表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/288

第152話 贖罪だけじゃない!

☆★☆★ コミックス更新 ☆★☆★


ヤンマガWebにて、最新話が更新されました!

8話後編をどうぞお読みください。よろしくお願いします。


書籍2巻、コミックス1巻もよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 とてつもない轟音とともに、神殿から現れたのは、氷の大蛇だった。

 黄金色に輝く目を細め、時折赤い舌を出して威嚇する。

 その鱗は氷でできていて、まさに背筋が寒くなるほど美しく輝いていた。


 精霊ということを加味しても、その巨大さには圧倒される。

 まさに山そのものと相対しているかのようだった。


 その氷の精霊に追いかけられながら逃げてきたカーゼルス伯爵は、アプラスさんを背にして剣を構える。


 英雄譚の主人公がお姫様を庇うような姿に、リチルさんは目を輝かせるけど、事態はそう単純なものではなさそうだ。


「さあ、私は精霊人にしろ。氷の精霊よ」


 カーゼルス伯爵から飛び出した言葉に、僕はもちろんカリム兄さんたちも驚いた。

 冗談にすら聞こえる言葉だったけど、カーゼルス伯爵の表情を見れば、本気であることは一目瞭然だった。


 何より氷の精霊が怒っている。


 精霊に何をしたのか知らないけど、このままではカーゼルス伯爵もアプラスさんも危ないことだけはわかった。


「カーゼルス殿! これは一体!!」


「カリム殿! 心配無用だ」


「しかし、明らかに精霊が怒っている。説明をしてもらわなければ、僕も動けない」


「動かなくて結構。これでいいのです。私は精霊の怒りに触れた。そして、今まさに精霊人として己の身を差し出しているところです」


「な! そんな無茶な!」


「無茶は承知だ。だが、もはやこれしか方法はない。彼女を、アプラスを精霊として解放するためには!」


「しかし、それではカーゼルス殿の身が!」


「カリム殿……。あなたならわかるはずだ。そこにいるルーシェル少年を受け入れたあなたたちなら」


「え? 僕?」


 いきなり自分の名前を出されて、僕は戸惑う。


「あなたたちは山に囚われたルーシェル君を助けた。一緒に行動してわかった。彼は普通のただ物知りな少年でないことを。おそらくその価値はアプラスと変わらぬものなのだろう」


 カーゼルス伯爵……。

 たった2日、行動をともにしただけで、僕の正体を見抜くなんて。

 気を付けていたけど、すごい洞察力だ。


「クラヴィス殿と、私は違う。それでも、私も救いたい。クラヴィス殿がルーシェルくんを救ったように、私もまたアプラスを解放したい。たとえ、精霊の怒りに触れようとも、そしてこの身が人でなくなったとしても! 私はアプラスを解放する。彼女に人間らしい生活を取り戻してほしいと思っているからだ」


「カー……ゼルス……様……」


 話を聞いて、一番衝撃を受けていたのは、アプラスさんのように見えた。


 だが、その訴えも虚しく、氷の精霊は動く。

 ゆっくりと鎌首をもたげると、口を開いた。

 吐き出されたのは、真っ白な吹雪だ。

 ユランのホワイトブレスもかくやという強烈な雪の飛礫が、カーゼルスさんとアプラスさんに襲いかかった。


 ドンッ、という音が、お腹の底にまで響く。


 瞬間、立ち上ったのは雪の柱だ。

 それと同時に、赤い炎の柱もまた『氷魔の渓谷』に立ち上る。


 自然現象では起こりえない強烈な吹雪から、カーゼルスさんとアプラスさんを守っていたのは、炎そして風だった。


 2人の前に立ったのは、勇猛な2人の勇者だ。


「フレッティさん! カリム兄さん!」


 フレッティさんはフレイムタンを振るい、カリム兄さんは風の精霊と協力して、吹雪を押しとどめている。


 僕は精霊の途方もない力を知っている。

 確かに2人とも精霊の力を使っているわけだけど、精霊そのものの受け止めることは簡単なことではない。


 フレッティさんにしても、カリム兄さんにしても、魔力の総量が他と違う。それはおそらく魔獣料理によるものだろうけど。


 事実、氷の精霊は驚いていた。

 自分の力を契約者とはいえ、せき止められたのだ。


 だが、その2人の登場に1番驚いていたのは、当のカーゼルス伯爵だった。


「お二人とも、何故……?」


「決まっています。あなたの気持ちがわかるからです!!」


 フレッティさんは叫んだ。


「初めてルーシェルくんと会った時、彼は人のぬくもりすら知らない子だった。私が抱きしめただけで、彼は泣きました。魔獣の前では勇敢で、様々な知識で我々の度肝を抜かせてくれる少年が、たったそれだけのことで心が折れたのです」


