表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/287

第156話 精霊の理由

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


ヤンマガWebにて最新話が更新されました!

今明かされるその後のトリスタン家のお話です。

重要なお話なので、是非読んでくださいね。


挿絵(By みてみん)

「か、からぁぁぁああああ!!」


 カーゼルスさんは大口を開けて叫んだ。

 まるで雷撃が走ったかのように身体を痙攣させている。

 それまで活動的に動いていた触手も勢いがなくなり、ピンと立った後に力なく倒れてしまった。


 黄色のスライム飴はサンダースライムを原料としている。とても刺激的な味で、辛いというよりは、痛いに近い。

 原料がサンダースライムだけに直接飲み込むと、微弱な雷撃が身体の中に入り、一時的に動きを止めてしまうのである。


 僕はこれを山で獲物を狩る時に使っていた。

 効果は抜群で、Cランクの魔獣ぐらいならサンダースライム飴1個で無傷で捕獲できるほどだ。


 人間相手に使ったのは、これが初めなんだけど、大丈夫かな。

 そもそもカーゼルスさんって結構なお年だし。

 心臓が止まったりしたりしないだろうか。


「も、もう少し使用は慎重にした方が良かったかな」


 僕は頭を掻いて誤魔化す。


 だが、カーゼルスさんは元気そうだ。

 咳をしながら、必死に飲み込んだ飴を吐き出そうとする。

 ただ飲み込んだものをすぐに吐き出すのは至難の業だ。


 幸いなことに、雷撃を浴びたような感覚は1度だけ。

 溶ければ、パンチの効いた甘い飴でしかない。


「び、ビックリした……。ルーシェルくん。君、一体私に何を飲ませたんだ?」


 カーゼルスさんはお腹の辺りをさすり、げっそりしていた。

 意識が戻ってきたらしい。

 サンダースライム飴のおかげで、呪いの効力が抑えられているのかもしれない。


「伯爵閣下!」


「意識が……」


 吹き飛ばされたフレッティさんとカリム兄さんが戻ってくる。

 リチルも、アプラスさんも聞こえてきたカーゼルスの言葉に驚く。

 アプラスさんはなんかは泣きそうになっていた。


「カーゼルスさん、意識が……」


「意識……。いや、私は一体……。うわああああああ! な、なんだ、この手は!!」


 黒く変色し、触手のように変体した腕に驚く。

 どうやら、呪いに飲み込まれていた間のことは覚えていないらしい。


 直後、カーゼルスさんが光り始める。

 輝きは全身を包み、光そのものになっていく。


「な、何が起こってるの?」


「落ち着いてください」


 多分、氷の精霊だ。

 カーゼルスさんの中にある呪いを浄化しているのだろう。


 僕はそのことをアプラスさんに告げた。


「氷の精霊様が? 一体どうして?」


「僕にもわかりません。後で氷の精霊が教えてくれると思います」


 やがて光は止む。

 カーゼルスさんが光の繭の中から現れる。

 すべてが元通りになっていた。

 真っ赤になっていた目も、変色していた腕や身体の一部も、着ていた服ですら元のままになっている。


 すごいことは知っていたけど、これが精霊の力なんだ。

 僕もやろうと思えばできるけど、短時間でここまでスマートにはできない。


 やがてカーゼルスさんに集まっていた光はゆっくりと僕たちの背後で積み上がっていく。

 最終的に、あの氷の大蛇が再び僕たちの前に現れた。


 疲れた様子はなかったが、どこか安堵しているようにも見える。


 最初に氷の精霊に近づいたのは、アプラスさんだった。

 深く積もった雪を踏みしめながら、近づいていく。同時に、大蛇の頭もまたアプラスさんに近づいていった。

 一瞬食べられる、と思ったが違う。

 アプラスさんはそっと大蛇の頭を撫でる。


 そしてアプラスさんは顔を上げて、問うた。


「どうして? どうして、カーゼルスさんを助けてくれたのですか?」


「…………」


「あなたは……、あなたたちは我々人間に興味がない。むしろ嫌っているのではないのですか?」


『……否定はしない』


「なら……」


『だが、アプラス……。お前は人間ではない』


「私が精霊の花嫁だから」


『違う。お前は精霊人だ』


 アプラスさんはハッとなる。

 確かにアプラスさんはもう人間ではない。精霊と魂が同一化した精霊人だ。

 でも、果たしてそれだけが理由だろうか。

 そもそもアプラスさんを助けたのが精霊人だからというなら、何故カーゼルスさんまで助けたのだろう。


 あのままいけば、カーゼルスさんは呪いに飲み込まれて自滅していたかもしれない。

 それを精霊自ら助けたのは、どう考えてもおかしかった。


 すると、氷の精霊は鎌首をもたげる。

 少し遠くを望みながら、口を開いた。


『……多分、それだけではないのだろう』


「はい。私が精霊人というなら、カーゼルス様まで救ったのは何故でしょうか?」


『……わからぬ』


「わからぬ?」


 精霊は全知全能の神ではないにしろ、それに近い存在だ。

 人間より遥かに長い生き、多くのことを見聞きしていた氷の精霊が「わからぬ」といった一言に、僕は衝撃を受けた。


 しかし、次に僕はその「わからぬ」といった言葉の意味を知ることになる。


『私はお前がわからぬ、アプラス……』


「え? 私??」


『そなたは何故ここにいる?』


「それは精霊人として……」


『何故、他の人間のように魔女にならぬ? 何故、1000年経っても人のように生きられる? 何故、私の側にいられる?』


「えっと、それは……」


 アプラスさんは言いよどむ。


 凄い。アプラスさんもそうだけど、氷の精霊もどこか戸惑っているように見える。


 まるで、その――――。


「なんか……。氷の精霊と精霊人っていうよりは、付き合い立ての恋人同士みたいね」


 つい口に出たのは、リチルさんだった。

 慌てて口を塞いだけど、遅かりしだ。

 そっとカーゼルスさんの方を見ると、本人は黙って氷の精霊とアプラスさんの話を聞いていた。


 アプラスさんは答えを探すように言葉を吐き出す。


「魔女にならないのも……。人間のように振る舞えているのも……。私にはわかりません。でも、最後の1つだけはわかります」


『なんだ? 何故、お前は我の側にいる? 夏季に人里においても、お前は冬になれば帰ってくる。何故だ?』


「それは…………」



 あなたが寂しそうだったから。


☆★☆★ 延野原作のコミカライズ更新情報 ☆★☆★

●『アラフォー冒険者、伝説になる』(BookLive)

●『劣等職の最強賢者』(ニコニコ漫画)

●『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』(ピッコマ、コミックノヴァ)


こちらもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