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第124話 領内の困り事

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★

本日『公爵家の料理番様』のコミカライズ更新されます。

最新話ではついにドラゴングランドと対決です。

ヤンマガWebで読むことができますので、是非よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 雪の1日目はとても楽しくて、おいしかったけど、例年にない寒さはその後も続いた。


 1日中、猛吹雪という日なんかもあって、レティヴィア領はすっかり雪に埋まってしまう。星詠みの人は「一過性の寒波だ」と言ったけど、2週間経っても寒さが和らぐことはなかった。


 レティヴィア領は比較的温暖で、冬になっても氷点下まで下がることはない。

 しかし、今年は日中でも氷点下を下回るという日まで出てしまった。

 最初も言ったけど、例年にはない寒さ。もはや異常な気象だ。


 そうなると困るのは、寒さをどう凌ぐかだ。


 僕の家族やレティヴィア家の家族や家臣には、カットマトを食べてもらったので、寒くても凍えることなく活動を続けている。

 だけど、領民は別だ。

 僕が持っているカットマトは、ほとんどレティヴィア家の人たちに出してしまった。


 魔樹であるカットマトは冬になると冬眠してしまう。その時に収獲するのが1番なんだけど、あらかじめ生息場所を確認しておかないと、雪の中から見つけるのは難しい。レティヴィア領内の総人口は、約10万人。その人たち全員にカットマトを分け与えるのは、ほぼ不可能だ。


