第166話 試験開始
☆★☆★ コミックス2巻発売!! ☆★☆★
コミックス2巻の書影が発表されました。
前回はサバイバル感がありましたが、
今回のレディヴィア騎士団も加わって、公爵家っぽくなってます。
7月20日発売されるので、是非お買い上げください。
初等学校の試験は2日に渡って、行われる。
1日目はペーパーテスト。
2日目は面接と剣術、魔法の試験だ。
ペーパーテストは3教科。
歴史、語学、マナーだ。
3つとも再び学校で学ぶことになるのだけど、試験では最低限の知識が求められる。
大人からすれば常識ともいうべき知識も、子どもにとってはなかなか難しい。300年、人里から離れていた僕や、試練の竜であるユランにとっては、常識が案外難しかったりする。
けれど、ヴェンソンさんやカンナさんのおかげで、試験対策はバッチリだ。
そして初日のペーパーテストがついに終了した。
「終わった……」
半分魂が出かかりながら、ユランは机に突っ伏す。
「どうだった、ユラン?」
他の受験者たちが試験の行われた教室から出て行く中、僕はその流れに逆らって、ユランの机に向かう。ユランは僕の声に反応して、顔を上げる。
僕の方を向いたユランの顔は、げっそりしていた。
「もしかして、試験わからなかった?」
「いや、試験はできたのだが……」
「なら良かったじゃない」
「じっとしていたのが辛かった……」
「そ、そっち……」
「人間はなんでこんな同じ姿勢のままでいられるんだ」
「君だって、竜の姿でいる時はじっとしているじゃないか」
「あれは寝ている時だ。そもそも人間の姿の我と、竜でいる時の我を一緒にするでない。本来の姿ではないというのは、存外負荷がかかるものなのだぞ!」
むぅ、と頬を膨らませて、ユランは反論する。
まあ、肝心の試験ができたならいいか。
「頑張ったね、ユラン。明日は実技が中心だから、今日よりは身体を動かせることができると思うよ」
「おお! なら、明日はいっぱい暴れてやるぞ!!」
いや、暴れるのはちょっと……。
僕はこの時はまだ知らなかった。
この心配が現実のものになるとは……。
2日目は剣術と魔法、そして最後に面接だ。
剣術試験は子ども用の皮の鎧を着用し、木刀で1対1で戦う。
相手は騎士団に所属する騎士だ。
大人と子どもの差。体格もそうだけど、力量にも大きな開きがある。
だから騎士団は本気で撃ち込まず、受験生が着用している皮の鎧に軽く当てるだけ。
木刀には墨が塗ってあって、3回皮の鎧を当てられたところで、試験はそこで強制終了されるというルールだ。
逆に受験生は騎士団に1度打ち込めば、試験はそこで終了となる。
名門学校の試験としては結構野蛮だけど、この学校から騎士になり、将来優れた指揮官となった人もたくさんいるらしい。武勇に長けることもまた、学校が求める人材なのだと、とカリム兄様が教えてくれた。ちなみに兄様もこの学校の出身だ。その後、【勇者】になったことは今では誰もが知ることだ。
「うわーん! 痛いよー!」
とはいえ、やはり子どもは子どもだ。
この試験にどうしても尻込みしてしまう受験生もいる。何より軽くとはいえ、普段暴力になれていなければ、身が竦んでしまう子どももいる。
おそらくこの剣術で試されているのは、武器を持った大人相手にどう立ち振る舞うのか、ということだろう。
純粋な技量をこの段階で試さないことには感服できる。
けれど、問題はそれを試験官たる騎士が理解しているかどうかだ。
「痛ッ! やられた!!」
尻餅をついたのは、試験官役の騎士だった。
その前には得意げに笑顔を浮かべる受験生の男の子がいる。
おそらく身分の高い貴族だろう。
身なりも整っていて、どこか気品を感じる。
「ふん。楽勝だったぜ」
得意げに鼻を鳴らす。
知り合いと思われる受験生と談笑し、「さすがです」と持ち上げられていた。
「ルーシェル見たか、今の?」
ユランは気づいたらしい。
「うん。あの試験官、さっきと動きが全然違うね」
「違うなんてものじゃない。わざと打たせにいっておったぞ!」
怒りを露わにする。
一瞬、熱が上がりすぎて、目だけが竜に戻っていた。
どういうつもりか知らないけど、剣術の試験官は依怙贔屓をしているらしい。
僕が見る限り、良いところ貴族の子どもには手を抜いて、身なりの冴えない貴族や平民の子どもに対しては、厳しく試験をしている。言葉を選ばずに言うなら、前者を合格させ、後者を試験で落とそうとしているように、僕には見えた。
もちろん、そんなことをしたら駄目なことは、常識に疎い僕でもわかっている。
「神聖な試験の場を汚しおって。人間の試験官というのは、みんなああなのか」
試練の竜といわれているユランからすれば、今騎士がやっていることは度しがたい行いなのだろう。
剣術試験は6グループに分かれていて、それぞれ別の試験官つまり騎士が担当している。
他のグループの騎士たちは公平に立ち回っているのに対し、僕とユランのグループの騎士だけが怪しい行動を取っていた。
「あまり無茶なことは駄目だよ、ユラン」
「わかっておるわ。なんだか、我ら見張られているようだしな」
「おい! そこ!! 私語を慎め! 今は試験中だぞ」
突然、試験官が吠える。
僕やユランの方を睨んでいた。
試験官は舌打ちすると、次の受験生を呼ぶ。
「348番! 出なさい」
「はい!」
そして僕の番がやってきた。








