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第126話 マグマより生まれしもの

☆★☆★ 本日 コミカライズ更新日 ☆★☆★

ヤンマガWebでコミカライズが更新されました!

無料版の更新は、ついにおじいちゃんルーシェルの活躍が描かれております。

さらに有料版では、その後について描かれておりますので、是非読んでくださいね。

斎藤先生の迫力ある漫画もお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

 僕はフレッティさんたちに手順を説明した後、フレイムバードの羽毛を回収するのを手伝ってもらう。

【収納】の中に、フレイムバードの羽毛を詰める作業をしながら、フレッティさんとカリム兄さんは感心しきりだった。


「魔法の槍をあんな風に飛ばすとは……。私もあのように炎を自在に飛ばすことができればいいのですが……」


「【魔法操作】を覚えれば、割と簡単ですよ。最初慣れるのが大変ですけど」


「なるほど。今度教えてもらおうかな。……一体どんな魔獣を食べたら、習得できるんだ」


 フレッティさんの質問に、僕は喉を詰まらせた。

 そろっと目をそらしながら、答えようかどうしようか迷う。


「その……教えていいのですが、とても勇気がいる食材です」


「勇気か? 任せてくれ。自分でいうのもなんだが、どちらかといえば勇敢な人間だと思っている」


「ええ。フレッティさんはとても勇敢な方だと思います。まあ、その……別の意味で勇気が必要というか」


「ん? もしかして、味が悪いとか」


「それもありますし。まあ、その……ある魔獣のある部位を食べると――何ですけど」


 ああ。やっぱり話せない。

 自分でもあの時、なんであんな部位を食べたのかわからない。

 冬場に食料が尽きて、無我夢中で追いかけ回した相手の部位が、あれの部位(ヽヽヽヽヽ)なんて、さすがに言えないや。


 でも、フレッティさんは目を輝かせて教えを請うている。

 ガッカリさせるのもなあ……。


 僕はカリム兄さんをちょっと見てから、言った。


「後でこっそり教えますね」


「え? そんな反応されると、僕も気になるんだけど!」


 カリム兄さんは思わずツッコみ入れた。





 そんな他愛のない会話をしながら、僕たちは火口の散策を続ける。

 だが、目当ての魔物がなかなか出てくることがなかった。


 僕は首を傾げる。


「おかしいなあ」


「ルーシェル、君が狙っていた魔獣というのはもしかして溶岩魔人のことかな?」


「溶岩魔人! 魔獣生態調査機関(ギルド)においてBランクに属する危険な魔獣ではありませんか?」


 カリム兄さんは父上と同じく魔獣学者を目指している。【勇者】の称号を取ったのも、世界各地に旅をして、魔獣の生態を調べるためだったらしい。

 どうやら僕が火口をウロウロしているのを見て、推測し言い当てたようだ。


「カリム兄さんにはわかってしまいますよね」


「しかし、溶岩魔人とマグマ石がどう結び付くかわからないのだけど」


「『極東の風』のことを覚えてますか?」


「ああ。アイスソードの氷だったという……――まさか!」


 カリム兄さんは少し考えた後、ハッとなって顔を上げた。

 どうやら、マグマ石が溶岩魔人の一部だということに気づいたみたいだ。


「その通りです、カリム兄さん。マグマ石も魔導具(マジックアイテム)の1つですが、実は溶岩魔人の外殻(がいかく)が一部剥離したものなんです。それをたまたま拾った冒険者が貴重な魔導具(マジックアイテム)だと勘違いしたのだと思います」


 実は溶岩魔人はかなり気の荒い魔獣だ。

 基本的に火山周辺にしか棲んでいないので、縄張りが他の個体や魔獣と重なってしまうことが多い。

 だから、縄張りを守るために他の魔獣や、時には同じ溶岩魔人と激しく争うことがあるのである。

 戦った時に欠けた外殻の一部が、マグマ石として重宝されているというわけだ。


「ん? ちょっと待て、ルーシェルくん。縄張りを気にするというなら、何で溶岩魔人が現れないんだ?」


 フレッティさんの言う通りだ。

 だから、僕も気になっていた。

 これだけ火山の近くをウロウロしているのに、なかなか肝心の溶岩魔人が現れず、フレイムバードが現れてしまった。


「ちょっと魔法を使ってみます」


 僕は【竜眼】を使う。

 周囲にいる魔獣の動向を探った。

 溶岩魔人はだいだい土の中に生息し、自由自在に動き回る能力を持っている。地中にいる場合、【気配探知】では探ることができないけど、僕の【竜眼】なら簡単に見つけることができる。


