第128話 溶岩魔王、討伐完了!
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ヤンマガWEBで5話の①が公開されました!
不老不死になってしまったルーシェル。そして新たな人生が始まるお話です。
是非読んでくださいね(4話の②も公開されております)
※年末年始には何かしらの告知があると思います。
僕は巨大な氷の槍を投げつける。
魔法によって【加速】がかかった氷の槍は火山からの煙を消し飛ばし、真っ直ぐ溶岩魔王に向かった。
ただ黙って貫かれるかと思いきや、溶岩魔王は動いた。
ハエトリソウのような口を開くと、こみ上げてきたマグマを勢いよく吐き出す。
範囲こそ狭いが、それは飛んできた氷の槍にかかると、ドンッと音を立てて爆発した。
真っ白な煙が立ち上る。
煙の中から見えたのは、勝ち誇る溶岩魔王だ。口を開けて、愉快げに笑っている。
「まさかあの氷の槍をマグマで溶かしてしまうなんて」
僕は息を呑みながら、次の手を考える。
水・氷属性は火属性に強いけど、これほど巨大な熱量だと着弾する前に溶けてしまう。そもそもあれほどの熱量だ。単純に冷やすための水分量が少ない。
かといって、火塊の時のように溶岩魔王を【分子分解】で消し飛ばしてしまうのは、いくら僕でも不可能だ。
斬撃や打撃では破片がどう飛び散るかわからない。爆発系の魔法で吹き飛ばすなんて論外だ。僕の目的は多くのマグマ石を持ち帰ること。溶岩魔王や溶岩魔人を爆散させるわけにはいかない。
もっと大量の水がいる。雨? 雪? いや、それでも少ない。もっと大きな水がいる。
『主よ』
突然、僕の頭に聞き覚えのある声が聞こえた。
勇ましく雄々しい。この声ってもしかして……。
「火蜥蜴? 君なのか?」
『はっ! 差し出がましいのは承知で、ご助言したく』
「助かるよ、ありがとう」
早速、【精霊召喚】を使う。
炎が燃えさかると、その中から竜の頭と翼を持つ竜人が現れた。
僕が契約している火の精霊火蜥蜴だ。
僕の前に傅くと、火蜥蜴は頭を下げた。
相変わらず律儀な精霊らしい。
「火蜥蜴、君の考えを聞かせてほしい」
『私は火の精霊です。熱を操ることにも長けております。ならば、ヤツが熾す火に同調し、熱を抑えることもまた可能です」
「つまり、溶岩魔王の温度を下げることができるということかい?」
『その通りです。熱を抑えることができれば、ルーシェル様ならヤツを氷漬けすることができるのでは?』
「できる……と思うけど」
僕は火蜥蜴の話を聞きながら、一計を考えつくと、思わず口角が上がった。
「火蜥蜴、熱を抑えることができるということは熱も上げることができるってことだよね」
『そうですが……。何か思い付きましたな、主殿』
「手伝ってくれる?」
『もちろんです』
火蜥蜴もまた僕と同じくニヤリと笑った。
僕は火蜥蜴に思い付いたことを話す。
「うまく行くと思う?」
『主殿ならば必ずやり遂げるでしょう。では、早速――――』
「うん。頼むよ」
火蜥蜴は踵を返し、溶岩魔王に向かって行く。
溶岩魔王は吠える。すると、溶岩魔人たちが一斉に火蜥蜴に攻撃を始めた。
火塊を放り投げたり、マグマを吐いたりしている。
だが、火蜥蜴に通じない。
火蜥蜴は火の精霊。火を伴うものの中には、必ず火蜥蜴の別人格が棲んでいる。
火蜥蜴に対して、火蜥蜴で攻撃するようなものだった。
飛んできた火塊やマグマに臆さず、火蜥蜴は突き進む。その攻撃の一切を吸収すると、ついに火蜥蜴は溶岩魔王に貼り付いた。
いくら火蜥蜴でも溶岩魔王の前では、人体に止まった蠅にも等しい。だが、その蠅はただの蠅じゃない。猛毒を持った溶岩魔王の天敵ともいえる存在だった。
『下郎め! 主の御前である頭が高い!』
