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第18話 うっかり

 どうやらフレッティさんたちは、夜襲を決めたらしい。


 半日かけて野盗のアジトに戻ると、明け方前――相手が寝静まった時間を狙い、行動を開始する。


 騎士道には反するかもしれないけど、相手の数を考えれば最良の選択だろう。


「ミルディ、気分はどうだ?」


「絶好調ですよ、団長。なんだか生まれ変わったようです。目もバチバチに冴えています」


「なんだか、目が良くなったようですね。暗い中でもはっきり見えますよ」


 フレッティさんが夜襲を選択すると考えて、あらかじめ料理には夜目が利く効果の食材を混ぜておいた。


 パン粉で揚げた時に使った卵がそうだ。


 あれは僕が小さい頃に食べたブラックロウの卵で、身を食べた時と同等の効果がある。


「どうやら、みんな目が冴えているようだな。行くぞ!」


 フレッティさんは声を掛ける。


 側にいたリチルさんに目配せすると、リチルさんは杖を掲げ呪唱を始めた。


「夜に惑う虚ろな眷属たちよ……。我が前に出でて、月の湖畔に謳うがいい……。しばし闇へ……。さあ、誘え」


 夜蛇の美唱スリーピング・スネーク


 魔法の効果がまるで蛇のように、アジトの入口に立っていた歩哨を絡め取る。


 僕のとった作戦と同じだけど、野盗たちは何の対策もしていなかったようだ。


 歩哨はたちまち眠り就く。というか、最初からとても眠そうだった歩哨は、すとんと倒れてしまった。


 僕がアジトを強襲したのは、一昨日の夜だ。


 時間もなく対策も取れなかったんだろう。まさかこんなにも早くまたアジトが強襲されるとは、思ってもなかったのかもしれない。


 僕の強襲で警戒させてしまったと考えたけど、どうやら逆に油断している可能性がある。


「よし。飛び込むぞ。いいか!?」


「「「はい!!」」」


 隊の声が揃うと、そのままフレッティさんを先頭にしてアジトの中へと飛び込んだ。


 僕はジュエルカメレオンを被り直し、フレッティさんたちの後についていく。


 まず気付いたのは、静かだということだ。


 鎧が擦れる音。靴音。それぞれ魔法の明かりを頼りに突き進むフレッティさんたちのものしか聞こえない。


 まるで人がいないみたいだった。


 様子がおかしいことは、フレッティさんも気付いたのだろう。


 いくら明け方近くで寝入っていても、1人や2人ぐらい気付いてもおかしくない……。


 罠という可能性も十分にある。


 フレッティさんは1度立ち止まって、野盗たちが眠る房の中を覗いた。


 驚いたことに野盗たちはスヤスヤと眠っている。誰もフレッティさんが侵入したことに気付いていない様子だ。


「もうちょっと勘の良さそうな野盗だと思ったのに。こんなヤツらに家宝を盗まれたと思うと、また腹が立ってきたわ」


「静かにミルディ……。起こしちゃいますよ。折角寝ているんですからこのまま寝かせてあげましょう。寝る子は起こすな――ですよ」


「しかし、このまま寝かせておいて、万が一目覚めた場合厄介ですよ」


 珍しくガーナーさんが意見を言う。


「寝ているものに刃を向けるのはな」


 フレッティさんも首を捻った。


 みなさん、アジトの真ん中で立ち止まってしまう。


 もっともだけど、問題を回避する方法は簡単だ。


 僕はこっそりと魔法を使った。


 【風弾(ウィンド・ショット)】!


 大気を圧縮した弾が、房の入口の上の方に当たる。


 亀裂が入ると、音を立てて岩や土が落ちてきた。


「な、なに!? 急に!!」


「皆、無事か?」


「問題ありません」


「同じく」


 突如、フレッティさんが覗いていた房とは違う房の入口が塞がれる。


「どういうこと? いきなり崩れたわよ」


「落盤でしょうか?」


「そうか」


 フレッティさんは、はたと何かに気付く。


「房の入口を塞げばいいのだ。そうすれば、ここの野盗が目覚めても挟撃は避けられるぞ」


「なるほど。確かに」


「名案です」


「……では、俺が」


 ガーナーさんが大きく拳を振り上げる。


 まさか素手で……。


 ゴン! ゴン! ゴン!!


