第126話 マグマより生まれしもの
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さらに有料版では、その後について描かれておりますので、是非読んでくださいね。
斎藤先生の迫力ある漫画もお楽しみに!
僕はフレッティさんたちに手順を説明した後、フレイムバードの羽毛を回収するのを手伝ってもらう。
【収納】の中に、フレイムバードの羽毛を詰める作業をしながら、フレッティさんとカリム兄さんは感心しきりだった。
「魔法の槍をあんな風に飛ばすとは……。私もあのように炎を自在に飛ばすことができればいいのですが……」
「【魔法操作】を覚えれば、割と簡単ですよ。最初慣れるのが大変ですけど」
「なるほど。今度教えてもらおうかな。……一体どんな魔獣を食べたら、習得できるんだ」
フレッティさんの質問に、僕は喉を詰まらせた。
そろっと目をそらしながら、答えようかどうしようか迷う。
「その……教えていいのですが、とても勇気がいる食材です」
「勇気か? 任せてくれ。自分でいうのもなんだが、どちらかといえば勇敢な人間だと思っている」
「ええ。フレッティさんはとても勇敢な方だと思います。まあ、その……別の意味で勇気が必要というか」
「ん? もしかして、味が悪いとか」
「それもありますし。まあ、その……ある魔獣のある部位を食べると――何ですけど」
ああ。やっぱり話せない。
自分でもあの時、なんであんな部位を食べたのかわからない。
冬場に食料が尽きて、無我夢中で追いかけ回した相手の部位が、あれの部位なんて、さすがに言えないや。
でも、フレッティさんは目を輝かせて教えを請うている。
ガッカリさせるのもなあ……。
僕はカリム兄さんをちょっと見てから、言った。
「後でこっそり教えますね」
「え? そんな反応されると、僕も気になるんだけど!」
カリム兄さんは思わずツッコみ入れた。
そんな他愛のない会話をしながら、僕たちは火口の散策を続ける。
だが、目当ての魔物がなかなか出てくることがなかった。
僕は首を傾げる。
「おかしいなあ」
「ルーシェル、君が狙っていた魔獣というのはもしかして溶岩魔人のことかな?」
「溶岩魔人! 魔獣生態調査機関においてBランクに属する危険な魔獣ではありませんか?」
カリム兄さんは父上と同じく魔獣学者を目指している。【勇者】の称号を取ったのも、世界各地に旅をして、魔獣の生態を調べるためだったらしい。
どうやら僕が火口をウロウロしているのを見て、推測し言い当てたようだ。
「カリム兄さんにはわかってしまいますよね」
「しかし、溶岩魔人とマグマ石がどう結び付くかわからないのだけど」
「『極東の風』のことを覚えてますか?」
「ああ。アイスソードの氷だったという……――まさか!」
カリム兄さんは少し考えた後、ハッとなって顔を上げた。
どうやら、マグマ石が溶岩魔人の一部だということに気づいたみたいだ。
「その通りです、カリム兄さん。マグマ石も魔導具の1つですが、実は溶岩魔人の外殻が一部剥離したものなんです。それをたまたま拾った冒険者が貴重な魔導具だと勘違いしたのだと思います」
実は溶岩魔人はかなり気の荒い魔獣だ。
基本的に火山周辺にしか棲んでいないので、縄張りが他の個体や魔獣と重なってしまうことが多い。
だから、縄張りを守るために他の魔獣や、時には同じ溶岩魔人と激しく争うことがあるのである。
戦った時に欠けた外殻の一部が、マグマ石として重宝されているというわけだ。
「ん? ちょっと待て、ルーシェルくん。縄張りを気にするというなら、何で溶岩魔人が現れないんだ?」
フレッティさんの言う通りだ。
だから、僕も気になっていた。
これだけ火山の近くをウロウロしているのに、なかなか肝心の溶岩魔人が現れず、フレイムバードが現れてしまった。
「ちょっと魔法を使ってみます」
僕は【竜眼】を使う。
周囲にいる魔獣の動向を探った。
溶岩魔人はだいだい土の中に生息し、自由自在に動き回る能力を持っている。地中にいる場合、【気配探知】では探ることができないけど、僕の【竜眼】なら簡単に見つけることができる。
僕は土の中を探る。
すると、すでに僕たちは大量の溶岩魔人に囲まれていた。
【風皇飛翔】
僕は魔法を唱えると、フレッティさん、カリム兄さんとともに風の膜に覆われる。
そのまま魔法名のまま、飛び上がった。
直後、岩肌のような手が地中から伸びてくる。
今さっき僕たちがいるところを、大きな音を立てて強い力で叩いた。
何も知らず、僕たちがいたらぺしゃんこになっていたかもしれない。
