第131話 マグマ石が足りない
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
ヤンマガWebにてコミカライズ更新されました。
年の瀬でお忙しいと思いますが、休憩時間にでも読んでくださいね。
さらに後書きには書籍第2巻の重要情報と表紙が公開されてます。
そちらも是非!
【魔法制御】【魔鉄槍】
魔法で生み出した鉄の槍を僕は正面に投げず、その場に突き刺した。
さらに【魔法制御】によって金属の槍を変化させると、木の根のように家の床に貼り付く。もう片方の柄は天井へと伸びていくと、槍は家を支える立派な柱に変化した
それをさらに三本。もちろん屋根を補強することも忘れない。積雪によって今にも崩れそうだった家は、強固なものになった。
「これで大丈夫だと思います」
僕は分厚い鉄柱を叩いた。
『おお……』
家主から歓声が漏れる。
僕の小さな手を取ると、村人は目に涙を浮かべながら感謝した。
「ありがとうございます、ルーシェル坊ちゃま」
「ルーシェル坊ちゃまがいなかったら、私たちの家は……」
子どもを抱いた奥さんが涙を拭う。
「それにしても、ルーシェル坊ちゃまがこんなにも魔法がお上手とは……。一体どこの学校で習ったんですか?」
旦那さんは僕の魔法を見て、目を丸くしていた。
僕は笑って誤魔化す。
さすがにこれで300年生きてますから、とは言いにくい。
僕たちは予定通り、マグマ石を渡して、その村も後にした。
「これで終わりだよ、ルーシェル。お疲れ様」
どうやら領内の村はこれで終わりらしい。
僕はホッと息を吐くと、ユランの首をさすった。
「ユラン、お疲れ様」
「早く帰って、熱い湯に浸かりたい」
「そうだね」
首を上げて抗議するユランに僕も同調する。できれば、温泉とか入りたいなあ。そう言えば、あの火山帯の近くに温泉とかないんだろうか。
「カリム兄さんもお疲れ様です」
「僕は何もしてないよ。君を付き添っただけさ」
「いえ。兄さんがいたからこそ、みんな僕みたいな子どもの話を聞いてくれたんです」
僕1人で村に訪れても、変な目で見られるだけだっただろう。
カリム兄さんがいて、本当に助かったよ。
「あとはフレッティたちだね。大丈夫とは思うけど……」
「はい。心配なのは、マグマ石ですね」
「領民を疑うのは心苦しいが、人間というのは必ずしもみんな善良というわけではないからね」
マグマ石はとても貴重だ。
無償でもらったマグマ石をその後、お金に換える人もいるかもしれない。
あるいは、そのマグマ石を人から奪うなんて事件も発生することもあり得る。
カリム兄さんも、フレッティさんも当初からその懸念を抱いていた。
小さな村ならすぐわかるけど、コミュニティが大きいほど、僕たちが見えないところで犯罪が発生する。
それを未然に防ぐために、今回数のあるレティヴィア騎士団に街の方を任せたのだ。
「行きたそうだね」
「え? ……ええ。やっぱり心配です。仮にマグマ石が足りないなら、秘策もあるので」
「わかった。僕も付き合うよ」
「ありがとうございます、カリム兄さん。というわけだけど……、ユランももう少しだけ手伝って」
「我に物を頼む時、何をしたら良いかわかってるな」
「わかったよ。魚と肉、どっちがいい?」
「今日は魚の気分だ」
珍しいなあ。
「わかったよ。何か考えておくよ」
僕が言うと、ユランは身体を傾けてロールする。
竜頭をレティヴィア領内にある都市へと向けた。
フレッティさんたちが考えていた懸念は当たってしまった。
マグマ石が無料で配布され、若干の混乱はあったものの、レティヴィア騎士団の統制によって落ち着いていた。
懸念というのは、マグマ石が圧倒的に不足していたことだ。
「マグマ石を無料で配布していることは、レティヴィア公爵領からほど近いところにある街にまで広まってしまったらしい。そこの領民がマグマ石を求めてやってきたのだ」
フレッティさんが説明する。
他の都市にどうして広まったかというと、行商人から広まったらしい。橇を使って行商を続けている商人がいて、その口コミから広まったようだ。
