第139話 目玉焼き オン ハンバーグ
☆★☆★ 発売まで後3日 ☆★☆★
発売まであと3日となりました。
3、4巻と続編を書いて、ヤールム父様との対決まで描きたいと思っております。
是非お買い上げいただけると嬉しいです。
さらに2月6日には単行本1巻が発売されます。
WEB版に近い内容ですので、とても読みやすいです。
合わせてご賞味下さい。
「目玉焼き?」
リーリスは目を瞬かせる。
どうやらみんな同じ想いらしい。
ただその目玉焼きは、煮込みハンバーグが運ばれた時から、ずっとお供として寄り添っていた。
プクッと浮かんだ黄身に、ソースと反するような美しい白身。
煮込みハンバーグのインパクトに負けがちだけど、これはこれで重要な要素なのだ。
「あら。ハンバーグに夢中ですっかり忘れていたわ」
ほほほ、とソフィーニ母上は笑う。
ルヴィニク伯爵も目玉焼きを凝視すると、片眉を吊り上げた。
「ハンバーグと一緒に食べるのかね」
「はい。ソースをたっぷりかけてくださいね」
何故? 質問する前にみんなが持つナイフとフォークが動く。
ナイフで切ると、濃い黄身が溢れる。
それを丁寧にハンバーグの上にのせた。
もちろん、僕の指示通りソースをかける。
黄身が垂れる前に、一気に口に運んだ。
『んんんんんんんんん……!』
目玉焼きオンハンバーグを食べると、みんなは顔にギュッと皺を寄せて、噛みしめる。
ただ叫ぶだけだったけど、みんなのメシ顔が物語っている。
ただうまいと……。
「おいしい。黄身のコクとソースのコクがとってもマッチしてるわねぇ、あなた」
「うむ。肉の強い旨み、ソースの酸味が、黄身のコクによってうまく調整されている。3つが調和することによって、この料理が完成されたのがわかるな」
ソフィーニ母上が舌鼓を打てば、父上も満足した様子だ。
何度も相槌を打ちながら、咀嚼している。
「こうなると、最後に入れた生クリームも活きてくるね」
「パセリの爽やかさも一躍買ってます。すごいです。たくさんの味があるのに、それぞれの味をきちんと感じられる上に、それでも調和しているなんて。すごいですね、ルーシェルの料理は」
「さすがるーしぇるくん(語彙消失)」
「私もだ。もはや言うところはないな」
リチルさんとフレッティさんは白旗を揚げる。
ルヴィニク伯爵も感心した様子だ。
「まさか煮込みハンバーグでここまで感心するとは。さらにその御技ならぬ、味技……。恐れ入った」
ルヴィニク伯爵だけじゃない。
みんなが僕の方を向いて、頭を下げた。
「こ、こちらこそ。満足していただけて嬉しいです」
「魔獣料理というから、どんなゲテモノが出てくるかと思いましたが」
「あははは……」
「まさかこんな繊細な料理を味わえるとは」
「はい。ですが、伯爵閣下。魔獣料理の真価はここからですよ」
「真価?」
難しい顔をするルヴィニク伯爵に対して、僕は笑顔で答えるのだった。
食事を終え、食休みが済んだ後、僕は煮込みハンバーグを食べた人たちを外に連れ出した。
ちなみにだけど、結局ユランは起きてこなかった。
屋敷においしそうな香りが充満しているのにね。
ここのところ飛び回った疲れもあるのだろうけど、体力のある竜が起きてこないということは、本格的に冬眠に入ったのかもしれない。
もしかしたら、しばらく起きないかも。
今頃、部屋の中はまた繭で覆われていることだろう。
外は相変わらず吹雪だ。
5分いるだけで、身体の芯まで冷たくなってしまいそうだった。
マグマ石がなければ、少し先にある森の中へ向かうだけでも難しいだろう。
「ふむ。全然寒くないな。マグマ石のおかげか」
首から下げたマグマ石を、クラヴィス父上は撫でる。
すると、僕は言った。
「では、みなさん。マグマ石をとってみてください」
「え? マグマ石を」
「そんなことをしたら、みんなが凍えてしまうぞ、ルーシェルくん」
リチルさんとフレッティさんが慌てる。
みんな、どうしようかと迷っていた。
リーリスですら、困っている。
さすがに勇気がでないか。寒いもんね。
