第12話 ケダモノたち
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フレッティさんたちはその夜、僕の家の周辺で夜を明かした。
さすがに5人全員を泊めることができるほど、僕の家は広くない。ベッドも1つしかなく、今はミルディさんが占拠している。
結果、女性陣のミルディさんとリチルさんが、僕の家で眠ることになった。
「そんな悪いですよ、ルーシェル君。ベッドまで使わせてもらっているのに」
「リチルの言う通りだぞ、ルーシェル君」
リチルさんの意見に、フレッティさんも頷く。ガーナーさんも「…………」と黙って同意した。
弱ったなあ……。
僕の家だから僕が中で眠るというのは、なんとなくわかるし、そう言ってくれる気持ちはありがたい。
フレッティさんたちが遠慮するのもわかるけど……。
「僕は野宿するのは慣れているので。それに女性の方に外で寝てもらうのは気が引けるというか……」
「ルーシェル君……」
リチルさんの声のトーンが落ちる。
あれ? 何か悪いことを言ったかな。そうか。リチルさんも騎士団の一員だからね。女性扱いされるのがイヤだったのかも……。
「すみ――――」
「ルーシェル君、ありがと!!」
リチルさんは僕を強く抱きしめる。
柔らかい感触が僕のおでこ付近に当たった。
あ、あの……。この柔らかい感触ってもしかして、リ……リチルさんの胸……?
はわわわ……。やわらかい――――じゃなくて! い、息が出来ないんだけど……。
今まで気付かなかったけど、リチルさんって母上よりも大きい?
「じゃあ、一緒に寝ましょう。そうだ。わたしが知ってる夜想話を教えて上げるわ」
「い、いいいい一緒……」
「イヤ?」
リチルさんは首を傾げた。
時を同じくして、先ほど僕のおでこに当たっていたものが震える。
急激に僕の顔は熱くなっていく。
頭によぎったのはリチルさんとミルディさんの間に挟まれた僕の姿だった。
「え、えええええ遠慮します! ぼ、僕も外で野宿しますから」
「そう……。自信あるのにな」
じ、自信? あ、そうか。夜想話のことを言っているのか。
あうぅ……。リチルさんを失望させてしまった。
せめて得意な夜想話を聞かせてもらうぐらいなら良かったかな。
そんな一悶着が終わり、僕はフレッティさんたちと野宿することになった。
かなり疲れていたのだろう。
フレッティさんも、ガーナーさんもよく寝ている。こっそりとだけど、渡した飲み物の中に、イザナイチョウという魔獣の鱗粉を混ぜておいた。
これはとても眠くなる代わりに、疲れた身体を癒やし、体力を回復させる効果がある。
恐らく明日起きる頃には、溌剌としているはずだ。
僕はフレッティさんに借りたマントから起き上がる。
無数の梢の向こうに光る月を見上げた。
まだ高い。夜はまだ長そうだ。
「ちょっと行ってきますね」
僕は近くで寝ていたフレッティさんに囁きかける。
ややピクピクとこめかみの辺りを動かすと、意味のない寝言を言って再び寝入ってしまった。
僕はニコリと笑い、そして夜の山を下る。
【夜目】の効果のおかげで、僕にとっては夜の山も昼の山も変わらない。
山を下りながら、僕は騎士団の人たちのことを考える。
フレッティさんはとても優しい人だ。
リチルさんも、ガーナーさんも……。
怪我を負っているミルディさんや、騎士団の帰りを待ち望んでいる主人も、きっといい人たちなのだろう。
ああいう人たちを失ってはいけない。
そして、騎士団を取り巻く人たちを悲しませてはいけない。
絶対にだ。
麓まで降りてくると、僕は【気配探知】を使った。
いる……。
山の近くを横切る街道付近。その森の中で男たちが夜営をしている。
よく目をこらし、現状を把握した。
僕の視力はタカやワシ以上だ。これはメモリーローダーという無数の目玉を持つ魔物を食べているうちに良くなった。
