第135話 合成魔獣料理
☆★☆★ 発売まで1週間 ☆★☆★
ついに発売まで1週間となりました。
書籍情報を作りましたので、ご予約いただければ幸いです。
よろしくお願いします。
単行本2巻も2月6日発売されますので、よろしくお願いします。
「やーん。なんとロマンティックなお話なのかしら……」
喧しい声を上げたのは、ソフィーニ母上だ。クラヴィス父上から一連の事情を聞くと、頬を染め、自分のことでもないのに「イヤイヤ」とばかりに首を振っている。
時々、リーリスやリチルさんと話している時にやる母上の癖だ。
こういう時、何のお話をされているのだろうと思って尋ねることがあるのだけど、「乙女の秘密」と言って、話してくれない。
今日その一端を垣間見たような気がした。
事情を聞いたのはソフィーニ母上だけではない。作戦に参加するかもしれないリチルさんも悶絶しながら聞いていた。
「少年時代の淡い恋心……」
「寂しい独り身の暮らし……。はたと気づく蘇る想い……」
「「いいわねぇ~~!」」
ソフィーニ母上とリチルさんは互いに手を取りながら、空を仰ぎ見る。
相変わらず鈍重な雪雲に覆われているけど、2人の瞳は輝いていた。
こんな時でもレティヴィア家は平和だ。
そんな2人も1歩引いたところから見ていたのは、僕とリーリスである。さらにルヴィニク伯爵閣下当人も近くにいた。
「お恥ずかしい限りです」
こちらは静かに一礼する。
「いえいえ。そんなことありませんよ、閣下」
「はい。大丈夫! 個人的に大好物です」
ソフィーニ母上が手を振れば、リチルさんは鼻息荒く宣言した。
だ、大好物って何だろう?
ご飯の話をしてたっけ?
「それに亡くなられたご夫人とは何度かお茶の席をご一緒させていただいたことがあります。とても素敵な方で、いつも閣下の身を案じておられました。きっと閣下の想いにも理解を示されると思いますよ」
「いや、ソフィーニ殿。私は……、アプラスが苦しんでいるなら助けてあげたいと思っただけで」
「うふふふ……。そうですか。何にしても、アプラスさんが元に戻るといいですね」
ルヴィニク伯爵は武骨な顔を真っ赤にしながら手を振る一方、ソフィーニ母上は意味深に笑った。
僕にはいまいち2人のやりとりが理解できなかった。
「閣下の想いって何かわかる、リーリス」
「ふぇ? その……閣下はアプラスさんのことが今でもとっても大好きだから……だから…………助けたいんだと思います」
「大好きって……。それって、僕がリーリスのことが大好きなように」
「え? えええええ? わ、わわわわたくしですか?」
「うん。もちろん、リーリスだけじゃないよ。クラヴィス父上や、ソフィーニ母上、カリム兄さんのことも僕は大好きだよ……」
悲鳴に近い声を上げて驚いてたリーリスだけど、途端表情が落ち着いていく。
ただずっと胸を押さえていた。
僕の聴力は魔獣食によって、人並み外れているのだけど、随分と高い。
もしかして、風邪でも引いたのかな。
「リーリス、顔が真っ赤だけど大丈夫? スライム飴舐める?」
「ふぇ! いや、これは違うくて」
「いや、きっと風邪だよ。今、すごく寒いし。おでこ出して……」
「だから、その……違う…………ふぁ!!」
僕はリーリスのおでこに自分のおでこを当てる。
やっぱりかなりの熱だ。
すぐにスライム飴を舐めさせて、安静にさせないと。
「むふふふ……。ルーシェルくん、君――今自分が何をしているのかわかってるかな?」
リチルさんが眼鏡を曇らせながら、猫みたいに笑う。
何って、熱を計ってるんだけど。
【鑑定】とか【竜眼】で計るよりも、こっちの方がわかりやすいし。
ねっ? リーリス。
僕は正面を向く。
今、もの凄く近くにリーリスの顔があった。
青い瞳が静かに揺れていて、今にも泣きそうだ。
「わぁぁあああああ! ご、ごごごごめん、リーリス。悪気があったわけじゃないんだ」
「わ、わかってます。だ、大丈夫ですか。本当に大丈夫ですから」
「うししし……。ルーシェルくん、時々大胆になるよね」
リチルさんはおろか、後ろのソフィーニ母上まで、ニマニマと笑っている。
もう! 2人して何が楽しいんだよ。
ユランとミルディさん、あとカンナさんがいなくてよかった。
特にカンナさんがいたら、どうなっていたか。
「あれ? そう言えば、ミルディさんが見当たりませんが」
いつもリチルさんに引っ付いて仕事をしているのに、今日はいない。
どうしたんだろうか?
