第127話 魔王降臨!?
本日、拙作原作の『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』のコミカライズが、ニコニコ漫画で更新されました。
是非読んでくださいね。
ユランは白い雪原に降り立つ。
僕、フレッティさん、カリム兄さんも続いた。
白い銀世界に鎮座した白い竜の姿は、やはり映える。それが火山帯のど真ん中なら尚更だ。
「あれだけ寒がっていたのに、自分のブレスなら大丈夫なんだな」
「我のブレスはただの吹雪ではない。神の吐息だ。強い聖属性と空間支配の能力を持っている。ただ寒いわけではないのだ」
ユランは少女の姿になると、自信ありげにツインテールの髪を掻き上げる。
僕も説明をすべて理解したわけじゃないけど、この白い雪原がユランの縄張りらしい。その中なら、ユランも寒さを感じないというわけだ。
僕は比較的大きな溶岩魔人に近づいていく。
ユランのブレスによって完全に氷漬けになっていた。一旦溶かす必要があるけど、これならたくさんのマグマ石が取れそうだ。
「うん?」
僕のスキル【超感覚】が反応する。
このスキルは五感に加えて、〝勘〟のような感覚が鋭くなる。
僕は溶岩魔人を触った瞬間、何かを感じた。
「ユラン! もう1度竜に変身して! フレッティさん、カリム兄さん、退避です!!」
僕は叫ぶ。
途端、地面が割れた。
大きな亀裂が火口の縁に現れると、現れたのは巨大な手だ。溶岩魔人よりさらに大きい。そのまま火山をつまめそうな大きさだった。
ユランはホワイトドラゴンの姿になると、フレッティさんとカリム兄さん、そして僕を乗せて、空へと逃げる。
すると、噴煙が上がった。さっき火口近くに大きな亀裂が入ったことで、火山が爆発したのだ。
噴石が舞い上がり、フレッティさんたちを乗せたユランに迫る。
けれど、ユランは翼を翻し、間一髪のところで躱した。
「これは!?」
カリム兄さんたちが驚いたのは火山から出てきたものだった。
爆発した火山を背にして、亀裂の中から現れたのは、ドロドロの溶岩を背負った魔獣だ。
「溶岩魔王!!」
カリム兄さんは叫んだ。
【浮遊】で逃げた僕も、溶岩の中から現れた巨大な魔獣に眉根を寄せる。
「溶岩魔王? 確かSランクの魔獣だったはず。確認はこれまで2、3例しか確認できていなかったが……」
フレッティさんも口を開けたまま固まっている。
所謂、溶岩魔人の上位互換というべき魔獣だ。しかし、上位互換というには溶岩魔人と溶岩魔王の力は開きすぎている。
その大きさを見ても明らかだった。
「獣風情が調子にのりおって!」
ユランは翼を広げながら、目くじらを立てる。
自分の領域を崩されたのを怒っているのだろう。
実際ユランによって氷漬けにされた溶岩魔人が次々と復帰し、雄叫びを上げている。
溶岩魔王を先頭にして上げる声は、まるで鬨の声のようだった。
「なるほど。この辺り一帯を支配していたいのは、溶岩魔王だったのか?」
溶岩魔人がやられて、さらにユランによって荒らされた縄張りを取り戻しにきたのだろう。
直後、溶岩魔人は固まったマグマを僕たちの方に向かって投げつけてくる。流石に雲の近くまで退避した僕たちには通じなかったけど、溶岩魔王が掲げたそれは違う。
地面を掴むと、引っぺがすように大地を持ち上げる。マグマ混じりの地面をそのまま僕たちに投げつけた。
大きな影が僕たちを覆う。
「ユラン、回避だ!」
「わかっておるわ!!」
ユランは力強く羽ばたき、僕はその後についていく。なんとかギリギリで回避したけど、轟音とともにその大地や他の火山に突き刺さった。