それだけ聞くと気持ち悪いし、さすがの僕も抵抗はあった。
けれど、メモリーローダーの1つの目の大きさは鯛の目玉と変わらない。それを磨りつぶし、薬として飲んだことによって、僕の視力は飛躍的に良くなっていった。
「多分、あれかな?」
少し……いや、少しどころじゃないか。
柄の悪そうな男たちが集まっていた。酒を飲んで食事している。側には馬車があった。
おそらく街道沿いにやってきた馬車を襲撃したのかもしれない。御者の遺体と思われるものが埋葬もされずに転がっていた。
僕は少し目を細める。
義憤を心に留めながら、男たちの会話を聞いた。
視力と同じく僕は耳もいい。
【気配探知】を得ることができた耳長ラビットを食べた時に、耳の方も良くなった。
こちらは蝙蝠並みだ。
あまりに聞こえ過ぎるから、普段は抑制してるけどね。
その封印を解く。
ワッと飛び込んできたのは、風が鳴る音、虫の音、梢の音――そして人の声だ。
『しけてるなあ。肉がねぇじゃねぇか』
『でも、酒はあるぜ』
『ところであいつら、いつまでもつかねぇ』
『すぐ戻ってくるさ』
『楽しみだなあ。あの女騎士、結構好みだったんだよ』
『俺はボインの回復師の方がいいなあ』
僕は思わず眉を顰める。
すぐに能力を抑制して、聴覚を切った。
間違いなく、フレッティさんが言っていた野盗だ。
そして彼らが街道沿いで夜営している理由は1つしかない。
フレッティさんたちが山から降りてくるのを待っているんだ。
野盗たちはフレッティさんが僕に匿われていることを知らない。山は魔獣がいる危険地帯だ。
魔獣に襲われて逃げ帰ってくるとでも思っているのだろう。
ひどい人たちだ。
彼らだって、生きるのに精一杯なのかもしれない。でも、人が努力して手に入れたものを奪い、命を弄ぶことに何の躊躇もない人間なんてケダモノも同然だ。
いや、それ以下だろう。
尚更、フレッティさんたちを助けなければ……。
そして今、多分それを知り、助けることができるのは僕しかいない。
僕は森の中に立つ。
すでに僕は野盗に囲まれていた。
僕は視線を無視して、御者の遺体を担ぎ上げる。もう随分と冷たくなっていた。
「なんだ、このガキ……」
1人の小柄な野盗が近づいてくる。
「あなたたちの家族には悪いけど、すみません……ここで死んでもらいます」
先ほどまでお祭り騒ぎだった野盗の夜営地が、一瞬にして静かになる。
続いて降って湧いたのは、笑い声だった。
皆が一様に顔を歪め、僕を指差して笑う。
「死んでもらう?」
「ぎゃはははははははは!!」
「何言ってんだ、小僧!」
「わーい。僕、こわーい! たすけてー!」
「汚ぇガキだな。おい。誰かとっとと殺せ」
「いや、その前に具合を確かめねぇと」
「うわー。お前も好きだねぇ」
聞いているだけで耳が腐りそうだし、吐く息も臭い。
男たちにとって、僕は投げ入れられた子羊同然なのだろう。
どうやら是非もないようだ。
僕は大きく息を吸い込んだ。
出来れば、痕跡は残したくなかった。
【竜火猛煌】!
「へっ?」
野盗が事態に気づいた時にはもう遅かった。
僕の口から竜の息吹もかくやというほどの大きな火塊が吐き出される。
野盗――いや、森そのものを焼き尽くさんばかりの火塊だった。
まるで竜の咆哮のような音を立てて燃えさかり、集まってきた野盗をなぎ払う。
「「「「ぎゃあああああ――――……」」」」
断末魔の悲鳴が途中で途切れる。
背を向けて逃げ出す野盗も、哀れ炎にくるまれ一瞬にして燃えかすになってしまった。
気が付いた時には、周囲には何もない。
逃げ惑う野盗の影と、空に満ちる綺麗な星々だけが残されていた。
投稿を開始して、初めての週末が迫ってきました。
この週末にたくさんの方に読んでいただきたいと思っています。
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