今回の寒さに困っているのはレティヴィア公爵領だけではない。他の領内も同じだ。1番ひどいのは、レティヴィア公爵領みたいだけど、その隣接している都市となれば、被害もひどいだろう。
「とはいえ……。隣の領地の面倒まで見ていたら際限がなくなる。我々はクラヴィス様の騎士だ。その領民のために働いている。隣の領地の問題は、領主が解決せねばなるまい」
フレッティさんは主張した。言ってることは確かに間違っていない。領地の問題は領主が解決すべきだ。
けれど、この気象は異常すぎる。
ただの領主の解決能力を超えている可能性もある。それに困っているのは、領主ではなく、その領民だ。ただ黙ってみているわけにはいかなかった。
「フレッティさん、マグマ石が足りてないのは、この都市だけですか?」
「ああ。他の都市の民には一家に1つ渡した。君の指示通り、子どもにはフレイムバードの羽根でできたベストも渡したよ」
「わかりました。じゃあ、今あるマグマ石を隣の都市に渡してきてくれませんか?」
「なっ! それは――――」
フレッティさんは息を呑む。
「フレッティ。ルーシェルの言うことに従いなさい」
「良いのですか、カリム様」
「ルーシェルに何か考えがあるのでしょう? そうですね、ルーシェル」
僕は首肯する。
こうなることも考えて、取って置いた秘策があるのだ。
「わかった。言う通りにしよう」
「ありがとうございます」
僕は頭を下げる。
「じゃあ、僕は隣の領主と会って、現状を説明してこよう。領地にとっていいことでも、勝手に干渉することは許されないことだからね。ユラン、悪いけどもうひとっ飛びお願いできるかな?」
「ユラン、僕からも頼むよ」
「まったく。お前たちはドラゴン使いが荒いのだから。魚料理と――――」
「肉料理も付け加えるよ」
「わかっているではないか」
ユランはニヤリと笑う。
カリム兄さんを乗せて、隣の領主の館へと向かった。
「それでどうするんだ、ルーシェルくん」
「はい。こうするんです」
僕は手を掲げると、【収納】を唱える。
さらに【魔法強化】をかけると、その入口は一気に広がった。
ゴゴゴッ、と鈍い音を立てて落ちてきたのは、巨大な岩だった。
『ええええええ!』
騎士団に加えて、それを見ていた領民たちがおののく。
僕は風の魔法で制御しながら、ゆっくりと都市の中心へと下ろしていく。すでに高熱を伴っていて、雪が当たると鋭い音を立てて、蒸発していった。
ついに地面に着く白い湯気を上げながら、岩は地面に下ろされる。
「こ、これは……。まさか…………」
フレッティさんでも見上げるほどの大きな岩に、当人も含めて騎士団全員が息を呑んでいた。
「はい。マグマ石です。溶岩魔王の身体をそのまま素材にしました」
「溶岩魔王を……」
巨大なマグマ石の効果は絶大だった。
熱が放射されて、周囲の雪が溶けていく。吹雪は雨になり、温かな雨を降らせると屋根に積もった雪をドンドン溶かしていった。
側にいると熱いぐらいだ。
さすがに木が燃えることはないが、熱風は街の中を通り抜けていき、冷め切った街を暖めた。
空に大きな穴が開く。
街を中心にして、青空が覗いた。
久方ぶりの陽光を目にして、領民たちの表情が輝いていく。
春を待っていた花々みたいだ。
「これでしばらくは保つと思います」
「ああ。これなら盗まれる恐れもないだろうからね」
フレッティさんは笑う。
すっかり道ばたの雪が溶けてしまう。
あちこちで川ができていたけど、家に籠もっていた領民たちは自然とマグマ石の前に集まってきた。
「ありがとうございます。騎士様」
「ありがとう」
「助かりました」
フレッティさんに感謝が向けられる。
戸惑うフレッティさんは、僕の方を指差すのだけど、すでに僕の姿は消えていた。
村では力を見せたけど、さすがに不特定多数の人が多い中で、僕にとんでもない力があることを公表するわけにはいかない。
クラヴィス父上との約束もあるしね。
フレッティさんには悪いけど、今回の英雄になってもらおう。