衝撃でまた火山に衝撃が走る。ガスが噴き出すと、マグマの火に反応し、また爆発する。噴煙を上げると、その地響きは空をも揺らした。
「マグマが!!」
ドロドロに溶けたマグマが山裾へと猛烈な勢いでくだっていく。そこには小さな港があって、漁船が並んでいた。どうやら人が住んでいるらしい。
「ユラン! あのマグマを頼んだよ」
「ずるいぞ、ルーシェル。魔人だか、魔王だか知らんが、我の縄張りに踏み込んだ奴は万死に値する」
ユランはお冠だ。
弱ったな。溶岩魔王同様、自分の縄張りを荒らされて、ユランまで本気怒ってるよ。
こういうところはまだ獣なんだよね。
「ユラン。ルーシェルくんの言うことを聞け。じゃないと、カンナさんに言いつけるぞ」
フレッティさんが言うと、ユランは首をグッと上げた。
「カンナは怒ると怖いですからねぇ。ご飯抜きになるかも」
「ご、ご飯抜き! ……ぬぬぬ、仕方ない! ルーシェル、溶岩魔王をとっとと倒して、早くご飯を食わせろよ」
「ルーシェル、君1人で大丈夫かい?」
「任せてください、カリム兄さん」
「君を守れと当主様に言われて、この様では不甲斐ないが、君の力が頼りだ。あの魔獣をこのままのさばらしておくわけにはいかない」
フレッティさんの言葉に、僕は頷く。
「はい。任せてください」
ユランはマグマの方へと向かって行く。
フレッティさん、やるなあ。ユランの誘導の仕方を心得てる。それにしてもユランのカンナさんへの怖がり方は異常かも。まあ、自分より長く生きてることもあるんだろうけど、カンナさんってただの吸血鬼族じゃないんじゃないのかな。
今、その詮索をしても意味がない。
目の前の溶岩魔王に集中しなくちゃ。
振り返ると、巨大な火塊が飛んでくる。
大きい。躱せるけど、これが後ろの火山に当たると更なる噴火が起こってしまうかもしれない。
打撃? いや、粉砕した破片が飛び散ったならまずいなあ。同じく斬撃もだ。
できれば、一瞬にして消滅させる望ましい。
腐食や酸によって溶かす方法もあるけど、さて……。
「これほどの質量を消滅させるのは骨が折れそうだ」
僕はあえて火塊に突っ込んでいく。
熱量は凄まじい。生半可な身体じゃ、火塊の熱で消滅してしまうだろう。
でも、僕の身体は強力な【熱耐性】がついている。加えて【熱吸収】によって、熱を魔力に変換することができるのだ。
「ちょうどいいや。その魔力を使わせてもらうよ」
火塊の熱を体内に取り込みながら、魔力へと変換していく。
【魔力強化】【魔法強化】【二重魔法強化】【付与魔法強化】【二重付与魔法強化】【光能力強化】【魔法範囲拡大】【防御魔法無効】【貫通能力】
「そして――――」
【分子分解】!
僕は火塊に触れた。
光が満ちる。細い光の針が1本1本火塊に肉薄していくと、一瞬にして火塊をバラバラにしてしまった。
残ったのは塵だけだ。
ふわりと風が巻き起こると、どこかへ消えてしまった。
完全消滅だ。
「すごい……」
後ろを振り返りながら、カリムさんとフレッティさんは驚いていた。
カリムさんたちだけではない。
溶岩魔王たちも、すっかり消えてしまった火塊に、口を開けておののいている。
「さて。今度はこっちから行かせてもらうよ」
僕は手を掲げる。
【氷槍】
氷の槍を生成し、さらに魔法を唱える。
【水能力強化】【複製】【複製】【複製】【複製】【多重魔法付与強化】【合成】【巨獣特攻】【致命】【一撃必殺】【加速】
魔法の強化によって、【氷槍】がドンドンを大きくなっていく。
「さっきのお返しだ!!」
そう言って、僕は溶岩魔王に氷の槍を投げつけた。








