第133話 42年前の少年
☆★☆★ 口絵解禁 ☆★☆★
口絵解禁されました。
個人的に微笑ましい方の『最後の晩餐』と思っているのですが、皆様はどうですか?
今回のTAPI岡先生の口絵は神がかっております。
他の口絵も最高なので、2月2日発売の書籍第2巻を是非お買い上げください。
「氷の魔女……?」
魔女という言葉は、僕がトリスタン家を追い出される前からあった言葉だ。
多くの人が認知しているのは、お話の中の魔女だろう。
王子や王女、あるいは英雄と呼ばれる人間に悪さをして、退治される悪役だ。
でも、ここでルヴィニク伯爵が持ち出した『魔女』という単語は違う意味だと思う。
魔女は、元は『精霊人』と呼ばれていた。
名前の通り、精霊となった人のことだ。
僕や、風の精霊と契約しているカリムさんなどは、精霊と契約することによって、精霊の力を貸してもらっている。
精霊人はそれをさらに深化したもので、精霊自身を肉体に宿すのである。
肉体のない精霊に肉体を捧げることによって、契約した時よりもさらに強い力が引き出せることに加えて、歳をとらなくなる。
つまり、僕と同じ不老不死になるということだ。
でも、往々にして精霊人となった人間は長い年月生きる上で精神を病み、暴走するという。そういうイメージから『魔女』という言葉が生まれ、『精霊人』という言葉は一般の中で廃れていったというわけだ。
ルヴィニク伯爵の言葉を聞き、クラヴィス父上は深く頷いた。
軽く顎髭を撫でた後、父上は口を開く。
「なるほど。この稀に見る大寒波は『氷の魔女』が引き起こしたことと、ルヴィニク殿は考えているわけですな」
クラヴィス父上の指摘は恐らく的を射ているだろう。
精霊を肉体に宿した人間が、魔女と化して暴走した可能性は高い。
聞けば1000年も生きているというじゃないか。
果たして人間の精神がそこまで持つのか、僕にもわからない。
300年という月日ですら、僕は時々気が触れそうになったことがあった。
人は長生きしたい、死にたくないというけど、僕からすれば長生きもまた人にとって毒なのだと思う。
クラヴィス父上の指摘にルヴィニク伯爵は「はい」とも「いいえ」とも言わなかった。表情も曖昧で、少し気を落とされているようにすら僕たちには見えた。
しばらく重く閉ざされていたけど、ついにルヴィニク伯爵は口を開く。
「実は、私は『氷の魔女』を知っているのです」
「え? 『氷の魔女』を知っているのですか??」
ルヴィニク伯爵の告白に、僕ですら思わず大声を上げてしまった。
父上も、同席したカリム兄さんも驚いている。
すると、ルヴィニク伯爵は長い昔話を始めた。
◆◇◆◇◆
42年前……。
ルヴィニク伯爵がまだ10歳の時。
当然、家督を次いでおらず、先代の当主様がまだ生きておられた頃だ。
先代はとても教育熱心な人で、5歳の頃から剣術と魔法の家庭教師をつけて、ルヴィニク伯爵――カーゼルス少年を鍛えていた。
ルヴィニク伯爵家は武門の家だ。
先代もカーゼルス少年に立派な軍人になってほしいと思っていたらしい。
春が過ぎ、夏の兆しが見え始めた頃、魔法を教える家庭教師が病にかかって、田舎に帰ることになった。
だが、カーゼルス少年は初等魔法学校の大事な入試前だ。
今、家庭教師がいなくなったのはまずいと考えた先代のルヴィニク伯爵は、方々を探し回った。しかし、どこも初等魔法学校の入試前だけあって、優秀な魔法使いは他の貴族に囲われているような状態だ。
そこで先代が藁をも掴む想いで見つけてきたのが、アプラスという少女だった。
薄くもなく、濃くもない青い髪に、眼鏡の中に押し込んだ神秘的な深いアメジストの瞳。真っ白な肌は新雪のように美しく、野暮ったい村衣装を着てても、まるでドレスを着ているかのように美しいプロポーションをしていた。
まさに氷から生まれたような綺麗な娘だったという。
『それまで強くなって、国のために役立つことしか知らなかった私は、アプラスの姿を見た瞬間、180度価値観が変わりました。そ……はっきり言いましょう。私はアプラスに――『氷の魔女』に恋をしたのです』
カーゼルス少年が、アプラスの正体が『氷の魔女』と知らないのは、仕方ないことだった。
アプラスは初めずっと北の田舎の村に住んでいると言っていた。
冬は雪に埋まるという豪雪地帯。
毎年雪解けを待って、街に出稼ぎに来て、家計を支えているといった。
事実、先代のルヴィニク伯爵がアプラスを見つけることができたのも、酒場で奉公していた彼女が巧みに魔法を操るのを見たことがきっかけだったらしい。
アプラスが家庭教師をするのは、次の冬まで。
秋には初等魔法学校の入学試験があるから、ちょうど良かった。
アプラスとの蜜月はとても楽しかったという。
それでも、武人としての心得しか知らなかった当時のカーゼルス少年は、なかなか想いを切り出せなかった。
『ようやく想いを切り出せたのは、アプラスが村に帰る前日でした。そして、アプラスが「氷の魔女」と知った日でもありました。端的にいえば、私はフラれたのです』
そして、アプラスは帰っていった。
氷の精霊の元へと……。
◆◇◆◇◆
「『精霊人』となった者は精霊に尽くし、生きなければならないそうです」
今代のルヴィニク伯爵の言葉に、神妙に頷いたのはカリムさんだ。
「その通りです。『精霊人』となる人間には2つのパターンがあります。まず人間が精霊を受け入れる場合……。これには精霊側が応じた場合のみで、稀です。長い人類の歴史の中でも、片手で数えるほどしかありません。大概の場合、もう1つのケースがほとんどです」
「それは何なのだ、カリム?」
クラヴィス父上は目を細めた。
「大罪を贖うため……。つまり精霊の怒りを鎮めるための贄として差し出されるケースですね」
僕が答えると、カリム兄さんは頷いた。
「その通りだよ、ルーシェル。では、『精霊人』の魔女以外の呼び名も知っているね」
「はい。精霊に差し出し、精霊に一生を尽くすことから、こう言われています」
精霊の花嫁と……。








