第130話 マグマ石で甘藷焼き
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本日ヤンマガWebにて第6話①が更新されました。
無料では第5話②が更新されたので、気になる方は是非チェックしてください。
いよいよ話が動き出しますよ。よろしくお願いします。
「ママ……」
ついに子どもは目を覚ます。
悪夢から目を覚ますように瞼を開くと、父と母を見つめた。
すでにご両親は目にいっぱい涙を溜めながら感動している。
「どうして泣いてるの?」
首を傾げると、両親は元気になった子どもに抱きつく。声を上げながら喜ぶ一方、子どもは何が起きたかわからず、首を傾げていた。
【竜眼】を使ったけど、状態は完全に回復している。一先ずこれで大丈夫だろう。
単なる風邪からの復帰だけど、両親は泣いて喜んでいた。ちょっと羨ましい。
呪いで倒れても、僕の本当の両親は看病どころか欠陥品と言い捨て、義母は僕に呪いの言葉を送った。
僕を看病してくれたのは、いつも爺やだったからだ。
両親には会いたいとは思わない。
そもそも会えない。
でも、執事や僕を思ってくれたトリスタン家の家臣には許されるなら会いに行きたいと思うことがある。
たぶん、僕を知る者はもういないと思うけど。
くぅ~。
突如、小さなお腹の音が鳴る。
子どもからだ。
すると、一転して今度は笑い声が聞こえてきた。
僕は元気になった子どもの頭を撫でながら、微笑んだ。
「君、誰?」
「僕はね。料理人なんだ?」
「料理人? 子どもなのに?」
「ねぇ。お腹空いてる?」
子どもは素直に頷く。
「わかった。じゃあ、おいしいものを作って上げるね」
僕は家の炉を借りる。
【収納】を唱えると、出てきたのは大量のマグマ石の欠片だった。小さい破片なんかはあらかじめ避けておいたのだ。ちなみにユランのペンダントもこの中から作った。
炉の中に破片を入れて、熱する。
高温となり、家の中はさらに暖かくなっていく。
「ルーシェル、何を作るのだ?」
「やっぱり石といえば、あれでしょ」
僕は例の食材を破片の中に入れていく。
じっくり焼いていくと、香ばしい香りが家の中を包んだ。
「いい香り……」
先ほどまで風邪でうなされていた子どもの顔が綻ぶ。
かなり元気になったらしく、ケロッとしていた。
マグマ石といえば、石。
石といえば、あの料理しかないだろう。
マグマ石を使ってじっくり焼く。
「頃合いかな」
僕はマグマ石の中で焼いていた食材を取り出す。
それは、特徴的な紫色の皮にいい感じの焼き目の入った甘藷――ところによっては、甘露芋と言われている芋の一種だ。
僕はゴツゴツした紡錘形の芋を中心から割る。
ふわっと白い煙とともに現れたのは、黄金色に輝く身だ。
割った時からわかっていたけど、熱が通って軟らかく、一部がトロトロになって蜜のようになっていた。
『おいしそう!!』
家人だけではない。
集まってきた村の人たちも囲み、その軟らかそう甘藷を見て、唾を飲み込んでいる。
「どうぞ」
僕は元気になった子どもに差し出す。
目を輝かせた子どもは、僕から焼き芋を受け取ると、大きな口を開け、皮と一緒に食べた。
「おいしいいいいいいいいいいい!!」
子どもは絶叫する。
そこから何も言わず、ホクホクと頬を膨らませながら、焼き芋を頬張った。
いい食べっぷりだ。こっちまでお腹が空いてくる。
「ご両親も、皆さんもどうぞ。おいしいですよ」
僕は焼き芋を差し出す。
感謝の言葉をかけながら、焼き芋を口にした。
「おいしい!」
「すごい!! めちゃくちゃ甘いぞ」
「甘藷はよく食べるが、こんなに甘いのは初めてだ」
絶賛する。
どうやら気に入ってくれたようだ。
「う~~ん。うまい!!」
おいしい悲鳴を上げたのは、ユランだ。
僕が勧める前に食べていた。
そこへ行くと、カリム兄さんは弁えているようだ。
「カリム兄さんもどうぞ」
「いいのかい? 貴重な食糧だろ?」
「大丈夫です。またとってくればいいので」
「……そうか。ルーシェルがそういうなら、食べてみようかな」
カリム兄さんは僕から焼き芋を受け取ると、早速頬張った。
「うん! うまい! 確かに……。焼き芋は僕も食べるけど、こんなに甘い焼き芋は初めてだ。身はホクホクしていて軟らかく、蜜を食べてるように甘い。表面がカリッとしているのもいいね。香ばしい焦げが口の中に広がって、風味に近いものを感じる」
