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第169話 蜂針の蜂蜜漬け!?

☆★☆★ コミックス 7月20日発売 ☆★☆★


発売まであと1週間です。

レティヴィア騎士団と合流。その活躍を描いた単行本になっています。

是非お買い上げください。


挿絵(By みてみん)

「え? 人間の?」


 ヤールム父様が人間の姿をしていると聞いた時、僕は思わず聞き返してしまった。


 僕はレティヴィア家にいる間、300年の間起こっていたことを歴史で学んだ。

 人類と魔族の戦いは暗黒の歴史といわれ、数々の文字や文化物が破壊された。そのおかげで、ほとんど記録が残っていないけど、その発端においては一致している。


 すなわちヤールム父様が魔族結託し、人類に戦争を仕掛けたのだと……。


 人間が魔族に進んで与するなどありえないことだ。

 父様は国のために戦っていた信念の人だ。尚更、そんなことはしないだろう。


 だから、僕は魔族にそそのかされたのだと思っていた。


 でも、人間の姿って……。


「あの者は確かに魔族と契約し、不老の力を得たことは確か。しかし、その姿も背負った信念も人間のままに思えた」


 そう言うと、アルテンさんは顔を上げる。遠くを見るように言葉を続けた。


「まるで人間の姿でありながら、人間を罰しようとしていたようにわしには見えた」


「人間を罰するって……。父様は何故、そんな……?」


 僕の質問にアルテンさんは、首を振った。


「わしにもわからぬ。神になろうとしたのか。あるいは別に何か理由があったのか。……1つ言えることは、あの者はまだ生きているということだ。ルーシェルくん、努々気を付けよ。君が生きているとするなら、あの者は黙っておらんぞ」


「……はい」


 僕は気の抜けた返事しかできなかった。

 ほんの5分程度の話だけど、何かドッと疲れたような気がする。

 頭の中で色々な思考がぐるぐると回って、最後にはぐちゃぐちゃになっていた。


 僕が席を立とうとすると、アルテンさんはまた口を開いた。


「1つ大事なことを言い忘れていた」


「なんでしょうか?」


「今回の話だが、クラヴィスから事前に言われて話すことにした。もし、ルーシェルが請うなら話してやってほしい、と」


 クラヴィス父上が……!


「ショックを受けるのでは、とわしは止めたのだが、あやつもしつこくてな。最後にこう言ったのだ」



 もうルーシェルはレティヴィア家の子どもです。我が子ならきっと乗り越えてくれます。



(クラヴィス父上……、僕を信じて)


「君にとって、ヤールムは生みの親じゃろう。血が繋がっている以上、気になるのは当然だ。しかし、君はもう山で1人で過ごしていた時とは違う。……ルーシェルくん、君の周りにはたくさんの大人がいる。わしもその1人だ。いざとなれば、頼ってくれていい」


「ありがとうございます」


 感謝の言葉をかけながら、僕はこみ上げてくるのを抑えられない。


 それをそっと包んでくれたのは、アルテンさんだ。

 出会ったばかりの僕を我が子のように慈しんでくれた。


「クラヴィスの言う通りだ」


「父上が他になんと?」


「そなたはなまじ能力がある故、人に甘え方を知らぬ。……もっと我が侭でいい。なんでも聞き分けてしまう子どもは、親として育てがいというものがないのでな。クラヴィスを困らせるぐらいの問題児であれ。のう」


