第138話 ルーシェル特製煮込みハンバーグ
☆★☆★ 新キャラ「ユラン」を紹介 ☆★☆★
新キャラユランのキャララフの公開についてご許可いただきました。
何度かお話していますが、今回のメインキャラはユランになります。
ユランとルーシェルの過去編は完全書き下ろしとなっていまして、読み応えがございます。
ユランと、WEB版にはいないアルマとのやり取りも見所の1つなっておりますので、
2月2日に発売される、書籍版2巻をお買い上げください。
僕、クラヴィス父上、ソフィーニ母上、カリム兄さん、リーリス、フレッティさん、リチルさん……。そしてルヴィニク伯爵。
レティヴィア家の食堂に一同が介する。
すでにテーブルセットは万全だ。
真っ白な……いや、ワインレッドの瀟洒なテーブルクロスには、燭台と華やかな造花が飾られている。
外を見れば、気が滅入るほど白い雪原と、灰色の空が広がる。
食事の時ぐらい、違う色を見てもいいのではないか。
そんなメイドさんたちの心遣いを感じた。
食前酒で喉を潤し、前菜とスープで胃を程よくほぐした後、僕が作った例の料理が運ばれてくる。
食堂のドアが開いただけで、芳香は広がり、出席者たちの鼻腔を衝いた。
外が雪に覆われ、魔女の暴走かもしれない危急の時だけど、僕が作った料理はそんなことを忘れさせてしまう。
僕は立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
「皆様、お待たせしました。合成魔獣料理――ルーシェル特製煮込みハンバーグの出来上がりです」
歓声が上がると、再び食堂の空気を吸う。
「何とおいしそうな香りだ……」
「熟成されたワインを開けるような高揚感を感じますね、あなた」
「リーリスが手伝ったんだって?」
「はい。お母様とお父様も」
「これはまた豪勢な……。本当に食べていいのか?」
「団長、これは愛のためです。愛です!」
たとえ外が凍てついていても、レティヴィア家の中は賑やかで暖かい。
そんな姿をルヴィニク伯爵はまぶしそうに見つめていた。
「それではどうぞお召し上がりください」
僕が促すと、早速クラヴィス父上たちはナイフとフォークを取った。
ナイフで切り、肉汁が染み出した断面を確認する。
おもむろに口の中に入れた。
パクッ……。
『うまぁぁぁああああああいいい!!』
屋根の上に降り積もった雪がバサリと落ちた。
食堂だけじゃない。その絶叫は大きなレティヴィア家の屋敷すら揺るがした。
しかし、そんなことは些細なことだとばかりに、ゆっくりと煮込みハンバーグを噛みしめ、あるいは二口目を食べようとしていた。
「何という肉の旨み。ここまで肉の旨みを感じるハンバーグは初めてだ」
「焼き加減も最高ね。外側はパリッとしているけど、ふっくらとジューシーで」
クラヴィス父上とソフィーニ母上が嬉しい悲鳴を上げれば、カリム兄さんは興味深そうに肉を見つめている。それを見て、リーリスが説明していた。
「おいしいね。これは肉だけじゃない。玉葱の甘みと肉汁の旨みが混ざることによって、ここまでジューシーになっているんだ」
「はい。とってもおいしいですね。……お兄様。ルーシェルは玉葱を炒めるのではなく、蒸していたんですよ」
「やばぁぁぁあああいいい! 何これ? 滅茶苦茶おいしいんだけど。本当にわたし、こんなおいしいものを食べてもいいのかな」
「愛なんだろ、リチル。だが、このハンバーグは絶品だ。今まで食べたハンバーグの中で1番と称しても、過言ではないな」
リチルさんがバタバタと興奮してる横で、フレッティさんが冷静にハンバーグを食べている。
同じく食していたルヴィニク伯爵も、噛みしめるようにハンバーグを咀嚼していた。
「うまい。合い挽き肉とは思えぬジューシーさに、この肉汁から染み出す旨みと甘み。焼き加減もバッチリだ。こんな素晴らしい料理を作るとは。いやはや、良いご子息ですな、レティヴィア閣下」
「伯爵閣下、どうぞ存分に我が子を褒めてやってください」
「ああ。……絶品だ。ルーシェルくん。このハンバーグは本当にうまい。生涯、私はこのハンバーグの味を忘れないだろう」
「過分なお言葉を賜りありがとうございます、ルヴィニク閣下」
僕は深く一礼する。
みんなの目はすでに煮込みハンバーグしか見ていない。
僕のどんな解説も、今の父上たちには届かないだろう。
いや、むしろその料理の謎を追うようにレティヴィア家の食卓は白熱している。
話はかかっているソースにまで及んだ。
「ハンバーグもいいけど、このソースもいいわね。私にはこのお肉の旨みがちょっとしつこく感じるぐらい強いのだけど、ソースがうまく緩和してくれているわ」
「はい。お母様。ソースのコクと、酸味、微かに残るビターな味わいが、うまく肉の脂のしつこさを綺麗にしているのがいいですね」
ソフィーニ母上の意見に、リーリスが頷いた。
「母上、それが今回煮込みハンバーグをチョイスした理由なんですよ」
合成されたお肉は、その効果だけを倍増するだけじゃない。お肉本来が持っている味や風味、香りといったものまで倍増させてしまう。
ただ香りや風味はともかくとしても、味はどうしてもしつこく感じてしまうんだ。
「なるほど。そのための赤茄子ソースを入れて、酸味を加えたのですな」
「その通りです、ルヴィニク伯爵閣下。魔樹の木の実ソースの酸味は、具材に浸透しやすい爽やかな舌ざわりを与えてくれます。さらに独特のコクをもたらすことによって、ハンバーグの味に変化を与えてくれるんですよ」
おお、と再び歓声が上がった。
すると、ルヴィニク伯爵は再び頭を下げた。
「ルーシェルくん……いや、ルーシェル殿。謝罪を」
「え? 謝罪」
「納涼祭にて、あなたがただ者ではないと思っていた。だが、心のどこかでは“子ども”と侮っていたことも事実。しかしながら、今の話を聞いて、子どもが遊びで作っているのではないと再確認させていただきました。むしろ深い計算の上で成り立っている、と。……あなたは立派な料理人です」
僕が料理人……。
なんか改めて言われると嬉しいな。
それも伯爵閣下だ。数時間前は赤の他人だった人に褒められるのは、素直に嬉しい。
「ふむ。思えば、あなたには子どもにない落ち着きを感じる。私以上の……」
「え? あは、あははははは……。さ、さすがに買いかぶりすぎですよ、閣下。僕が閣下より年上なんて」
「別に私はあなたが年上とは言っておりませんが……」
「え?」
うっ……。なんか1本取られた感がある。
クラヴィス父上は、僕が一時山で暮らしていて、魔獣の知識と凄い力を持っているとしか、ルヴィニク伯爵には話していないらしい。つまり、不老不死であることまでは喋っていないそうだ。
まさか僕が300年生きているとは閣下も思わないだろう。
すでに僕が高い能力を持っていることは知っていても、まだ父上から許しをもらってないからね。
ごめんなさい、ルヴィニク伯爵。
「あ。そうだ。忘れるところだった。どうぞ、付け合わせの目玉焼きも食べてください。もちろん――――」
ハンバーグと一緒にね。








