第155話 精霊と共闘
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本日、ヤンマガWebにてコミカライズ更新されました。
是非読んでくださいね。
『精霊に祝福されし御子よ』
突如、声が僕の頭の上から降り注ぐ。
僕はハッとなって後ろを振り返った。
大蛇となった氷の精霊と目が合う。
「君の声なのかい?」
僕が質問すると、氷の精霊は小さく頷く。
そして今、アプラスさんに襲いかかろうとしているカーゼルスさんを見る。
カーゼルスさんは再びフレッティさんやカリム兄さん、そして援護するリチルさんに抑えられていた。
その顔は鬼の形相だ。
見たこともないカーゼルスさんの表情に、アプラスさんも萎縮してしまっている。
このままカーゼルスさんから呪剣を切り離さなければ、不幸な結果になってしまうだろう。
『精霊の御子よ。あなたにお願いがあります』
「なんだい?」
『これから私はあの者の体内に入り、呪いを除去します』
「あの者……。カーゼルスさんの中に入るのかい? そんなことができるの?」
『御子よ。本来の我らの姿を忘れておられませんか?』
今、氷の精霊は屋敷よりも大きな蛇の姿を取っている。
でも、本来精霊というものは目に見えないほど小さな生物なのだ。
今こうして大蛇に見えるのは、小さな精霊が魚群のように集まって、人間の目にも見えるほどの大きさになっているからだ。
「それで、お願いというのは?」
『それまであの者を抑えておいてほしいのです。できれば、呪いの活性化を一時的に抑制いただきたい。できますか?」
「一時的というなら……。でも――」
『なんでしょうか?』
「いや、意外だなって……。君はあの人を助けようとしている。呪いを吐き、今もアプラスさんを殺そうとしているカーゼルスさんを」
精霊は人間に興味がない。
その生き死にも。
あるとすれば、精霊――いや、世界を大きく汚そうとした時だけだ。
その元凶というべき人間を、氷の精霊は助けようとしている。
意外という言葉以外の言葉を、僕は見つけられなかった。
『それは…………。そうですね。それは後ほど。どうやらあまりゆっくりと話している時間はないようですので』
大きな音が鳴り、悲鳴が上がった。
見ると、フレッティさんとカリム兄さんが吹き飛ばされている。それを見て、リチルさんが雪煙に包まれながら、アプラスさんともに悲鳴を上げていた。
氷の精霊の言う通りのようだ。
「わかったよ!」
『頼みます』
氷の精霊が消える。
消えるというより、集まっていた精霊が散り散りに散ったのだ。
小さくなることで、カーゼルスさんの体内に入っていくつもりだろう。
「伯爵! 目を覚ましてください!!」
「カーゼルス、もうやめてください!!」
リチルさんの背後で、アプラスさんは訴えかける。
だが、返ってくるのは野獣じみた唸りだけだった。
まずいな。もうかなり意識が呪いに乗っ取られつつある。
カーゼルスさんは構わず凶刃を振るう。
「危ない!!」
ついに僕は前に出た。
呪剣を先ほど氷の精霊が見せたように両手で挟む。
すごい力だ。
もはや人の領域を超えている。
相当強い呪力にカーゼルスさんは身体を乗っ取られているようだ。
こういう時にユランがいてくれたら、心強いのだけど、ないものねだりをしても仕方がない。
「る、ルーシェルくん。大丈夫?」
「あまり無理しない方が……」
背後のリチルさんとアプラスさんが心配する。
「ご心配なく。なんとかいけます。それにまだ僕、本気を出してないので」
「え?」
「本気を出してない??」
2人はキョトンとする。
女性2人を尻目にして、僕は挟んだ呪剣に力を入れた。
「とにかく、その物騒な刃は撤去させていただきますね!」
【神の大力】
僕は魔法を使う。
名前の通り、神の力を自分の身体に一時的に宿らせるものだ。
とはいえ、普通の人間は使えない。
魔獣食で鍛えた僕か、50年ぐらい鍛え抜いた武芸者ぐらいしか扱えないだろう。
「よっ!」
パキッ、とお菓子を割るみたいに呪剣を折る。
「あらら……」
「呪剣を折った!? そんなあっさりと……!」
アプラスさんが驚く。
横でリチルさんが苦笑していた。
肝心のカーゼルスさんも戸惑っていた。
呪剣をあっさり折られてしまったのだ。
いくら意識がないとはいえ、驚くのも無理はないかもしれない。
あるいは、今ので呪剣の効力が一時的に下がったかもね。
なら――――。
「今だよ。氷の精霊!!」
しんしんと空から降ってくる雪が突如渦を巻く。
それは1本の槍のようになって、呪剣を持ったカーゼルスさんに迫った。
雪の渦をまともに浴びると、カーゼルスさんは悲鳴とも唸りともとれる声を上げて、振り払う。
だが、小さくなった氷の精霊にはどんな攻撃も無力だ。
ついにカーゼルスさんの中に入ってしまった。
見た目には何も起こらない。
でも、たぶん今頃氷の精霊はカーゼルスさんの呪いを解呪するために、身体の中を動き回っていることだろう。
自分に何が起こったかわからないカーゼルスさんは、再び襲いかかってきた。
呪剣はなくなったが、黒く変色した腕が分かれ、まるで触手のように動かす。
周辺の雪を蹴散らしながら、再び僕たちの方に迫ってくる。
剣がダメなら、触手か。
呪いの割にはなかなか賢いなあ。
これ以上、カーゼルスさんを痛めつけるわけにもいかないから、ちょっと大人しくしておいてもらおうか。
僕は【収納】の魔法を使う。
中からあるものを取り出した。
「え? 宝石?」
アプラスさんが僕の手に握られたものを見て、目を丸くする。
一方、リチルさんはすぐ理解した。
「飴? もしかして、スライム飴。でも、黄色い飴なんて見たことないわよ」
そう。これはスライム飴だ。
普段、屋敷で暮らしている中では使ったことはない。
何故なら、これはとても危険なスライム飴だからだ。
「カーゼルスさん、すみません。これが最後ですから、許してくださいね」
「うがががああああああああ!!」
野獣のように声を上げるカーゼルスさんの口の中に、僕は黄色いスライム飴を入れる。
見事口の中に入ると、そのままカーゼルスさんは飲み込んでしまった。
直後、カーゼルスさんの動きが止まる。
ピリッと光が弾けた瞬間、カーゼルスさんは叫んだ。
「か、からぁぁぁああああああああ!!」