「父はそれを聞いて、ルーシェルくんを救うことを誓いました。僕も同じ気持ちでした」


「それはルーシェルくんにとって見れば、迷惑なことだったのかもしれない。彼はそれまで何の不便もなく生きてこれたのだから」


「でも、父上は言いました」



『人との関わりなくして、それは果たして生きているということになるだろうか』



 クラヴィス父上の言葉を引用しながら、カリム兄さんは続けた。


「その答えは、僕にはわかりません。何か正しいかなんて、おそらく父上もわかっていないでしょう。だからこそ、父上は、僕たちは、ルーシェルとともに人生を歩むことを決めた。ルーシェルの人生に、僕たちレティヴィア家の家族がかかわると決めたのです」


 人の人生にかかわることは難しい。

 僕のように置かれた立場において、何の不自由も感じていないなら当然だ。

 今の生活が当たり前だと受け入れているならば、尚更かもしれない。

 問題があることにすら気づかないだろう。

 僕もそうだった。


 クラヴィス父上や、フレッティさんとかかわることによって、自分の歪さをようやく知って、僕はレティヴィア家にお世話になることを決めた。


 確かにアプラスさんの生き方は、精霊の花嫁として間違っていないかもしれない。

 彼女は日々生き続け、魔女となるでもなく生き続けている。

 それを壊そうとやってきたカーゼルス伯爵は、彼女にとって悪ではないにしても、単なる我が儘な人に見えるかもしれない。


 でも、ずっと罪をあがない続けることが、贖罪じゃないはずだ。

 精霊だからといって、ひと1人の人生を狂わせるなんて、やっぱり間違っている。


 僕は歩いて行く。


 氷の精霊に向かって。


「ルーシェルくん?」


「ルーシェル!」


 氷の精霊が吐き出す猛吹雪の中を僕は逆走していく。

 それどころか手を掲げて、僕は魔法を唱えた。


【魔力吸収】【冷気吸収】


 精霊が吐き出す無尽蔵な魔力と冷気を食っていく。

 僕は体内に取り込みながら、真っ直ぐ氷の精霊の元へと歩いて行った。


 それまで吹き荒れていた吹雪が止む。


「信じられません。精霊様の力を吸い取るなんて」


「あれがルーシェルくんよ。覚えておいて、アプラスさん。あんな男の子でも、わたしたちの前で大泣きすることもあるのよ」


 目を丸くするアプラスさんに、リチルさんが話しかける。


 僕は氷の精霊の前に立つ。

 すっかり力を奪われた氷の精霊は、未だに怒りを露わにしながら、僕を睨んでいた。


「君たち精霊のことはわかっているつもりだ。その怒りも理解できる。だけど、僕も、カーゼルス伯爵も、ここにいるみんな、アプラスさんに幸せになってほしいと思っている。君だって、1000年彼女のことを見てきたんだろう。なら、氷の精霊――君はどう思っているんだい?」


 氷の精霊はしばし睨んだ後、僕をこう呼んだ。


「精霊の子よ……。我は…………」



 我はわからぬ。



「わからないってどういうこと?」


「我にもわからぬ。何故、彼女は……」


 氷の精霊は残念そうに呟く。

 一体、精霊が何を言いたいのか、僕にも理解できなかった。

 その意味を問うた時、異変は起こる。


「ぐおおおおおおおおおおおおお!!」


 振り返ると、カーゼルスさんが悲鳴を上げていた。


水曜日のシリウスコミックにて発売されている、

『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の

コミックス5巻が好評発売中です。

こちらもよろしくお願いします(下の方にリンクがございます)


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第2巻12月15日発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア様にて2巻発売!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