第119話 雪合戦サバイバル
☆★☆★ コミカライズ開始 ☆★☆★
本日よりヤンマガWEBにて『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』のコミカライズが開始されました。
構成は『ムスメ三国志』シリーズの中村ゆきひろ先生。
作画は斎藤縹先生になります。
ヤンマガWEB第1話が無料で読めます。
お気に入り登録いただけると、とても嬉しいです。
よろしくお願いします。
(後書き下にリンク作ってます)
「ちょっと待ったぁぁぁぁああああ!!」
落雷のような大音声に、思わず身が竦んだ。
腹から声が出ているのがわかる。何より威厳たっぷりだ。
僕はすぐに声の主に気付いた。
「フレッティさん?」
振り返ると、僕は息を飲んだ。
僕の推測は当たっていたには当たっていたのだけど、そこに立っていたフレッティさんだけじゃない。
鎧を着たレティヴィア騎士団の騎士たちが、腕を組んで仁王立ちしていた。
なかなか壮観な眺めだ。みんな口端を吊り上げ、笑っている。
ちょっと不気味な雰囲気だった。
「えっと……。みなさん揃って、どうしたんですか?」
僕は苦笑しながら、レティヴィア騎士団に尋ねた。
よくぞ訊いてくれましたとばかりに、団長フレッティさんは背筋を伸ばす。
「雪合戦と聞いてね。是非レティヴィア騎士団も混ぜてもらおう」
「騎士団の方も雪合戦をやるんですか?」
「ただ我々がやるのは、単なる雪合戦ではない。雪合戦〝サバイバル〟だ!!」
「ゆ、雪合戦〝サバイバル〟!!」
フレッティさんのドヤ顔を見て、わざとらしく驚いてみたけど、雪合戦〝サバイバル〟ってなんだろ?
なんだと思う、【知恵者】さん。
雪合戦サバイバル【分類;?】
雪合戦に何らかの要素が加えられたもの。ローカルルールの雪遊びと推察される。
それぐらいはなんとなくわかるよ。
【知恵者】さんがわからないぐらい、マイナーな遊びと考えていいのかな。
それにしても【知恵者】さん、真面目過ぎる。
まさかこんなことまで答えてくれるなんて。
さて、ちょっと勿体つけた形で、フレッティさんの説明が始まる。
「雪合戦といえば雪合戦なんだが、どっちかというと競技に近い。ただ雑然と雪玉を投げ合うのではなく、ルールがあるからね」
「別に我は雪玉を投げれば、それでいいのだが……」
ユランは早速不平を漏らす。
基本的にドラゴンのユランは、人間が作ったルールを守りたくない方だ。
「ルールの範囲で遊べば、それはそれで面白いと思うぞ。特にユランには打って付けだ。雪合戦サバイバルは、より実戦的な競技だからね」
「ほう。実戦的と来たか」
ユランの目の色が変わる。
試練のドラゴンでもあるユランにとって、戦いは好物の1つだ。
でも、フレッティさんが自信満々な様子で誘ってくるところをみると、よほど面白いのだろう。
僕としても気になるところだけど……。
「リーリスはどうする?」
「えっと……。わたくしが参加してもいいものなのでしょうか?」
「構いませんよ。危ないことはありません。まあ、雪合戦なので雪玉に当たることは覚悟をしてもらわねばなりませんが」
「じゃあ、よろしくお願いします」
「ルーシェルくんも参加するかい?」
「ええ! 早速、ルールを教えてくれませんか?」
「うむ……。その前にだ」
「?」
僕が首を傾げると、さっきまで胸を張っていた騎士団のみなさんがは、途端身体を丸めてしまった。
カチカチと歯を鳴らすと、寒そうに鎧の上から二の腕を擦る。
「鎧が冷たくて、脱げないんだ。誰かお湯を持ってきてくれないか?」
あわわわわわ……。
と、凍傷になっちゃうよ。
僕は慌てて魔法でお湯をぶっかける。
さらに先ほど作ったカットマト入りの赤茄子煮込みを、騎士団全員に味わってもらった。
2時間後……。
僕たちは屋敷近くの森に集められた。
森と言っても、魔獣がいるような森ではなく、人が整備して作った森だ。