みんなが躊躇する中、最初にマグマ石を外したのが、ルヴィニク伯爵だった。
元帝国軍人だからだろうか。
伯爵閣下なのに、かなり度胸がある人だ。
ルヴィニク伯爵はマグマ石をとって、雪原に捨てる。
大きく吸えば肺が凍てつきそうな吹雪の中で、静かに深呼吸した。
しばらくして、ルヴィニク伯爵は自分の手を見る。その瞳は感動に震えていた。
「寒くない……」
『え?』
声が上がる。
次にマグマ石を取ったのは、フレッティさんとリチルさんだった。
「本当だ。全然寒くない!」
「何これ……。こんなに吹雪いているのに」
2人の反応を見て、クラヴィス父上以下、他の人たちもマグマ石を雪原に捨てた。
「本当だ。まったく寒くない」
「不思議ねぇ……」
「これが合成魔獣料理の力?」
「すごい力です」
すると、リチルさんがあることに気づいた。
「あれ……。お肌がプルプルしてる。こんなに吹雪いて、温かい室内に長くいれば乾燥するはずなのに」
「リチルの言う通りだわ。これは嬉しいかも」
「すごい。プルプルというよりは、ぽわぽわしてます。まるで水の膜に覆われているような……」
「プルプルピッグの効力ですね。合成魔獣料理によって、さらに効果が倍加されてます」
寒くないのは、クリムゾンブルを食べたからだ。
強い保温効果があるお肉が、身体を熱で覆って、極寒の寒さを和らげているのだ。
狙いは成功だ。
これなら『氷の魔女』がいるという、『氷魔の渓谷』に入っても、動くことができるだろう。
◆◇◆◇◆
翌日、早速僕たちは『氷魔の渓谷』に赴くことになった。
実は合成魔獣料理の効果期間は、通常の魔獣料理よりも短い。
普通の魔獣料理なら、短くとも3ヶ月ぐらい効果が続くのだけど、合成魔獣料理の効果期間は約2週間。クリムゾンブルの保温効果を最大限に使えば、もしかしたら1週間しか持たないかもしれない。
だから、僕たちはすぐに旅立つことにしたのだ。
メンバーは僕、カリムさん、フレッティさん、リチルさん、そしてルヴィニク伯爵閣下。
「カリム、フレッティ、頼むぞ」
クラヴィス父上はカリム兄さんの肩を叩く。
フレッティさんにも声をかけていた。
ユランの試練を受けに行った時を思い出す。その時とは違って、今回は僕も同行するし、何より規模が違う。
「ガーナー。留守の間、騎士団を頼むぞ」
フレッティさんが団長代行に指名したガーナーさんに話しかける。
寡黙だけど優しい騎士は、何か言いかけたがいつも通り口を噤んだ。
たぶん、ガーナーさんも行きたいのだろう。
「すみません、ガーナーさん。火蜥蜴の皮のコートは、5着しかなくて」
僕は防寒対策のために、火蜥蜴の皮をなめしたコートも用意していた。
少しでも合成魔獣料理の効果期間を長くするためだ。
そのため今回の5人だけで、魔女に当たることになったのだ。
「気を落とすな、ガーナー。ミルディは眠ったままだし、今騎士団を任せられるのはお前しかいない。いや、お前がいるからこそ、私も思いっきり戦えるのだ。頼むぞ」
フレッティさんはガーナーさんの胸を叩く。
ややしょんぼりしていた寡黙な騎士は、最後には力強い表情をしてみせた。
「任せろ」
「ああ。頼む」
フレッティさんも安心したようだ。
「フレッティよ、くれぐれも……」
「わかっています。ルーシェルくんとカリム様は私が守ってみせます」
「大役だが、頼む。リチルもな」
「はい。お任せください、ご当主様」
リチルさんも一礼した。
「では、行ってきます、父上」
僕は犬橇に乗り込む。
ただの犬じゃない。僕が使役している使い魔で、フロストバロンという雪に強い魔獣だ。
「気を付けてくださいね、ルーシェル」
「うん。ありがとう、リーリス」
僕は手を振ると、鞭を打つ。
フロストバロンは元気よく走り出すのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
久しぶりに日間ランキングにも載りました。
この勢いで書籍の売上も上げていきたいので、是非よろしくお願いします。








