第159話 千年雪象
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食事のお礼は、モフモフ⁉️
生け贄として召喚された主人公が、魔王様をモフモフするため食事係として奮闘するお話です✨
カラー付きのおいしい料理にも注目ですよ。
宣伝失礼しました.
「私が……、死ぬ…………?」
思いもがけない氷の精霊に、それまで幸せそうだったアプラスさんの表情が変わる。まさしく氷の精霊の花嫁らしく、肌は蒼白となっていった。
ショックを受けていたのは、アプラスさんだけじゃない。側にいたカーゼルスさんも、リチルさんやフレッティさん、カリム兄さんまでも息を呑んで固まっている。
かくいう僕もそうだ。
『氷魔の渓谷』に溢れた幸せな空気が、氷の精霊の一言によって一気に消し飛んでしまった。
「どういうことですか、氷の精霊よ。何故アプラスは死ななければならないのですか?」
神妙に尋ねたのは、今にも倒れそうになっているアプラスさんを支えたカーゼルスさんだった。
『……反動だ?』
「反動?」
『アプラスは1000年生きている。通常の人間の身体では、まさしく身が持たぬ月日であろう。今、彼女の肉体を支えているのは、アプラスが精霊人だからだ。我が庇護の元にある彼女は、我が魔力を受けて、人から外れ不老の力となる』
「その庇護から外れれば、一気にアプラスさんの身体は崩壊し、やがて死に至るということですね」
僕が補足すると、氷の精霊はやや遠慮がちに頷いた。
たぶん、氷の精霊は嘘を言っていない。
理屈とはあっている。今、アプラスさんの肉体が崩れ落ちないのは、氷の精霊の魔力のおかげだろう。
「では、このまま精霊人のままというのはどうなの?」
「それはダメなのです、リチルさん」
リチルさんの疑問に、アプラスさんは即否定する。
その理由も氷の精霊は語った。
『精霊人は精霊の御子や、そこにいる契約者たちとも違う。お前たち人間風に言うならば、生き方なのだ』
「生き方……。そうか。精霊人は未来が見えるって」
アプラスさんは言っていた。
自分が精霊人となった時、知識と同時に自分の未来まで見えたって。
『我が指し示す未来から外れれば、それは精霊人の生き方から反する。そこの男と一緒になるという決断している今ですら、アプラスは苦しいはずだ。違うか?」
「そうなのか、アプラス?」
「はい。……精霊様の言う通りです」
アプラスさんはついに頽れる。
顔色が悪かったのは、ショックだったからじゃない。
うちに秘めた本当の思いを吐露し始めたからだろう。
すでに精霊人として未来から外れ、身体が拒否反応を起こし始めているのかもしれない。
でも、どうしよう。
このままでは2人は結局一緒にいられない。
精霊人としての生き方から外れれば、結局アプラスさんは死んでしまう。
「氷の精霊、確認させてほしい」
『なんでしょうか、精霊の御子よ』
「生き方が外れることによって、精霊の力が弱まる。つまり、アプラスさんを庇護する君の魔力がなくなっていく――そう解釈して問題ないかな?」
『はい。そう考えていただいて問題ありません』
「つまり、他の方法で用いてアプラスさんに魔力を摂取させればいいわけだ」
僕と氷の精霊の会話を聞いて、カリム兄さんは感心した様子で顎を撫でた。
「なるほど。精霊の庇護を代用するというのか」
「でも、精霊の力の代用なんて簡単には……。魔力回復薬でもそこまで」
「いや、リチル。そうでもないぞ」
懐疑的なリチルさんに対して、フレッティさんはどうやら僕の言わんとしていることがわかったらしい。
「我々は知っているじゃないか。魔力回復薬でなくとも手軽に、そしておいしく魔力とその効果を摂取する方法を……」
「あ。そうか」
リチルさんは僕の方を見つめた。
「はい。その通りです。僕の魔獣食ならば、アプラスさんを不老とはいかないまでも、生きながらえさせることができるかもしれません」
僕の言葉を聞いたカーゼルス伯爵とアプラスさんは、顔を見合わせる。
嬉しさを爆発させるように、お互いを抱きしめるのだった。
◆◇◆◇◆
氷の精霊に別れを告げて、僕たちは『氷魔の渓谷』から下山していく。
激しい吹雪は止み、空も白々として明るくなってきた。空気もどこか清々しい。大きく吸い込むと、まだ肺が凍り付きそうなぐらい寒いけど、随分と暖かくなったような気がした。
僕はレティヴィア公爵領に帰る道すがら、何の魔獣食を作ろうか考えていた。
アプラスさんは細いけど、随分と体力を消耗しているだろうし、何か温かい料理がいいだろうか。いや、その前に食材だなあ。
僕の【収納】の中には、まだ色んな食材が残っているけど、なんかピンとこない。
カーゼルス伯爵とアプラスさんの記念日にもなるんだから、もっと盛大な料理がいいと思うんだよねぇ。
「あっ」
僕はつと立ち止まる。
同時に下山中の一行全員が足を止めた。
視界に映ったのは、巨大な魔獣である。
氷の精霊の影響が出なくなっても、魔獣は存在するみたいだ。
ドンッ!