 次々と房の入口を塞いでいく。


 すごい。素手で塞いじゃった。


「さすがはガーナーね。やるぅ……」


「これなら起きてきても、野盗はすぐに動けませんね」


 リチルさんはホッと胸を撫で下ろした。


 珍しく難しい顔をしたのは、ミルディさんだ。


「これだけ物音を立てているのに、誰も起きてこないなんて。さすがに不気味ね。お化けにでも取り憑かれたのかしら」


「さらっと怖いこと言わないでよ、ミルディ」


 リチルさんが震え上がった。


 あの反応……。もしかしてリチルさんはお化けとか苦手なのかもしれない。


 ちょっとカワイイ。


「よし。奥へと行くぞ。一気に頭領を叩く」


 フレッティさんは檄を飛ばすと、3人は頷いた。





 結局、何事もなく4人はアジトの奥へと辿り着いてしまった。


 房を壊していた時も、誰も起きてこなかったし、何か深い眠りにつくようなことがあったのだろうか。


 頭領に怒られて、厳しい訓練を課されたとか?


 何にしても4人が無傷で来られたことは喜ばしい。乱戦になれば、こっそり手伝おうと思っていたのだけれど。


 アジトの奥にいたのは、やはりあの頭領だった。


「なんだ、てめぇは…………イテテテテ」


 頭領は苦悶の声を上げながら立ち上がる。


 どうやら僕との戦いで受けた打撲がまだ快癒(かいゆ)していないようだ。


「怪我をしてるのか?」


「なんだよ? どっかで見た顔だと思ったが、前に来た騎士どもか。……くそ! 他の野郎どもはどうした?」


「お前の部下ならぐっすり眠ってるぞ。ついでに歩哨に立っていた部下もな」


「そいつらじゃねぇ! 山の麓で見張りをさせてたヤツらのことだ?」


「そんなヤツはいなかったぞ」


「はああああああ???? ……くそっ! あいつらめ!! オレの命令を無視して撤収したのか。使えねぇ! どいつもこいつもだ!!」


「援軍はこない。あとは、お前だけだ」


「なんだよ、これ!! アジトの部下は昨日の夜から眠ったまま起きやしねぇし。やっと2人を叩き起こしたと思ったら、見張りもできねぇ、愚図ばかり」


 眠ったまま起きない?


 それってつまり僕が来てからずっと眠っているってこと?


(ああ……!!)


 僕は思わず声が出そうになった口を慌てて塞ぐ。


 またガーナーさんがこちらを見たけど、僕の姿には気付かなかった。


 しまった。うっかりしてた。


 スリーピングフォレストの枝を回収するの忘れてた。多分、まだどっかアジトの中に転がっているはずだ。


 そうなると、何故フレッティさんたちが起きていられるんだ?


(あ……)


 シャキシャキ草か。


 あの効果は強い眠り耐性がある。


 だからスリーピングフォレストの眠り効果が効いていないんだろう。


(良かったぁ……)


 シャキシャキ草は栄養価の高い魔草だからハサミパンの具材に選んだけど、偶然だけどフレッティさんに食べさせておいて良かったよ。


「くそ! これもそれも、あのガキのせいだ」


「ガキ?」


 フレッティさんが反応するけど、その言葉はすぐに脳の隅へと弾かれることになる。


 頭領は側に立てかけていた魔剣を握った。


 その瞬間、炎が立ち上り、一気にアジトは赤く染まる。


 それは開戦の狼煙でもあった。


 ゆっくりと近づいてくる魔剣使い。


 しかしフレッティさんたちは怯まない。


「来い、魔剣使い……。先日のようにはいかないぞ!!」


 フレッティさんもまた剣を構えるのだった。


どじっこルーシェル。


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