 僕は土の中を探る。

 すると、すでに僕たちは大量の溶岩魔人に囲まれていた。


【風皇飛翔】


 僕は魔法を唱えると、フレッティさん、カリム兄さんとともに風の膜に覆われる。

 そのまま魔法名のまま、飛び上がった。


 直後、岩肌のような手が地中から伸びてくる。

 今さっき僕たちがいるところを、大きな音を立てて強い力で叩いた。

 何も知らず、僕たちがいたらぺしゃんこになっていたかもしれない。


 かろうじて初撃を躱したけど、僕たちはなかなかショッキングな光景を見ることになる。

 無数の溶岩魔人が、土の中から出てきたのだ。


「あんないっぱいの溶岩魔人が出てくるなんて」


「溶岩魔人は群れを作らないのではないのか?」


 フレッティさんの指摘は半分当たっている。実際、最初は僕もそう思ったけど、火口の状況や、他に例を見ないフレイムバードの群れ。

 そこから導き出されるのは、1つしかない。


「たぶん、この火山には(ぬし)がいるんでしょうね?」


「ぬし?」


 魔獣が多く生息する山ではよくあることだ。

 周辺一帯を我が物顔で統治する魔獣のことを、僕たちは主と呼ぶ。

 かつて僕が住んでいた山では、トロルであり、ドラゴングランドなんかがそうだ。


 こうやって魔獣たちが集まっているのも、主が強烈な統治能力を以て、操っているからだろう。


「ルーシェル、あの中に主がいると思うかい?」


 カリム兄さんも同じことを考えていたのだろう。


「たぶんですけど、他と比べて大きな溶岩魔人がそうだと思います」


 僕は指し示したのは、最初に攻撃をけしかけてきた溶岩魔人だった。他の個体と比べて、一回り大きい。


「Bランクの魔獣を従えています。その主はAランクぐらいの強さがあるかもしれません」


「けれど、これはチャンスですよ、フレッティ。これだけの溶岩魔人を未消化することができれば、大量のマグマ石が取れるということですから」


「踏ん張りどころということですか!!」


 フレッティさんは再びフレイムタンを構える。カリムさんも風の精霊とコンタクトを取って、風を起こす。


 僕の風の膜から飛び出すと、2人は溶岩魔人に斬りかかる。


「炎よ!!」


 フレッティさんはフレイムタンの炎を溶岩魔人に叩きつける。

 直撃! フレッティさんは「やった!」と嬉しそうな顔をしたが、溶岩魔人はピンピンしていた。


 溶岩魔人は名前の通り火属性の魔獣。

 耐火性能にも優れている。

 いくら精霊の炎でも、溶岩魔人には通じない。


 フレッティさんは地面に着地する。

 そこは敵陣のど真ん中。周りには溶岩魔人だらけだった。


「な! しまった!!」


「風よ。邪なる者を払え!」


 カリム兄さんも風を巻き起こし、フレッティさんの周りの溶岩魔人を払う。

 だけど、これもあまり通じていない。

 溶岩魔人は地中に潜ると、あっさりと巻き起こった暴風を回避してしまった。


「やはり僕の風では相性が悪いか」


 2人はたちまち四面楚歌の状況に陥る。

 僕は2人に【風皇飛翔】を使うと、再び空に戻ってきてもらった。


「大丈夫ですか?」


「すまない、ルーシェルくん」


「厄介だね。僕たち2人には相性最悪の相手だ」


 カリム兄さんが肩を落とす。


 仰る通り、2人にとって相性は最悪だ。

 さらに地上は完全に溶岩魔人で埋まってしまっている。

 これでは地上で戦うのは無理だ。


 空から迎撃するにしても、風を操れるカリム兄さんはともかく、僕がフレッティさんのフォローもしないといけなくなる。

 かなり難しい戦いを強いられることになるだろう。


 困っていると、不意に声が頭に響いた。


「大丈夫ですよ、2人とも。ちょうどいい援軍が来てくれましたから」


「え?」


「まさか!?」


 大きな影が飛んでる僕たちのさらに頭上を横切っていった。

 一瞬、敵かと思ってフレッティさんたちは武器を構える。

 しかし、その白い鱗を見て、安堵の息を吐いた。


 ユランだ。


 突如、火口の上に現れたユランは嘶く。


「暑い! ここはちょっと暑いぞ!!」


 眠っていると、段々暑くなってきたのだろう。僕たちも寒いところから来たから、割と気持ち良く思っていたけど、いつの間にか大量の汗を掻いていた。


「ユラン、ナイスタイミングだ! あの魔獣をブレスで蹴散らして!」


「構わんが、後で冷たくておいしい料理を作れよ」


「君が屋敷に帰っても、同じことを言えるなら頑張って作るよ」


「言ったな! 約束だ、ルーシェル」


 ユランは顎の下を大きく膨らませる。

 次の瞬間、目一杯口を開いて吹雪を吐き出した。

 近くには火口すらあるのに、その吹雪は一瞬にして周りを銀世界に変えてしまう。

 火山帯の中に、突然銀の冠を被った山が現れた。


 地面に降り立つ。

 極寒の世界から灼熱地獄、そしてまた極寒の世界へ。

 気温差が激しくて、体調を崩しそうだ。


 僕たちはまた防寒具を纏う。

 カチカチに固まった溶岩魔人たちを見て、フレッティさんとカリム兄さんは感心しきりだった。


「あの溶岩魔人を1発で」


「私も受けましたが……。さすがはユラン!」


「勘違いするな。試練の時は手加減してやっている。我が本気を出せば、雑魚魔獣など一捻りよ」


 ユランは悠然と空を飛びながら、得意げに笑っていた。


11月11日「アラフォー冒険者、伝説となる」単行本4巻が発売されます。

こちらも無双しておりますので、是非お買い上げいただければ幸いです。


挿絵(By みてみん)

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