 最後にアルテンさんはお茶目に笑う。


 さすがクラヴィス父上の師匠だ。


「ありがとうございます、アルテンさん」


「うむ。だが、試験は試験。公平にジャッジさせてもらうぞ。クラヴィスの息子であろうとだ。それで良いな」


「はい。よろしくお願いします」


 僕が頭を下げると、アルテンさんは微笑んだ。


「とはいえ、クラヴィスの見初めた子どもだ。楽しみにしているぞ、イタタタ」


 アルテンさんは立ち上がると、顔を歪めた。

 軽く腰を叩いているのを見て、僕は声をかける。


「大丈夫ですか?」


「いや、心配いらん。持病じゃよ。この歳になるとあちこちガタが来てな。特に腰が言うことをきかん」


 腰を曲げたままアルテンさんは苦笑を浮かべる。

 歩くのも辛そうだ。おそらくかなり重度の腰痛を患っているのだろう。


「治らないんですか?」


「老いによるものじゃからな。こればかりは回復魔法や魔法薬でも治せん」


「治せますよ」


「む? 本当か?」


「いい薬というか、食べ物があるんです」


「食べ物? そういえば、クラヴィスの話では、ルーシェル君は魔獣を食べるとか」


「はい。ちょっと待って下さいね」


 僕は【収納】に手を突っ込む。

 手で中を漁った後、拳大ぐらいの小さな甕を取り出した。


 蓋を開くと、黄金色の蜜が現れる。


「これは蜂蜜か?」


 アルテンさんは目を輝かせた。


「はい。キングビーの蜂蜜です」


「キングビー! 単体ではBランク、しかし群れが相手となると危険度がSにまで跳ね上がる魔獣だな」


 僕は頷く。

 【収納】から箸を出して、蜂蜜に入れた。

 持ち上げると、粘性の高い蜂蜜が糸を引く。

 金糸のように美しい蜂蜜に、再びアルテンさんは声を上げた。


「うーん。見るからにうまそうじゃ」


「おいしいですよ。キングビーの蜂蜜は……。実際、これは市場でも高値で取引されているぐらいですから」


「確かにの。しかし、キングビーの蜂蜜に腰痛効果があるとは聞いたことがないが」


「いえ。効果があるのは中に入っているものです」


「中?」


 僕は箸を甕の底へ突っ込む。

 実は、よく見ると蜂蜜の奥の方に何かが沈んでいた。それを箸で慎重に摘まみ上げる。

 出てきたものを見て、アルテンさんは目を丸くした。


「ん? 釣り針?」


 一見、そう見えなくもない。

 それは針のような細さで、やや孤を描いていたからだ。


 けれど、違う。


「これはキングビーの針です」


「キングビーの……!」


「はい。キングビーの蜂蜜に、お酒を混ぜて造った――言わば、蜂針の蜂蜜漬けです」


「は、蜂針の……蜂蜜漬け…………!!」


 アルテンさんは声を上げる。

 思わず曲がった腰がピンと立ってしまうぐらいにだ。


 僕は針の尖っている部分を指で折る。

 このまま食べることも可能だが、うまく食べないと、この針の部分が喉に引っかかってしまって危険だからだ。


「飲み込まずに、ゆっくり食べてください」


「ふむ」


 僕から蜂針の蜂蜜漬けを渡されたアルテンさんはしげしげと眺める。

 しばらくして、思い切って口にしてみた。


 コリッ!


 さらにボリボリ、と小気味良い音が鳴る。

 アルテンさんの目が再び輝いた。


「うまい! これがキングビーの針の味なのか!」


 雷鳴が轟くように絶賛した。


 良かった。気に入ってもらえたようだ。


「まず食感に驚かされる。もっと硬いのかと思ったが、このボリボリという咀嚼音。大根や蕪菁(かぶら)と似ている」


 決して広いとはいえない面接室の中で、ボリボリというおいしそうな音が響く。


 それを聞いて、僕は思わず笑顔になった。


「蜂蜜漬けと聞いて、もっと甘いのかと思ったがそうでない。やや酸味もあり、すっきりとしている。何よりうまい。うん。蜂蜜酒と一緒に食べたいものだな」


 最後には上機嫌に声を上げる。

 白い顔はもう赤くなっていて、まるですでにお酒を飲んだ後みたいだ。


 良かった。気に入ってもらえて。


「良かったですね」


「ありがとう、ルーシェルくん。いや、実は蜂蜜には目がなくてな。知っての通り、エルフは……」


「あ。いえ。腰ですよ。治って良かったですね」


「ん?」


 アルテンさんは目を瞬かせる。

 視線をゆっくりと下に向けた。

 そこでようやく今自分に起こっている事態に気づく。


 さっきまで曲がっていた腰がピンと立っていたのだ。


「こ、これは! こんなことがあるのか?」


「これがキングビーの蜂針の効果です。単体でも効果があるのですが、その蜂蜜と一緒に食べるとさらに倍増するので、僕は蜂蜜漬けにして食べてました」


 僕がまだ不老不死になる前。

 よくこの蜂針を食べていた。

 今ほどではないにしろ、アンチエイジングの効果もあって、骨や関節の効果を高めるのだ。


「すごいなあ。まさかここまで効果があるとは……。これが魔獣食か」


「では、僕はこれで……。ありがとうございました」


「う、うむ。ありがとう、ルーシェルくん」


「いえいえ。あ。でも、あまり無理はしないでくださいね」


 僕は再び頭を下げて、面接室を後にした。


 こうしてジーマ初等学校の入学試験は終わったのだ。



 ◆◇◆◇◆ アルテン ◆◇◆◇◆



 不思議な子どもじゃ。


 達人のような気配を持っておるのに、その心根はとても幼い。

 数奇な人生のせいだろうが、それにしても歪み過ぎている。


 なのに、その人生は過酷と来ている。


 おそらく必ずヤールムは、あの子の前に現れる。


 その時、あの子を守れる者は、一体何人いるだろうか。


 あと100年早く出会っておればのぅ。


 神よ。願わくば、あの子に最高の友を与えてくだされ。


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