかけて手を取り合った。

 結果は知っての通りだ。


 それから獣族の地位は上がり、ミルディさんのように騎士団に所属したり、森や山ではなく、人間の街に住む者たちも現れた。でも、その子どもが学校に通ってるなんて、300年前を知る僕にはちょっとした珍風景だったのだ。


「えっと? 確か、君は?」


「レーネルです、ルーシェル先生」


「そうか。レーネルは僕のことを教師として見てくれているんだね。ありがとう。それにしても、先ほどの奇襲には驚いたよ」


「先生の教えを実践したまでです」


「教え?」


「『油断するな』と……」


「ああ。なるほど」


 どうやらこっそり生徒との会話を聞いていたらしい。

 全然気づかなかった。

 獣人の能力かな。子どもなのに僕に気配を悟らせないなんて。


「先生、1つお願いがあります」


「何かな?」


「もし、ボクが先生を捕まえたら、先生を辞めてくれますか?」


「君も年下の子から教わるのはイヤ?」


「はっきり言えばそうです」


 本当にはっきり言われた。

 いっそこれぐらい言ってくれた方が清々しいや。


「じゃあ、少しルールを変更しよう。僕も君を捕まえにいく。お互い相手のどこかにタッチできたら勝ち。それでいいかな?」


「それでいいです」


「うん。じゃあ、もし僕がレーネルにタッチすることができたら」


「なんでしょうか?」


「僕と友達になってよ」


「…………わかりました。無理だと思いますけどね」


 レーネルは地を蹴った。

 僕との間合いを一気につめ、最短最速で手を伸ばす。

 合図などない。また奇襲。とはいえ、責められない。

 合図してからなんてルールは、まだ決まっていないからね。


(それにしても速いな)


 レーネルの手が僕の制服に触れそうになる。

 だが、僕はそれをしっかりと見ていた。

 くるっと横に避ける。

 それを読んでいたのか、レーネルは直角に曲がった。

 高い身体能力を持つ獣人ならでは動きだ。


 再び地面を蹴り、目一杯伸ばした指を僕の胸元へと伸ばす。

 それもヒョイと避ける。レーネルの動きはまだ止まらない。2の矢だけかと思ったけど、3の矢、4の矢とばかりにあの手この手で僕に迫ってくる。


「すごいね、レーネル。獣人の身体能力だけじゃないね」


「喋ってると舌を噛みますよ、先生」


「まだ速くなるの」


 ちょっと目を丸くする。

 追いきれないわけじゃないけど、こんなに真剣に身体を動かしたのは、いつぶりぐらいだろう。ユランが来た時、それともロラン王子を襲った暗殺者? それとも山の中で魔獣と戦った時。


 ともかく、こんな猛者が初等学校にいて、僕とさほど変わらないなんて。


(今の僕なら楽勝……。でも、果たして300年前の僕ならこの子に勝てたかな)


「よその事を考えすぎですよ、先生」


「ん?」


 レーネルが一瞬視界から消える。狙われたのは、僕の足だ。

 ずっと胸元ばかりを狙っていたのは、どうやら僕の注意を引きつけるものだったらしい。

 最初からレーネルの狙いは、僕の膝だ。


「とった!」


「お見事。レーネル。でも、君が言ったんだよ」



 油断するなってね……。



 僕はレーネルが狙う足のつま先を少し上げる。

 その先には、細い糸があり、それをくいっと持ち上げた。

 地面が盛り上がる。現れたのは、クモワースの取り巻きたちを絡め取った網だ。


「誘い込まれた?」


「そういうこと。ちゃんと周りを見ないとダメだ。魔獣に襲われていても、他の魔獣が狙っていないと限らないからね」


 これもよくあるシチュエーションだ。

 それでどれだけ獲物を逃したことか。


 勝負あったと思ったけど、レーネルの反応は速い。

 1秒とない間に、地面から上がってきた網を躱したのだ。


「すごっ! 今の躱すんだ」


「油断しましたね。そっくりそのまま返しますよ、先生」


 ついにレーネルの手が僕の胸元をつく。

 その決着を見て、息を呑んで見ていた生徒やゾーラ伯爵夫人は歓声を上げる。だが、それはすぐに驚きに変わった。


「とった」


「いいや」


 はらっと僕だったものは、たくさんの木の葉に変わる。

 代わりに森の影から現れると、僕はついにレーネルの肩を叩いた。


「はい。これで全員捕まえた」


「…………!」


「なかなかいい動きだったよ。でも、ここは魔獣優位な森の中だよ。いついかなる時も、油断をしてはダメだ」


 カラン……。


 授業の終わりが告げる鐘が響く。

 驚いたな。結構時間がかかっていたんだ。

 レーネルを観察したかったのもあるけど、思ったより時間をかけすぎたかもしれない。


 そのレーネルは何も言わず、僕に背を向けた。

 小さな背中は、まるで敗軍の将のようだ。


 気になった僕は彼女に声をかけようとしたが、ゾーラ夫人に止められる。


「今はそっとして置いてあげてください」


「夫人。彼女は?」


「おや? 知らないで相手をしていたのですか?」


「有名な子どもなのですか?」


 僕が知っているのは彼女の名前、顔、その授業態度ぐらいだ。

 その家がどんな家なのかは知らない。

 それに確かあまり聞き慣れない位名(いめい)だったんだけど……。


 尋ねると、ゾーラ伯爵夫人は唇を緩める。

 今から話す言葉そのものが、まるで己の誇りであるかのように少し胸を張っていった。


「彼女の名前はレーネル・ギル・ハウスタン」



 剣王の娘ですよ。


☆★☆★ 新作連載開始 ☆★☆★


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のんびりとしたお話ですので、是非読んでください。


挿絵(By みてみん)

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