 クラヴィス父上も、この問題に頭を抱えている。

 連日、フレッティさんたちに指示を出しながら、カリム兄さんと対応を協議していた。


「父上、兄上……。失礼します」


 僕は会議室のドアをノックして、荷車を引いて部屋に入ってくる。

 たちまちおいしそうな香りが会議室を包むと、真剣な顔で協議していたクラヴィス父上たちの顔が綻んだ。


「おいしそうな匂いだな、ルーシェル」


「みなさん、お疲れのようですから。差し入れを持ってきました」


「そう言えば、お昼を食べていなかったですね」


 カリム兄さんはお腹を擦る。

 すると、思い出したかのように小さな音が鳴った。

 その音を聞いて、クラヴィス父上は破顔する。


「休憩にしよう、カリム。それにフレッティも。我々が倒れては、助かる人命も助からんからな」


 クラヴィス父上が進めると、カリム兄さん、フレッティさんは少しホッとした様子で席に着く。

 1度テーブルの上の書類を片付けた後、僕は料理を並べる。

 小さな銀蓋を持ち上げると、マグカップの中に小さなスープが現れた。


『おお!』


 マグカップの中から溢れてくる香りと、その彩りに声が上がる。

 クリーム色のスープに、甘藍(キャベツ)、馬鈴薯、人参、玉葱、そして鶏肉が入っていた。


「このツンと来る香りは、生姜かな?」


 カリム兄さんが言い当てる。

 当たり。さすが兄さんだ。


「豆乳生姜スープです。疲労回復にもいいですし、温かいですよ」


「有り難い」


「早速、いただきましょう」


 クラヴィス父上、カリム兄さん、フレッティさんはそれぞれ口を付ける。


 瞬間、凝り固まっていた表情が一気にトロトロになった。


『おいしいいいいいいいいい!!』


 3人は悲鳴を上げる。


「なんと優しい味か……。スープの温かさが骨身に沁みる」


「豆乳のまろやかさが舌を癒やしてくれるようです。具材との相性もいいですね。トロりとした舌ざわりがまろやかなこと」


「具材の旨みもよく出て、豆乳スープに絡んでいるのと、何より生姜入りというのがいい。胃の中で落ち着いた後、ほわりと身体が熱くなっていくのがわかります」


 3人とも目を細め、僕が作った豆乳生姜スープに癒される。

 良かった。今日も満足してもらえたようだ。


「ルーシェルくん、いいのか? 冬場の貴重な食料を使って」


「あ。いえ。……それ、全部魔獣食材や魔草なんで大丈夫です。屋敷の食料には手を付けてませんから安心して下さい」


「え? これ、全部魔獣と魔草なのか?」


 フレッティさんがマグカップを持ったまま素っ頓狂な声を上げる。

 他の2人も口を開けて驚いていた。


 冬は雪も振って、景色に風情もあるけど、生物にとって厳しい季節だ。

 それは山でも平地でも変わらない。

 特に食糧不足は顕著になる。

 公爵家には冬を越えるために、食糧の備蓄がたくさんあるけど、余裕があるわけじゃない。多くの家臣を抱えているため、むしろ節制しなければ冬まで持たないのだ。


「お肉はアサシンバードです。鶏肉と違って、少し風味が独特ですが、胸肉が軟らかくておいしいんですよね。甘藍に見えるのは、ボウラ草の蕾です。葉に見えますが、実は全部蕾で、食べると結構シャキシャキしてるでしょ。馬鈴薯はデビルピクシーの角、人参もレッドデビルの角を1度蒸かして軟らかくしたものを使ってます。玉葱はスカイローパーの足ですね。豆乳もビーンズナイトを擂り潰して作りました。普通の豆乳よりも濃厚なので、飲むよりはスープや鍋に使った方が相性がいいんです。生姜だけ普通の食材を使いましたが、これは僕個人が備蓄してあるものを使いました。だから、公爵家の食糧には一切手を付けていません」


「苦労をかけるな、ルーシェル」


 クラヴィス父上は僕の頭をなで回す。


「い、いえ。食材を魔獣食材や魔草で並べるのは、山の生活で慣れているので。……それよりもどうですか? 領民の人たちは助かりそうですか?」


 豆乳生姜スープによって、一旦緩んだ表情をクラヴィス父上は引き締める。

 テーブルの上に改めて領内の地図を広げると、目を細めた。


「はっきり言うと、かんばしくないな」


「今のところ、カットマトを食べた騎士たちが見廻りしているおかげか、凍死者は出ていないが……」


「やはり何か困ったことが?」


 僕が質問すると、カリム兄さんが答えた。


「まず食糧だね。これだけ寒いと、ご飯で身体を温める必要がある」


「それに温かいご飯を作るには、火を熾す必要がある。それには当然薪が必要だ」


「部屋を温めるためにも薪は必要だ。そうなってくると、冬を越すために用意していた薪だけでは足りなくなってきたのだ」


 だけど、この天気だ。

 今から薪を作るために木を切るといっても、なかなか難しい。

 それに木そのものが凍っているから、なかなか刃物が通らないかもしれない。


 ともかく、薪の確保重要か。


「どれぐらい必要なんでしょうか?」


「ざっと計算して、500トーンぐらいかな」


 すごい量だな。

 だいたい1200から1500本近い木を切らなければならなくなる。

 今、この状況で用意するのは、ほぼ不可能だろう。


 クラヴィスさんたちはどうやら別の方法を模索してるみたいだ。

 薪に変わる代替え燃料、あるいは1つの家庭に2つ以上の家族を住まわせて、薪の消費を抑える方法だ。

 後者はそれなりにうまくいってるようだけど、代替え燃料の方はさっぱりらしい。

 それに家族をまとめても、結局調理時間が長くなって劇的に改善とはいかなかったらしい。


「今から薪を取っても、生木のままでは火がつかない」


「どうしたものか?」


「あの……。マグマ石はどうでしょうか?」


 名前の通り、火山などの火口で採れる石で、置いておくだけでかなり温かくなる。

 効果は2ヶ月ぐらいしか持たないけど……。


「いや、2ヶ月でも十分だ」


 フレッティさんは嬉々として喜んだ。

 しかし、クラヴィス父上は浮かない顔だ。


「マグマ石? しかし、あれはかなり貴重な魔導具(マジックアイテム)だ。各家に配るほどの量が取れるかどうか」


「大丈夫です。当てはあるので」


 自信満々に言うけど、クラヴィス父上はまだ表情が冴えない。


「ルーシェルのことだ。またとんでもないことをするのだろうが……。危険はないのだな?」


「ありません。山に住んでいた時はよくやってました」


「う~む。なら、カリム、フレッティ。お前たちもついていってくれないだろうか」


「わかりました」


「ルーシェル様は私がお守りします」


 2人は頷く。


「あと、ユランを連れていっていいですか?」


「ユランを?」


「移動に必要なので。……それに食客とはいえ、たまには働いてもらわないと」


 こうして僕たちはマグマ石を求めて、近くの火山へと向かうのだった。


小説版『公爵家の料理番~300年生きる小さな料理番~』も好評発売中です。

こちらも是非よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 暖炉に薪くべるならついでに温石準備しようぜ温石 晴れてて風が弱いならソーラークッカーを推すところなんだが・・・
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