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第148話 1000年前

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挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

 ◆◇◆◇◆ 出歯亀リチル ◆◇◆◇◆



(言っっっっったぁぁぁぁああ!!)


 眼鏡にヒビが入りそうなぐらい、リチルは心の中で叫んだ。

 今、彼女がいるのは、ルーシェルが用意したアイススローンの中ではない。

 アプラスの家の入口前である。

 扉に耳を付けて、中の2人の声を盗み聞いていた。


 そして今し方行われたルヴィニク伯爵の告白を聞いたところである。


 アプラスの家は狭い谷間の中にある。

 吹雪が入り込まないといっても、寒いものは寒い。ルーシェルの合成魔獣料理があるとはいえ、夜となれば放っておけば霜焼けぐらいはできるかもしれない。


 それでも、この稀代の出歯亀女ことリチルは、身体をホクホクさせながら、仲の様子を窺っていた。


(さあ! さあ! アプラスさん、どう受ける?? いっちゃえ! お前ら、幸せになっちゃえよ!!)


 白い息を濁し、リチルは耳を澄ますのだった。



 ◆◇◆◇ アプラスの家の中 ◆◇◆◇



 アプラスの反応は是で否でもない。

 沈黙だった。

 驚いたというよりは、カーゼルス伯爵が発した言葉を噛みしめているように見える


 長い沈黙に対して、吹雪が雨戸を叩く。

 まるで氷の精霊がそっと覗き見ていて、答えを催促している――そんな想像が思いつくような夜だった。


「42年前――――」


 アプラスの言葉は唐突に始まる。


「カーゼルス様が10歳の折……」


「覚えているのか?」


「覚えていますとも……。忘れるものですか」


「私にとっては残念な思い出だがな。……だが、それ以上に驚いたのはそなたが精霊人――『氷の魔女』であったことだ。あの時、私はまだ子どもだった」


 アプラスは胸に手を置く。

 その唇は桜色に火照り、とても嬉しそうにルヴィニク伯爵には見える。


「私が『氷の魔女』と聞いても、あなたはそれでも『好きだ』と言ってくださりました。だから覚えているのだと思います。たぶん、初めて人から受けた真摯な好意だったと思うから」