かろうじて初撃を躱したけど、僕たちはなかなかショッキングな光景を見ることになる。
無数の溶岩魔人が、土の中から出てきたのだ。
「あんないっぱいの溶岩魔人が出てくるなんて」
「溶岩魔人は群れを作らないのではないのか?」
フレッティさんの指摘は半分当たっている。実際、最初は僕もそう思ったけど、火口の状況や、他に例を見ないフレイムバードの群れ。
そこから導き出されるのは、1つしかない。
「たぶん、この火山には主がいるんでしょうね?」
「ぬし?」
魔獣が多く生息する山ではよくあることだ。
周辺一帯を我が物顔で統治する魔獣のことを、僕たちは主と呼ぶ。
かつて僕が住んでいた山では、トロルであり、ドラゴングランドなんかがそうだ。
こうやって魔獣たちが集まっているのも、主が強烈な統治能力を以て、操っているからだろう。
「ルーシェル、あの中に主がいると思うかい?」
カリム兄さんも同じことを考えていたのだろう。
「たぶんですけど、他と比べて大きな溶岩魔人がそうだと思います」
僕は指し示したのは、最初に攻撃をけしかけてきた溶岩魔人だった。他の個体と比べて、一回り大きい。
「Bランクの魔獣を従えています。その主はAランクぐらいの強さがあるかもしれません」
「けれど、これはチャンスですよ、フレッティ。これだけの溶岩魔人を未消化することができれば、大量のマグマ石が取れるということですから」
「踏ん張りどころということですか!!」
フレッティさんは再びフレイムタンを構える。カリムさんも風の精霊とコンタクトを取って、風を起こす。
僕の風の膜から飛び出すと、2人は溶岩魔人に斬りかかる。
「炎よ!!」
フレッティさんはフレイムタンの炎を溶岩魔人に叩きつける。
直撃! フレッティさんは「やった!」と嬉しそうな顔をしたが、溶岩魔人はピンピンしていた。
溶岩魔人は名前の通り火属性の魔獣。
耐火性能にも優れている。
いくら精霊の炎でも、溶岩魔人には通じない。
フレッティさんは地面に着地する。
そこは敵陣のど真ん中。周りには溶岩魔人だらけだった。
「な! しまった!!」
「風よ。邪なる者を払え!」
カリム兄さんも風を巻き起こし、フレッティさんの周りの溶岩魔人を払う。
だけど、これもあまり通じていない。
溶岩魔人は地中に潜ると、あっさりと巻き起こった暴風を回避してしまった。
「やはり僕の風では相性が悪いか」
2人はたちまち四面楚歌の状況に陥る。
僕は2人に【風皇飛翔】を使うと、再び空に戻ってきてもらった。
「大丈夫ですか?」
「すまない、ルーシェルくん」
「厄介だね。僕たち2人には相性最悪の相手だ」
カリム兄さんが肩を落とす。
仰る通り、2人にとって相性は最悪だ。
さらに地上は完全に溶岩魔人で埋まってしまっている。
これでは地上で戦うのは無理だ。
空から迎撃するにしても、風を操れるカリム兄さんはともかく、僕がフレッティさんのフォローもしないといけなくなる。
かなり難しい戦いを強いられることになるだろう。
困っていると、不意に声が頭に響いた。
「大丈夫ですよ、2人とも。ちょうどいい援軍が来てくれましたから」
「え?」
「まさか!?」
大きな影が飛んでる僕たちのさらに頭上を横切っていった。
一瞬、敵かと思ってフレッティさんたちは武器を構える。
しかし、その白い鱗を見て、安堵の息を吐いた。
ユランだ。
突如、火口の上に現れたユランは嘶く。
「暑い! ここはちょっと暑いぞ!!」
眠っていると、段々暑くなってきたのだろう。僕たちも寒いところから来たから、割と気持ち良く思っていたけど、いつの間にか大量の汗を掻いていた。
「ユラン、ナイスタイミングだ! あの魔獣をブレスで蹴散らして!」
「構わんが、後で冷たくておいしい料理を作れよ」
「君が屋敷に帰っても、同じことを言えるなら頑張って作るよ」
「言ったな! 約束だ、ルーシェル」
ユランは顎の下を大きく膨らませる。
次の瞬間、目一杯口を開いて吹雪を吐き出した。
近くには火口すらあるのに、その吹雪は一瞬にして周りを銀世界に変えてしまう。
火山帯の中に、突然銀の冠を被った山が現れた。
地面に降り立つ。
極寒の世界から灼熱地獄、そしてまた極寒の世界へ。
気温差が激しくて、体調を崩しそうだ。
僕たちはまた防寒具を纏う。
カチカチに固まった溶岩魔人たちを見て、フレッティさんとカリム兄さんは感心しきりだった。
「あの溶岩魔人を1発で」
「私も受けましたが……。さすがはユラン!」
「勘違いするな。試練の時は手加減してやっている。我が本気を出せば、雑魚魔獣など一捻りよ」
ユランは悠然と空を飛びながら、得意げに笑っていた。