地響きが起こる。
それだけで雪崩が起こりそうだ。
現れたのは真っ白な毛に覆われ、2本の曲がった牙を持つ小山のように大きな魔獣だった。
「ミレニアムスノウか……」
カリム兄さんは息を呑む。
ミレニアムスノウ――別名『千年雪象』。
雪山に住む巨大な象の魔獣である。
それにしても、僕が知るミレニアムスノウよりも大きい。
多分、あれは……。
「この辺りの主ですね。おそらく精霊様の力が弱まったことによって、穴蔵から出てきたのでしょう」
アプラスさんは教えてくれる。
やっぱりこの辺りの主か。
ミレニアムスノウはAランクの魔獣だけど、あの大きさならSランクに格付けされてもおかしくない。
「こんな時に厄介な魔獣が出てきたな」
「戦いますか、カリム様」
フレッティさんがフレイムタンに手をかけるけど、カリム兄さんは制止した。
「待てフレッティ。あれほどの大きさを持つ魔獣だ。下手に手を出して暴れ回れば、雪崩を起こしかねない」
「なるほど。では――――」
「やり過ごそう……。ルーシェルもそれでいいね? ルーシェル??」
「カリム兄さん、すみません。本日の魔獣食が決まりました」
「本日のって……。まさか――!?」
息を呑むリチルさんを見て、僕は笑った。
「そのまさかです。……ここで待っていてください。仕留めてきますから」
「仕留めるって……。ちょっ! ルーシェル君!! 相手はA、いや、Sランクの……」
白く濁った息を吐きながら、僕は雪原を駆け抜ける。
アプラスさんにも、カーゼルス伯爵にも僕の力を見せた。
もう隠す必要がないなら、全力で行かせてもらう。
渓谷から突如降りてきた僕にミレニアムスノウが気づく。
敵意があることを悟ると、自慢の牙をこちらに向けた。口を開けて、何かスキルを使おうとするけど、僕には通じない。
そのまま雪原を滑るように走り抜くと、【収納】から元ドラゴンキラーの包丁を取り出した。
スキル【短冊切り】
巨大なミレニアムスノウを縦に数回切断する。もちろん、未晶化の技術は使っている。雪原にゴロッと転がったのは、いい具合に脂の乗ったミレニアムスノウだった。
「思った通り、おいしそうだ」
実はミレニアムスノウをこうして食材にしたのは初めてだ。
これは300年生きる料理人の勘だけど、お肉がおいしいように思えたのだ。
切ったお肉を僕はみんなに掲げる。
でも、返事はない。みんな、青白くなって固まっていた。
「あれ?」
もしかして、ちょっと僕……やりすぎたかな。
前書きにも書きましたが、『ごはんですよ、フェンリルさん』が配信開始されました。
カラーで展開されるウェブトゥーンの強みを生かした作品となっております。
すべての料理にカラーがついて、今まで以上においしそうな料理となっておりますので、
是非ご賞味ください!