「ああ。今寝てるわ」
「寝てる。こんな真っ昼間なのに?」
雪雲が空を覆って、ずっと暗いのだけど、今はまだ昼だ。
他の家臣も雪かきをしたりして、忙しそうに働いている。
こんな時、獣人のミルディさんの力が一番必要なはずなのに。
「さすがに寒すぎるのね。獣人だから冬眠状態に入っちゃって。ああなるとテコでも起きないの。同じ理由でカンナも自室の棺桶に収まったまま出てこないわ」
なるほど。
獣人は人間と比べて体温の調節がうまくない。
体温がある一定温度まで下がると、冬眠状態に陥ってしまうと聞いたことがある。
(ユランと同じだな。たぶん、あっちも当分起きないだろう。『氷の魔女』とも相性が悪そうだし、今回はお留守番かな)
ごほん!
僕が考えごとをしていると、突然咳払いが聞こえた。
ここは厨房の一角だ。
その中でお喋りしていた僕たちを睨んでいる人がいた。
料理長のソンホーさんだ。
集まった人たちを一睨みすると、途端静かになってしまう。
ソンホーさんの迫力は身分とか年の差とか超える。
僕も300年生きてて、魔獣食も食べてるのに、ソンホーさんの迫力には負けてしまう。
「小僧、厨房の準備が整ったぞ。お前の言う通りのものも揃えておいた。今、食糧が貴重な時だ。大事に扱え」
「はい。ありがとうございます、ソンホーさん」
ソンホーさんは僕に忠告すると、厨房の隅の椅子にドカリと座った。
僕が作る料理が気になるというより、厨房の責任者として見守るということの方が正しいだろう。
「さあ、ルーシェル。今日は一体何を作るのかしら?」
ソフィーニ母上は声を弾ませ、厨房に並んだ食材を見つめる。
「パン粉に、牛乳、これはただの鶏卵でいいのかしら。 それに羊酪、マッシュルーム、玉葱、赤茄子ソースに、ワインまで。まあ、どんな料理ができるのかしら」
ソフィーニ母上もウキウキだ。
「あのまさかと思いますが、ソフィーニ母上も手伝うのですか?」
「もちろん。人手が欲しいといったのは、ルーシェルでしょ? それに、『氷の魔女』の件では、あたくしはお手伝いできませんが、料理ならお手伝いできるしね。リーリスもそうでしょ?」
「え? は、はい、お母様」
「それに1度でいいから、ルーシェルのお料理を手伝ってみたかったの。いつもリーリスばかり手伝ってるから、寂しかったし」
なるほど。そっちが本音か。
ソンホーさんは何も言わないし。
おそらくだけど、すでに許可は取っているのだろう。
まあ、僕も母上と一緒に料理ができるのは嬉しいけどね。
「それで、ルーシェル。合成魔獣料理とは何でしょうか?」
「合成魔獣ということは、合成獣ってこと? 今から合成獣でも呼び出すのかしら」
「似たようなものです。早速、説明しますね」
まず合成魔獣料理と普通の魔獣料理の違いだ。
1番の違いはその効果だ。
たとえば、ジャイアントボーアという巨大猪の肉と、コカトリスの卵を合わせた猪丼を作ったとする。
2つの魔獣食材がミックスされて使われているけど、それぞれの効果が独立して効くだけだ。
けれど、先ほどいったジャイアントボーアとコカトリスの卵を合成できたとする。
すると、相乗効果を起こして、それぞれの効果を何倍にも引き上げることができるのだ。
「つまり、普通の魔獣料理は足し算に対して、合成魔獣料理はかけ算ということね」
「その通りです、母上」
ソフィーニ母上の言葉に僕が頷くと、「おお」という声が漏れた。
「ただでさえ凄い魔獣食の効果を」
「倍加させてしまうなんて。すごいです、ルーシェル」
リチルさんやリーリスも驚く。
参加したルヴィニク伯爵も口を開けて、唖然としていた。
「で? どうやって、合成するの?」
「それは料理を見せた方が早いかと」
僕は魔法袋に手を伸ばす。
取り出したのは、2種類の肉だった。
「クリムゾンブルと、プルプルピッグの肉になります」
「クリムゾンブルと、プルプルピッグねぇ」
「牛と、豚?」
「ということは……」
ソフィーニ母上、リチルさん、そしてリーリスが目を輝かせた。
「はい。今回の僕の料理は――――」
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