第17話 勝利の天使
昨日1日だけで、23万PVいただきました。
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フレッティさんたちとの時間は楽しかった。
300年分の幸せが一気に押し寄せたようだった。
笑い、泣き、そしてまた笑う……。
300年間ずっと欠けていた何かが、突然すとんと僕の胸に嵌まったように思えた。
けれど、楽しい時間というのはすぐに過ぎていくものだ。
翌朝、フレッティさんは樟から立ち去ることを決めた。
「世話になったな、ルーシェル君」
「いえ。大したお構いもできなくて申し訳ありません」
僕がそう言うとフレッティさんは頭を振る。
「そんなことはない。ミルディを治療してくれた上に、ベッドまで貸してくれた。それにご飯まで……。この恩、いつか絶対に返させてもらう」
「返さなくても結構ですよ。もう十分もらっていますから」
「……?」
フレッティさんが首を傾げると、僕は「ふふ……」と声を出して微笑んだ。
「あーん! ルーシェルく~~~~ん!!」
ミルディさんが僕に飛びついてくる。
僕の頭を引き込むと、自分の顔に押し込んだ。
目の前に綺麗な女の人の顔があって、胸が一気に早鐘のように高鳴る。
「み、ミルディさ~ん!!」
さすがに恥ずかしくて抜け出したいのだが、ミルディさんはなかなか離してくれない。
それどころか回した腕に、さらに力を込めてきた。
「うぇーん。お別れなんてイヤだよー。あたし、ここに残るー」
1番最後に挨拶したミルディさんだけど、1番仲良くなったような気がする。
多分、隊の中でもムードメーカーなのだろう。
とにかくよく喋るのだ、この人は。
「こーら。ミルディ、ダメよ」
猫のようにミルディさんを捕まえたのは、リチルさんだった。
出会った当初はずっと不安顔だったけど、今は世話焼きなお姉さんという感じで、暴走しがちなミルディさんの手綱を握っていた。
こう言ったら怒られると思うけど、暴れ馬とその騎手みたいだ。
「わたしからもお礼を言わせて、ルーシェルくん。そしてあなたに幸運がありますように」
優しく僕を抱きしめ、祈る。
「ガーナー、あんたも黙ってないで何か言ったらどう?」
少し遠巻きに眺めていたガーナーさんに、ミルディさんが声をかけた。
寡黙な騎士のガーナーさんは、少し顎に手を置いてから僕の背中を叩く。
「ご飯おいしかった。また作ってくれ」
重みのある声でお願いする。
まるでプロポーズみたいで、僕は苦笑で返してしまった。
「プロポーズか!」
ミルディさんがガーナーさんの頭を叩くも、ビクともしない。
あとミルディさんとツッコミが被ってしまった……。
「ねぇ、団長。ルーシェル君も連れていこうよ」
「それはダメだ、ミルディ」
猫撫で声で喋るミルディさんに、フレッティさんは真剣な顔で諭す。
「我々の目的を忘れたわけではあるまい」
「それは――――」
ミルディさんは言葉を詰まらせる。
フレッティさんの言う通りだ。
彼らが今から向かうのは、温かな食事で迎える主君の屋敷ではない。容赦ない暴力を以て襲ってくる野盗のアジトだ。
そんな場所に子どもである僕を連れていくことはできない。
僕の前ではそこまでは言わないけど、フレッティさんの優しい瞳が物語っていた。
すると、フレッティさんは僕の肩を叩く。
「本当であれば、君を我が主に紹介するべきなのだが……」
僕は頭を振る。
「気にしないで下さい。フレッティさんたちには、やることがあるんですから。僕は大丈夫です。……どうかご無事で」
「ありがとう、ルーシェル君。だが、もし君と再会が叶うのであれば、是非我が主君に会ってほしい。いや、私が紹介したいのだ。……レティヴィア騎士団の大恩人として」
「大恩人なんて」
ちょっと大げさ過ぎないかな。
傷の手当てをしたり、野盗から追われている人を匿ったりすることは、普通のことだと思うけど。
「では、また会おう、ルーシェル君」
「はい。また」
そう言って、フレッティさんたちは山を下りていった。
僕はみなさんが見えなくなるまで、手を振り続ける。
良い人たちだったな。
だから余計なんだ。
あんなに優しい人たちを失うわけにはいかない。
僕は家に戻り、道具箱の中からなめした皮を取り出す。
ただの皮じゃない。ジュエルカメレオンの皮で、被るだけで迷彩効果がある魔導具だ。
おまけに自動的に【気配遮断】のスキルも付くので、余程の達人でもなければ僕の姿を発見することは難しい。
音や匂いも抑制する効果があって、鹿や鳥などの獲物を獲る時に重宝していた。
僕はそれを頭から引っ被り、フレッティさんたちの後を追うことにした。
◆◇◆◇◆
僕はフレッティさんたちと距離を取りながら、後を追いかける。
いよいよ麓に出ると、突如フレッティさんが立ち止まった。
僕は反射的に木陰に隠れる。
(もしかして見つかった?)
