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第123話 野菜と茸たっぷりのビッグハンマーの味噌鍋

のろし鍋をイメージしております。


小説好評発売中です。

こちらのルーシェルもよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 早速僕たちは鍋を突き始める。


 雪の家。オレンジ色に染まった室内。

 香り立つ味噌の香りと、薪が爆ぜる音。

 極めつけは、グツグツと煮えた味噌鍋だ。

 僕は今、なかなかの贅沢を味わっている。


「う~~~~~~~~~~ん! うまい!!」


 ユランは唸った。

 箸には囓った痕がついたビッグハンマーの肉だ。

 早速、お肉に手を伸ばしたらしい。


「歯応えは柔らかく、噛めば噛むほど肉の旨みが溢れてくるぞ。味噌の甘みと相性も最高だ。スープと肉汁が混じり合って、口の中で溢れ返ってるぅ。よもやビッグハンマーの肉がこんなにおいしいとは」


「気に入った、ユラン?」


「うむ。……だが、まあ、ドラゴン肉と比べるとまだまだだな」


 ビッグハンマーのお肉でも許してくれないらしい。

 結構自信があったんだけどなあ。

 というか、そもそもユランってドラゴン肉を食べたことないじゃないか。


「はふっ! はふっ!!


 リーリスも頬を膨らましながら、鍋を楽しんでいた。


 どうやら馬鈴薯を食べたようだ。

 実は鍋に入れた馬鈴薯は普通の馬鈴薯じゃない。

 僕が【改良】のスキルで作ったスマッシュポテトという品種だ。

 小さいながら、糖度は高く温めて食べると、何もつけなくても甘く感じる。

 この味噌鍋とも相性がいいはずだ。


「どう? リーリス? 僕が作ったスマッシュポテトは」


「おいしいです! まるでマロンケーキを食べてるみたいに甘くて、舌ざわりも滑らかで。味噌の塩みとちょうど合ってるのがいいですね。こんな馬鈴薯を、しばらく毎日食べられるなんて」


