表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/287

第172話 林檎と甘藷の生クリームケーキ

☆★☆★ いよいよ明日発売です ☆★☆★


気が付けば、明日発売です。

もしかしたら、すでに並んでいる書店様もあるかもしれないので、

お立ち寄りの際には是非チェックしてくださいね。

本日発売の『劣等職の最強賢者』3巻もよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

「う~~~~~~~ん!」


 おいしい(ヽヽヽヽ)悲鳴を上げたのは、本日の主役の1人であるユランだ。


 ソンホーさんの得意料理の七面鳥の燻製に舌鼓を打っている。

 ユランはこの料理がいたくお気に入りだ。

 最近では何か祝い事があると、すぐにこの料理の名前を出すようになった。

 レティヴィア家で色々と食べているうちに、色んな味を知るようになったことで、お気に入りの料理が増えたのだろう。

 昔は、何かあればドラゴンステーキだったけど……。いい傾向だ。


 とはいえ、ユランでなくてもこのソンホーさんの七面鳥の燻製はうまい。


 燻製の風味に加えて、独特の甘みがあるのが特徴だ。

 1度下茹でした七面鳥のお肉は軟らかく、燻製にしてもしっとりとして食べやすい。


 隠し味はコヒの実を焙煎し、さらに粉々にして粉状にしたものを入れているらしい。

 独特のコクのようなものが生まれるのだそうだ。


 深い味わいのおかげで、飽きることなくいくらでも食べることができる。

 他の家族も「絶品」と称するソンホーさんの得意料理だ。


 メインを食べ終え、いよいよデザートの番になった。


 運んできたソンホーさんだ。

 ヤンソンさんが持ってくると思っていたけど、まさか料理長自ら持ってくるなんて。


 ソンホーさんは一礼した後、銀蓋を取る。


「甘藷で作ったケーキでございます」


 現れたのは、飴色に焼き上がったケーキだった。


 先ほど完成したばかりなのだろう。

 蓋を取った瞬間、甘い香りが鼻を衝く。

 でも、それはいつものケーキの香りとはひと味違う。


 甘い香りに違いはないけど、それは焼いた芋の香りだった。


「おいしそう……!」


「いい匂いだわ」


 甘いものに目がないリーリス、ソフィーニ母上は目を輝かせた。

 甘藷と聞いて、クラヴィス父上も長耳をピクピクさせている。

 その場にいた人間全員が、荷台の上にのったケーキに熱烈な視線を注いでいた。


「おいしそうだが……。なんか地味だな。我のお祝い会なのに」


 ユランはちょっと不服のようだ。

 確かにいつもソンホーさんたちが作る料理としては華がないかもしれない。

 僕が言うのもなんだけど、随分と素朴な姿をしていた。


 だが、ソンホーさんは「地味」と言われることをわかっていたらしい。


 切り分ける前に、取り出したのは角の立った生クリームだった。


 先ほどの甘藷の生地の上に、たっぷりと塗っていく。生クリームはとにかくふわふわで塗ってる間ですら、にやけてしまうほどおいしいそうだった。

 上と側面に丁寧に塗ると、最後に銀杏切りされた林檎と細かく刻んだハーブをちりばめる。


「綺麗……!」


「おお。おいしそうではないか!!」


 リーリスもユランもご満悦だ。


 確かに綺麗だ。

 ごつい甘藷の生地に、真綿のようなクリーム。銀杏切りされた林檎は皮付きで、ハーブと相まって、赤と緑、白と宝石のような美しさがある。


 さすがソンホー料理長だ。

 地味な甘藷のケーキに、生クリームと果物、ハーブを使って、一片に印象を変えてしまった。


 ソンホー料理長自ら切り分ける。


 目の前に並べられると、また食欲が湧く。

 特に香りがあまりに官能的でクラクラしてしまった。


「どうぞお召し上がりください」


 ソンホーさんは頭を下げる。


 僕たちが早速、甘藷のケーキを味わった。


「んんんんんんんんんん!」



 うまい!!