「普通の石と違って、マグマ石で芋を焼くと、とても甘くなるんです。それにマグマ石の熱は、火と違ってじんわりと暖かくなるので。えっと……エンセキガイセンコウカと言って、熱が芯にまで届きやすいそうです」
エンセキガイセンコウカというのは、僕もうまくは説明できない。
熱にはそういう種類のものがあるらしい。
ちなみに【知恵者】さんが教えてくれた。
まあ、それはまたじっくりと研究することにして、ともかくみなさんが満足してくれてよかった。
「あ。そうだ」
僕はまた【収納】から取り出す。
出したのはベストだった。
それを子どもに着させてあげる。
「あったか~い」
喜んでくれた。
このベストには例のフレイムバードの羽根が使われている。
生地の中に羽根を詰めて、ベストにしたのだ。
数量はないけど、可能であれば身体の弱い子どもを中心にプレゼントしたいと思っていた。
「何から何までありがとうございます、ルーシェル様」
「あの〝様〟はやめてください。僕はそんなに偉い人ではないので」
というと、村の人全員が首を振った。
「仮にルーシェル様がこの村に来てくれなかったら、我々はこの厳しい冬を越えることができなかったかもしれない。あなたは命の恩人です。恩人を敬うのは当たり前です。ありがとうございました」
最後は村の人全員が頭を垂れた。
僕は村を後にする。
あまり時間をかけられない。
子どものように病気になっている人もいるし、もうすでに凍死寸前の人もいるはずだ。
僕は気を張っていると、カリム兄さんがそっと頭を撫でてくれた。
「兄さん?」
「力を抜きなさい、ルーシェル。君が人を救いたい気持ちはわかるけど、頑張りすぎると君自身が倒れてしまう。それでは本末転倒だ」
「お気遣いありがとうございます」
カリム兄さんの言う通りだ。
村の人を助けるためにも、僕自身がしっかりしなくては。
「それにね。僕は誇らしいんだ、ルーシェル。弟があんなに領民に慕われているのを見てね。今君がやってることは、きっと何か良い行いによって返ってくると思う。……これからも領民を大切にしなさい」
「わかりました、兄さん」
「ところで、聞きたかったのだけど、あの焼き芋――ただの焼き芋じゃないんだろ」
「え? ああ……。それは――――」
僕は思わず目をそらす。
カリム兄さんにはお見通しか。
一体どこでバレたんだろうか。
あの食材の味は、ほとんど甘藷そのものだし、見た目だって。
「君はさっき僕に甘藷を〝とってくればいい〟と言っただろ? 畑から取ってくると、普通は考えるかもしれなけど、本当は獲物として獲ってくるって意味だったんじゃないのかい?」
「……正解です。さすがカリム兄さん」
「じゃあ、やはりあれは魔獣食だったんだね」
「その通りです。あれはエービルプラントの幼体――というか、種子ですね」
「え、エービルプラントの種子!」
Dランクの魔樹系の魔獣だ。
たいてい魔樹系の魔獣は、種子から生まれてくる。
この種子が甘藷みたいに大きくて、かつおいしいのだ。
種子の状態ではほとんど無害なんだけど、魔獣は魔獣なので傷付けたりすると、消滅してしまう。だから、地面ごと氷漬けにしてから、流水で解凍する必要がある。もちろん中には魔晶石もあるから、今回の甘藷はあらかじめ取っておいたものだ。
「エービルプラントには【状態異常耐性】が付く効果があります。病気にかかりにくくなる効果があるので」
僕は説明すると、カリム兄さんはまた僕の頭を撫でた。
「さすがルーシェルだ」
「いえ。その勝手に人に魔獣食を食べさせてしまってすみません」
「ルーシェルが領民に毒を盛っているなら僕は厳しく君を叱らなければならない。でも、君の魔獣食の安全性はよくわかっている。責めたりしないよ。子どもがまた病気にならないようにする配慮なんだろ? 今は非常時だ。そういう嘘も必要になるだろう」
カリム兄さんは許してくれた。
やっぱりレティヴィア家の人たちは、みんな優しいや。
ヤールム父様なら厳しい鉄拳制裁が飛んできたところだろう。
「さて、まだまだ救いの手を求めている村がある。頑張ろう、ルーシェル」
「はい。兄さん」
僕、カリム兄さん、ユランの3人は次の村を目指すのだった。