火蜥蜴は叫ぶと、溶岩魔王に同調する。火蜥蜴の膨大な魔力を、溶岩魔王に食わせていく。当然、熱量も上がり、温度も上がっていった。
溶岩魔王には断る理由などない。
魔獣の好物はなんと言っても魔力である。
それを無料で食わせてくれるのだ。
しかも、精霊自身となればこれほどおいしい餌はないだろう。
溶岩魔王は笑っていた。
自分に対する貢ぎ物か何かかと思ったのかもしれない。口を大きく開き、岩のような肌をゴリゴリと動かしながら、大笑いしている。
だが、それが仇になった。
溶岩魔王の身体を構成する岩肌が赤くなっていく。ついにドロドロに溶けて鉄のように輝き始めると、栓が抜けたようにマグマが飛び出した。
それは1つや2つではない
あちこちで起こっていた。
溶岩魔王がそれに気付いた時には遅い。
岩肌は真っ赤に焼け、黄色く濁ってついに身体中がドロドロと溶け出した。
溶岩魔王は火蜥蜴を振り払おうとするけど、手もクリームみたいに溶けてしまう。
マグマではなく、溶岩魔王自体が溶けてなくなりかけていた。
そのあおりを食らったのは溶岩魔人である。
溶岩魔王のマグマを受けて、次々と巻き込まれていく。
土の中に逃げようと関係ない。
その大地すら溶かしてしまう。
優勢だった溶岩魔王とその部下たちは、一転全滅の危機を迎えていた。
『所詮は獣よ。我が主の思考には勝てぬ』
火蜥蜴はマグマの中に沈みながら、ニヤリと笑う。
火の精霊なので、当然生きていた。
ここまで僕の作戦通り。
さて溶岩魔王はどう動くかな。
溶岩魔王は周りを窺う。
やがてゆっくりと巨体を動かし始めた。
今のままでは外殻を維持することはできない。
だから、外殻を冷やそうとすることはわかっていた。
そしてその溶岩魔王が向かって行く先は1つしかない。
海だ。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……」
溶岩魔王は悲しそうな声を上げる。
その巨体はゆっくりと海岸へと向かっていた。
もちろん、例の漁村とは反対方向に、僕は誘導する。
ドロドロになった溶岩魔王が崖から落ちて、海へと流れ込んでいく。
白い煙が上げながら、溶岩魔王の巨躯が固まっていった。
やがて元の姿に戻るけど、海に落ちたことによって熱を上げることができない。
『主! 今です!!』
火蜥蜴が叫ぶ。
一連の動きを、僕はずっと頭上から眺めていた。その僕のさらに頭上にあるのは、無数の氷の柱だ。
「いけぇぇえええええ!」
手を下ろす。
瞬間、氷の柱は落ちていった。
溶岩魔王を囲い、さらに上から蓋をする。
完成したのは、氷の牢獄だ。
僕は魔力を込める。
氷でできた牢獄の温度をさらに冷やしていく。
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
溶岩魔王の熱量が勝つか。
僕が作った氷の牢獄が勝つか。
まさに勝負の別れ目だ。
やはり溶岩魔王は熱量を上げることができない。
徐々に溶岩でできた巨体が凍っていく。
「ボボボボボボボボボボ!!」
醜い断末魔の悲鳴が悲しげに鳴り響く。
牢獄の柱は大きくなり、横に広がっていった。
巨大な氷の棺桶ができていく。
声が聞こえない。
瞼を上げた時、果たして溶岩魔王は氷漬けになっていた。
「やったあああああああああああ!」
僕は両手を上げて喜ぶ。
「やったな、ルーシェルくん」
「頑張ったね、ルーシェル」
顔を上げると、フレッティさんとカリム兄さんが側にいた。ユランも一緒だ。
「ふん。この程度の魔獣に手こずるとはな」
ユランはちょっと不満げだ。
暴れ回ることができなかったからだろう。
でも、これで街を救えるはずだ。
こんなに大きなマグマ石が手に入ったんだからね。
僕は顔を上げて、改めて巨大な溶岩魔王の氷像を見つめるのだった。