「『氷の魔女』の心に届いていたのか」


「はい……」



 ですが、私の気持ちは変わりません。



 アプラスはカーゼルスから目を背けることなく告白する。

 カーゼルスの気持ちに対して、精一杯に答えるためにだ。


「私は『氷の魔女』です」


「ああ。それは42年前に聞いた言葉だ」


「氷の精霊の花嫁」


「それも聞いた。君の、君個人の気持ちを私は問うておるのだ。聞かせてくれないか? 君の口からなら、どのような言葉でも受け止めてみせるから」


「私個人の想いは決まっております。ですが、それを言ったところで何も変わらない」


「変わらない?」


「人の命、その権利は尊い。何よりも優先すべきでしょう。でも、時に立場というものが優先される。伯爵閣下であるあなたなら、わかるはずです」


 カーゼルスは息を呑む。

 立ち上がって、1歩ベッドに座ったアプラスに詰め寄る。


「君は怒っているのか?」


「そうではありません。今は私のお話をさせてもらっています」


「それほど、氷の精霊の花嫁というのは、重要だというのか? 君の意思を蔑ろにしていいほどに」


「そうです。……42年前のお話の続きをしましょう」



 如何にして、私が『氷の魔女』になったかを……。



 ◆◇◆◇◆ 1000年前 ◆◇◆◇◆



 私は今や地名すら残っていない田舎の村で育ちました。

 村といっても、その辺りでは1番大きく、大きな権力を振るっていました。近くの街から捧げ物をもらうほどには発展していたと思います。


 私の父は村の村長をしていました。

 今ほど政治が熟し切れていない時代です。

 村の村長は、その村の中で1番腕っ節が強いものが代々なる取り決めでした。


 父は特別腕っ節が強いわけではありませんでしたが、魔法を使うことができました。

 アーブライト家はそれなりに由緒正しい古語魔法を家系で、魔力が強く、代々伝わる魔法言語を脈々と受け継いできたのです。


 村に何人か魔法使いがいましたが、その中でも父は知識においても、魔力においても他を圧倒していました。


 それ故に暮らしは裕福でした。

 私も2歳違いの姉もスクスク育ち、母も優しい人で、父も戦いとなれば悪鬼のような強さを誇りましたが、私たちの前で子煩悩な父親でした。


 もうわかると思いますが、とても幸せな家庭だったのです。


 そんなある日、村に(わざわい)が起こりました。

 幸せ過ぎる私たちに、神様が罰を与えたみたいに。


 発端は原因不明の病が村の中で流行したことです。

 父や薬師が八方を尽くしましたが、治療方法は見つかっておらず、1人、また1人と村人が次々と亡くなっていきました。


 そして病魔は、私たち家族にも襲いかかったのです。


 初めは姉でした。

 突然、高熱を出して倒れたのです。

 父は村の対応に追われる中で、母は必死に姉を看病しましたが、母も病魔に冒されてしまいました。


 母は疲れもあったのでしょう。

 先に病気に冒された姉よりも先に亡くなってしまいました。

 そして後を追うように姉も亡くなりました。


 父が大きな街に行って、病気に有効な手立てを持って帰ってきた前の晩でした。


 父は泣き喚きました。

 おそらく父があれほど泣き叫んでいるのを見たのは、後にも先にもその時だけでしょう。


 それから父は人が変わったように、アークブライト家が連綿と残してきた魔導書を読み漁りました。

 私は、ただそれを見ているだけしかありませんでした。


 父が書斎に籠もって、40日後。


 何者かが母と姉の墓を暴きました。

 犯人はすぐにわかりました。

 父でした。


 久しぶりに私の前に現れた父は何かに魅入られていました。


 そして自分の屋敷に結界を張って、ある実験を行ったのです。


 それは反魂の禁呪。

 つまり、死者を生き返らせる魔法です。

 アークブライト家が禁呪として封印し、暗号化していたものを、父は解読してしまったのです。


 魂の流れは一定です。

 それは自然の摂理に逆らうこと。

 自然の力では、その流れに逆らうことは不可能。


 故に自然と逆の力である〝反精霊〟を呼び寄せることによって、魂の流れを逆転させる。


 それが反魂の禁呪の正体でした。


 結果、父の反魂の禁呪は成功であり、結果的には失敗でした。


 アークブライト家が残した魔導書の通りに行ったようですが、結局その魔導書の手順自体が間違っていたのです。


 当然、母も姉も生き返ることはありませんでした。


 幸いにして、人的な被害はありませんでしたが、精霊の怒りは凄まじいものでした。

 土地は痩せ、沢の水から汚臭が立ち上り、空気は灰を撒いたように穢れました。

 何より堪えたのは、氷の精霊の怒りでした。


 夏を冬に変えるその力に、私たちは死を待つしかなかったのです。


 精霊たちの怒りを鎮める方法は、ただ1つです。

 人間の若い娘を花嫁として差し出すこと。


 残った村のものたちに迷いはありませんでした。


 まだ小さな私を輿に載せて、精霊が住む森に置いたのです。



 ◆◇◆◇◆



「以来、私は父が冒した咎の代償を払うべく、氷の精霊様の下にお仕えしているのです」


 最後にアプラスはそう話を結んだ。


 壮絶な過去を話した彼女は、努めて笑顔だった。

 泣かないで欲しい、そう言ってるようにも見える。


「私は花嫁でも魔女でもないんです。ただの咎人なのです」


「君が冒した罪ではないだろう。そもそも父上殿はどうしたのだ?」


「亡くなりました」



 村人に処刑されたのです……。


WEB版もお読みいただきありがとうございます。

久しぶりに表紙に載って、びっくりしました。

どうぞ書籍版とコミックスの方もよろしくお願いします。

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