 馬鈴薯は保存が利く食材だけど、スマッシュポテトも同じだ。

 前者が3~4ヶ月と言われているけど、スマッシュポテトは約半年は持つ。


 育て方も簡単で、あまり水をやらなくてもおいしく育つのが特徴だ。

 唯一難点を挙げるなら、直射日光が苦手なことだろう。これはスマッシュポテトが馬鈴薯に魔草を掛け合わせた品種だからである。


 魔草は総じて、陽の光が苦手で、スマッシュポテトもその性質を受け継いでいる。


「僕はどれを食べようかな」


 山菜はシャキシャキしてておいしそうだし、味噌のスープに使った大根も魅力的だ。

 茸もおいしそうだね。ぬめりを帯びた傘が、キラキラと光って、僕を誘惑してくる。思わず食指が伸びそうになったけど、僕の箸は鍋の底を探る。


 すると、ずしりと重たい感触に加えて、突くと柔らかな感触を返ってくる。

 頃合いを感じて、僕は思いきって、その具材を取り上げた。


「おお!」


「それって!」


 味噌のスープから飛び出てきたのは、白い何かだ。

 びょ~~ん、と伸びるのだけど、全然切れなかった。


「ルーシェル、これって」


「これは餅だよ」


「餅じゃと?」


「銀米とはちょっと違う品種のお米を作った、練り物だよ。普通の銀米とは違って、粘り気が強くて、とってもよく伸びるんだ。こんな感じでね」


 僕は上下させるけど、鍋の底から伸びた餅は一向に切れそうにない。


「まるで、スライムだな」


「確かに似てるかも。でも、スライムよりも遥かに弾力があるよ」


 餅を巻き取りながら、僕は取り皿に置く。

 湯気を掃き、味噌スープをよく吸った餅を一口食べる。


 さすがに一口で食べられず、噛み切ろうとするけど、やはり難しい。

 箸と歯を使って、何とか切る。

 咀嚼すると軟らかく、銀米に似た旨みを感じた。


 味噌ベースのスープがよく染みこんでいて、おじやを食べてるみたいだった。

 餅はとにかく食感だ。食べても食べても咬みきれない。

 軟らかくて、とろけるような食感が癖になりそうだった。


「ルーシェルばかりズルいぞ! 我も食べたい」

「あの……わたくしも………」


 ユランが抗議すれば、リーリスも怖ず怖ずと手を伸ばす。

 僕は笑った。


「僕に許可をもらわなくても、2人の分も入ってるから」


『おお!』


 リーリスとユランが同時に目を輝かせた。


 早速、お箸を鍋の中にいれて、お餅の捜索を始める。

 2人とも真剣だ。よっぽど僕が食べたお餅がおいしそうだったのだろう。


 同時に件の犯人を箸で捕まえると、持ち上げる

 にゅっと伸びたお餅を見て、2人の顔はさらに輝いた。


『いただきます』


 大きな口を開けて、食べる。

 一応、子どもの口でも食べられるように、あらかじめ小さく切っておいた。

 ユランはともかくとして、リーリスの喉につっかえないようにするためだ。


「う~~~~~~~~~~ん!」


「おいしいいいいいいいいい!」


 2人は絶叫する。


「この絹のような軟らかさ。これは癖になる」


「お味噌を吸っていて、甘くて意外と食べやすいですね」


「お餅は焼いて食べてもおいしいよ」


 僕はあらかじめ竈の火にかざしておいた餅を、2人の前に差し出す。

 少し焦げ目が入った餅は、みるみる膨らんでいく。


「こ、こやつ、生きておるのか?」


「おもしろいです!」


「中に閉じ込められた空気が、熱で膨張して膨らんでいるだけだよ」


「空気?」


「熱で膨張?」


 僕の説明に、2人の瞳は点になる。


 さすがにわかりにくいか。

 ユランはともかく、リーリスもまだ子どもだもんね。

 熱膨張なんて言っても、今はわからないかな。


「また今度、教えるよ」


 焼いたお餅を今度は、お鍋の中に入れる

 そのまま食べてもおいしいけど、一旦お鍋に入れて食べるのもなかなか乙だ。


 頃合いを見て、僕は引き上げる。

 2人の取り皿に、味噌スープを纏ったお餅を置いた。


「食べてみてよ」


 僕が促すと、2人は早速口を付ける。


「おおおおおおおお!」


「はうぅぅうううう!」



 おいしい!!



 2人は声を揃えた。


「先ほどの軟らかい餅も良かったが、こっちもうまい」


「周りがカリカリで、中が軟らかくて」


「焦げ目が香ばしく、良い風味が口の中に広がっていくぞ」


「味噌スープとダブルで香ばしくて、最高ですぅ」


 2人はホフホフと熱々のお餅を食べながら、絶賛する。

 良かった。気に入ってくれたようだ。

 お鍋といえば、お肉とか野菜とかが主役だけど、お餅もいいんだよね。


「身体がポカポカしてくるな。脱ぎたい!」


「だ、ダメですよ、ユラン! はしたないですぅ」


 僕の前で脱ごうとするユランを、リーリスが止める。

 目のやり場に困って、僕は背を向けた。


 お腹が膨らみ、満足感が満ちていく。

 最後まで夢中になって食べていたユランは、膨らんだお腹を見せつけながら、ごろりとカムクラの中で寝転ぶ。


 ちなみにほとんど溶けているけど、カムクラの下は雪だ。

 でも、今は火照った身体にはちょうどいいらしい。


「そんなところで寝て。後でカンナさんに怒られても知らないよ」


「良いではないか。我が満足すれば、それでいい」


 なんという自己中心的な発言。さすがドラゴンだな。


「今日は最高だ。こんなに雪で遊べるとは……」


「ルーシェルが作ってくれたお鍋もおいしかったですしね」


「ありがとう、リーリス」


「我は雪合戦サバイバルが面白かったぞ。またやりたい」


 ユランは半ばうとうとしながら、今日の雪合戦サバイバルのことを思い出す。


「今度は、雪玉の数を間違えないでね、ユラン」


「惜しかったですねぇ。あと、もうちょっとだったのに」


 結局、僕はガーナーさんにぶつけて、リタイヤさせることができたけど、先にリーリスが脱落し、そのまま強引に突破したフレッティさんにフラッグを取られ、僕たちは敗北した。


「それにしても、フレッティさんすっごく喜んでたね」


「ああ。そうだな」


「でも、あれは――――」



『ちょっと大人げない!』



 と僕たちは声を揃える。

 偶然意見が一致し、僕たちは笑った。

 笑声がカムクラにこだまする。


 外を見ると、また真綿のような雪が降り始めた。


「まだ積もるのか?」


「そうみたいだね。……ルーシェル、どうしました?」


「うん。領民の人は大丈夫なのかなって思ってね」


 僕はカムクラを出て、空を見上げる。

 いつの間にか空は、どんよりとした雪雲に覆われていた。




 そして次の日、僕の心配は現実になる。


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挿絵(By みてみん)

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