第13話 騎士の矜恃
★日間総合3位★
おかげさまで、日間総合の表紙に入った状態で週末に入れそうです。
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僕は御者を丁重に埋葬する。
本来なら遺族に預けるべきなんだろうけど、さすがにそれを探す術が僕にはない。
俗世から300年間遠ざかっていた僕には伝手もなかった。
僕はお祈りを済ませた後、何もない焼け野原となった場所を見渡した。
周囲に動くものの気配はない。
間違いなく森の中にいた野盗たちは全滅した。
クリムゾンドラゴンから得たスキル【竜火猛煌】は、人間の骨も残さず塵にする超高温の火炎。
その威力は凄まじく、森ごと消し飛んでしまった。
「森の生物には可哀想なことをしたな……」
反省しつつ、僕はフレッティさんたちが眠っているであろう山の方に振り返った。
出来ればフレッティさんたちには、ここに野盗がいたという痕跡を残しておきたくはない。
フレッティさんたちが追われていることを知っているのは、話を聞く限り野盗を除いて僕だけだ。
仮に茂みの中に野盗の死体が残されていれば、余計な憶測を生むことになる。
たまたま誰かに殺された可能性を考慮に入れるだろうけど、僕という可能性に行き着くこともゼロじゃない。
野盗を全滅させてしまう子ども……。
それを知れば、フレッティさんたちがどう思うか、考えるだけで怖い。
あの優しい人たちが向ける猜疑の瞳なんて見たくなかった。
僕がやったことは絶対に隠しておかなければ……。
だから、森を消滅させる覚悟で野盗たちを排除した。
「さて……」
僕がやるべきことは、これだけじゃない。
麓へ降りたフレッティさんたちがやることは1つだけ。
家宝の奪回。つまり野盗のアジトの再襲撃だろう。
頭数が減ったからといって、数の上でフレッティさんは未だ不利だ。
森の中には30人ぐらいいた。
追撃にそこまで人数を出せるということは、かなり規模が大きいはず。
リーダーが余程バカでない限り、アジトには同じか、それ以上の野盗がいると推察できる。
僕はまず【気配探知】を使った。
探せる距離の範囲に、アジトらしきものはなさそうだ。
「だったら……」
僕は鼻を使うことにする。
嗅覚にも自信はある。
辺り一帯焦げ臭いけど、人間のきつい体臭の匂いが街道に沿って南へと向かっていた。
よく見ると、新しい足跡もある。
他にも複数の匂いがあるけど、その体臭はまだ新しい。
数から考えても野盗のもので間違いなさそうだ。
僕はその匂いと足跡を頼りに、野盗のアジトを探すことにした。
10分後……。
僕は野盗のアジトに到着する。
街道近くに小高い丘があって、その急斜面に人が通れるほどの穴がぽっかりと空いていた。
入口に歩哨が立っている。
2人とも眠そうだ。夜番に慣れていないように見受けられる。
フレッティさんたちの襲撃があった直後に設けた急造の夜番ってところだろう。
僕は再びスキルを使う。
【構造分析】
メイジバットンという大蝙蝠から得たスキルだ。
トリスタン家の領内では食用の蝙蝠が市場で売っている程、蝙蝠は日常食だった。
実は僕は苦手だったので、ちょっと甘めに煮てみたら結構おいしい。
肉の部分がそんなにないので、あまり進んで食べることはないのだけど、このスキルはなかなか便利だ。
集中するだけで、見えない空洞の構造が手に取るようにわかる。
「結構、複雑だな」
天然にできた洞穴に、さらに人の手を入れたのだろう。
ただ迷路になっているように見せかけて、道は基本的に一本道だ。奥にいる野盗たちの頭領の部屋に行くのは、そんなに難しいことじゃない。
僕は魔法袋から香木を取り出した。
それをアジトの入口に向かって転がす。
「なんだ?」
当然、歩哨の2人は気付いたけど……。
「はにゃ……」
「ふにゃ……」
たちまち鼻提灯を膨らませて、寝てしまった。
僕は様子を窺っていた茂みから姿を現し、地面に落ちていた香木を一旦回収した。
これはスリーピングフォレストの枝だ。
近づくだけで人間や果ては魔物を眠らせ、その魔力を吸い取って成長する魔樹である。
この香木が恐ろしいのは、人をも忽ち眠らせる香りがほぼ無味無臭という点だ。
見ての通り入眠効果も絶大で、大型の魔物でもたちまち眠ってしまう。
ただ僕の場合は、『眠り』の状態異常耐性が高いから、外からの催眠効果は一切通用しない。
今度は、アジトの中にスリーピングフォレストの枝を投げ入れる。
しばらく待った後、野盗の鼾が一際大きく響いてきた。
「うまくいったね」
僕はアジトに楽々侵入する。
アジトに残っていた野盗のほとんどがぐっすり眠っていた。そもそも今は夜だから寝ていて当然なんだろうけど。
このまま1人1人倒すことは簡単だ。
その後、じっくりフレッティさんたちが探している家宝を探せばいい。
けれど、僕の目的は野盗の全滅でも、家宝の奪還でもない。
単純に敵情視察だ。
仮にこのまま僕が野盗を倒し、家宝を持ち帰ることができれば、おそらくフレッティさんたちは喜んでくれるだろう(その場合、僕が普通の子どもじゃないことがバレてしまうけど)。
でも、それでは責任感の強いフレッティさんにわだかまりを残してしまう。
本来、自分が奪還するべき家宝を、年端もいかない子どもによって達成されてしまった。
フレッティさんの心理状態はいかばかりか、武門の一員だったことがある僕にはなんとなくわかる。
主君に忠誠を誓う騎士ならば自分の力で取り返したいだろう。
それにフレッティさんたちの外聞も悪くなる。
『家宝を盗まれ、挙げ句子どもに助けられたのか?』と……。
家宝を取り返してもお節介にしかならない可能性があるということだ。
このアジトを壊滅し、家宝を取り返すのはフレッティさんたちを置いて他にはいない。
けれど、人数などから見ても、犬死には必至だろう。
だから僕はやってきた。
あの優しい人たちを救うために……。
僕はアジトの奥に辿り着く。
結局、家宝らしきものは見当たらなかった。
今気付いたけど、家宝がどんなものか聞いておくべきだったなあ。
「だ、誰だ……?」
ふと声が聞こえた。
すごいね。
スリーピングフォレストの匂いに抗うことができる人間が、野盗の中にいるなんて。
見ると、アジトの奥でそいつは頭を押さえつつ、僕を睨んでいた。
「が、ガキ……??」
ギロリと特徴的な三白眼を僕の方に向ける。
手には真っ赤な剣を握っていた。
間違いない。多分、こいつが野盗の頭領だ。
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