その心配は杞憂に終わる。
フレッティさんは周りを見渡すと、首を傾げた。
「おかしいな。野盗たちの気配がない」
「確かにそうですね。わたしたちが下山するのを待ち構えていると思っておりましたが」
「あたしたちがなかなか下山してこないから、見張りに飽きて帰っちゃったんじゃない」
「それとも、わたしたちがもう魔獣に食べられた、と判断したか……」
みなさんが一斉に首を傾げるけど、結論は出ない。
戸惑うのも仕方がない。
その野盗たちは全員消滅してしまった。
消えた森も、完全再現とまではいかないまでも、スキルを使って元に戻しておいたし。
一見する程度では、何もわからないはずだ。
「ガーナー、どうだ?」
フレッティさんは、気配に敏感なガーナーさんに声をかけた。
「近くに気配は感じません。伏兵もいないかと」
「ふふ……」
「団長?」
「フレッティ団長、どうしました?」
「いや、なに……。ミルディが怪我した時、私は勝利の女神に見放されたと思っていた」
その言葉に、他の騎士たちも頷く。
「それを言うなら、団長が1人屋敷を飛び出してしまった時の方が、絶望感があったわ」
「ミルディの言う通りです。わたしたちが追いかけてこなかったら、今頃団長は炎に巻かれて返り討ちにあっていたかもしれないんですよ」
「う。すまん。……お前たちが来てくれたこと、感謝している」
この通りだ、フレッティさんは頭を下げた。
なるほど。そんなことがあったのか。
騎士団にしては、少ないと思っていたけどミルディさんたちはフレッティさんを追いかけてやってきたんだ。
「そういう意味では、私にとってはお前たちが勝利の女神かもな」
「ふっふっふっ……。もっと崇めてくれてもいいんですよ」
「ミルディ、調子に乗るのはそこまでよ。あなたの怪我でピンチに陥ったことは確かなんだから」
腰に手を当てるミルディさんを、リチルさんがたしなめる。
「そうだな。勝利の女神は負傷してしまったが、我々には勝利の天使がいたようだ」
フレッティさんはニヤリと笑う。
すると、他のみんなの顔も綻んだ。
「ですね」
「可愛い可愛い天使にね」
「…………ん!」
最後にガーナーさんが大きく頷く。
可愛い天使って…………も、もしかして僕のこと??
なんかこそばゆいなあ。
まあ、300年生きてる人間なんて、普通の人からしたら神様みたいなものかもしれないけど……。
僕は思わず笑う。
すると、ガーナーさんがこちらを向いた。
「…………」
「どうした、ガーナー?」
「…………いえ。何も……」
ガーナーさんは顎を撫でる。
「よし。出発だ。今度こそ、レティヴィア家の家宝を取り返すのだ」
おお! と騎士たちの声が重なると、街道に沿って南へと歩き出した。
日間総合4位! 異世界恋愛(短編)に吹き飛ばされそうですが、
なんとか崖っぷちで粘っております。
まだまだハイファンタジーも面白いところを見せたいので、
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