 僕たち家族は意見を一致させる。


「おいしい。甘藷のケーキ、初めて食べましたけど、甘くてしっとりしてておいしいですね」


「思ったより軟らかい。それに甘藷の甘みが濃厚だわ。いくらでも食べれちゃう。いけないわぁ、体重が」


「はむはむはむ……。うまうま!」


 甘味に目のない女性陣はご満悦な様子だ。


「この甘藷のケーキは領民に教えてもいいかもな」


「冬の強い味方ですが、意外とできすぎてあまりがちな作物ですからね。それはいい案だと思います、父上」


 お互い学者同士の父上と兄様は、別の角度から味わっている。

 カリム兄様の言う通り、父上の案は良いと思う。


 ほとんどヤンソンさんに任せてしまったけど、うまくできててよかった。


 でも、僕の甘藷ケーキだけでは、ここまで絶賛されなかったかもしれない。


「やっぱりソンホーさんは凄いや」


 まずこの生クリーム。ただの生クリームじゃない。

 クリームチーズを入れていて、微かに酸味を感じる。

 それが甘藷の甘みをさらに引き立てていた。


 生クリーム自体は、砂糖を控えめにしている。これはおそらく甘藷の甘みをあまり邪魔しないようにするためだ。そのため生クリームと甘藷の生地の親和性が高まっている。


 何気にデコレーションされた林檎もいい仕事をしていた。


 果物特有の甘さと酸味があって、これもまた甘藷の甘みの挽き立て役になっている。

 最後に加えたちりばめたハーブが、爽やかな後味を演出していた。


 僕が考案した甘藷のケーキの味を何倍にも高めてくれている。


 やっぱりソンホーさんって凄い料理人だ。


 僕ももっと技術を付ければ、ソンホーさんみたいな料理人になれるだろうか。



 ◆◇◆◇◆



 お祝い会は終幕し、家族と他愛もない会話で談笑した後、僕は炊事場に顔を出した。


 ソンホーさんはもう上がったかと思ったけど、炊事場で明日の献立を考えている。


「どうした、小僧?」


「今日はありがとうございました、ソンホーさん。あと、ヤンソンさんも。完璧な焼き加減でした。家族も喜んでいましたよ」


「そ、そうか」


 ヤンソンさんはホッとした様子だ。

 いつも落ち着いてみえるヤンソンだけど、内心ではドキドキしていたのかもしれない。


「ソンホーさん、クリームチーズが入った生クリーム、とってもおいしかったです。デコレーションも素敵で。やっぱり僕はまだまだですね。料理長みたいになれるように頑張ります」


「いや、こっちこそすまない。お前さんの料理に乗っかるような真似をして」


「いえ。でも、料理長。本当は甘藷のケーキを作るつもりだったんじゃないですか? だから、ヤンソンさんに買いに行かせて」


 僕がズバリ言うと、ソンホーさんがヤンソンさんを睨む。

 すると、ヤンソンさんは手を振った。


「俺は何も言ってませんよ。本当ですってば」


「ふむ。気づいておったのか」


「はい。でも、それなら何故母上に言わなかったんですか?」


「甘藷は優れた食べ物だが、庶民の食材だ。公爵夫人に甘藷で代用するとは言いにくくてな。……お前さんが先に言ってくれて助かった」


「甘藷のケーキって言っても、奥方様もよくわからなかっただろうからな」


 確かに……。甘藷のケーキと聞いた時、母上はかなり戸惑っていた。

 ヤンソンさんが言うように、納得してくれなかったかもしれない。


「先ほども言ったが、お前さんの料理にのっかる感じになってすまなかった。本当に助かったよ」


「そんな! 頭を上げてください、料理長。今日はいっぱい勉強させてもらいました。感謝するのはこっちの方です。


「そうか。そう言ってもらえるとありがたい」


「ところで、ルーシェル。お前、よく甘藷のケーキなんて知ってたな。作ったことがあるのか?」


「はい、ヤンソンさん。昔、山ではしょっちゅう作ってました。山には麦がありませんから。ケーキを作れなかったんですよ。だから、山で自生していた甘藷でできないかなって」


「そうか、お前はパンもケーキも作るのが難しい土地にいたんだな」


 ヤンソンさんは僕の頭に手をのせる。

 珍しく、頭を撫でてくれた。


「うちの料理長もすごいけど……、俺からすればお前だって十分すごいんだからな。今日はマジ助かった。ありがとうな」


 僕もすごい。


 もしかして褒められてる?


 戸惑いを隠せず、ソンホーさんの方を向く。

 ソンホーさんは嬉しそうに目を細めた。


「ヤンソンが褒めるとはな。……こりゃ明日も明後日も雨が降るかもしれんぞ」


「お、俺だって褒める時は褒めますよ」


 ヤンソンさんが珍しく声を荒らげる。


 その声を聞いて、炊事場は笑い声に包まれた。


 家族もそうだけど、炊事場にも素敵な大人たちがいっぱいいる。


 やっぱりレティヴィア家に来て、正解だった。


☆★☆★ こちらは本日発売 ☆★☆★

拙作原作『劣等職の最強賢者』コミックス3巻が本日発売です。

こちらもよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