野生動物はちらほらいるけど、熊や猪、野犬など危険な動物はいない。
あくまで屋敷の人の保養のための森だ。
今、そこも真っ新な雪で埋もれていた。
低いところでも、僕の足首がすっぽり埋まるぐらいの雪が積もっている。
よく見ると、狐の足跡が続いていた。
「雪合戦サバイバルの競技場は、この森の中だ。森から出てしまった時点で、失格となります」
「雪合戦なのだから、敵に当てればいいのだろう?」
気合い満々のユランが説明を遮る。
その言葉を聞いて、フレッティさんは首を振った。
「いや、ユラン。それは違うんだ。この雪合戦サバイバルの1つの特徴は、相手を全滅させることじゃない」
フレッティさんは2つの旗を掲げると、1つ地面に指した。
「2つにチームと陣地に分かれて、この旗を取り合う。これが雪合戦サバイバルの特徴だ」
なるほど。
フラッグ戦というわけか。
トリスタン家にいた時、よく騎士団が模擬戦と称してやっていたっけ。
「えっと……。じゃあ、敵に雪玉を当てた場合、どうなるんですか?」
「雪玉を当たった場合、失格。森の外へと速やかに出てもらう。ただし雪玉を持てるのは、1人5つまでだ」
「なくなったらどうするんですか?」
「一旦自陣の最後方に戻り、雪玉を補充しなければならない」
「ぬぅ……。めんどくさいのぉ。そうだ。雪玉以外で敵を攻撃すればいいのか」
ユランは眉間に皺を寄せた。
「雪玉以外に、相手を失格にする方法はないよ、ユラン。ただし、このサバイバルには魔法を使うことが許されている」
「え? いいんですか?」
「もちろん、危険な使い方をしたり、敵チームを操るような魔法はダメだよ。それにあくまで雪玉を当てないと失格にできないからね。あと、魔法が使えるのは、自分の陣地のみ。敵陣地では使えないから注意して」
うわっ! 敵陣営では魔法は使えないのか。
いくら魔法が使えるといっても、それはキツいなあ。
最悪、魔法を使えないままフラッグを取ることになる。
あと攻撃魔法や操作系の魔法は使えない。
危害を加えないという意味では、幻惑系や拘束系の魔法は使えるということだけど、敵も使えるわけだから油断ならないぞ。
「あと、魔眼系の魔法は禁止させてくれ。ルーシェルくんの【竜眼】で探知されたら、こちらのやりたいことすべてが判明してしまうからね」
「あははは……。確かに」
【竜眼】はさすがにチート過ぎるからね。
「あの~。陣地というのは……」
リーリスが質問する。
フレッティさんは大きく頷いた。
「雪合戦において、重要なのは互いの陣地を知るということです」
「というと?」
「陣地というのは、いわば自分たちの勢力圏。雪合戦サバイバルにおいては、一番前にいる自陣プレイヤーから自分のフラッグがあるところまでが陣地となります」
この雪合戦サバイバルにおいて、重要な要素はまさしく魔法を使える陣地の活用だろう。
一番前にいるプレイヤーから自分のフラッグということは、あるプレイヤーがフラグ近くまで突出すれば、ほぼ全域で魔法を使うことができる。
如何に陣地を広げるかが鍵となるといってもいい。
「何度も言うけど、魔法が使えるのは自分の陣地までだからね。……ルールはこんなところだが、質問はあるかい?」
思った以上わかりやすいルールだ。
何より面白そう。
やる前からワクワクしてきた。
「よし。何もなければ、二手に分かれよう。あ。そうだ。リーダーを決めなければ。……ふむ。私とルーシェル君ということでどうかな?」
「僕ですか? でも、この雪合戦サバイバル、初めてなので」
「大丈夫。君には私のブレインをつけよう」
「ぶ、ブレイン……!?」
突如、一陣の風が吹く。
粉雪が舞う中、現れたのは狐の耳と尻尾を揺らしたメイドだった。さらにその後ろには黒髪のメイドが歩いてくる。眼鏡を光らせ、何か物々しい雰囲気を醸し出してきた。
「ミルディさんに、リチルさん?」
「ふふふ……。いいんですか、団長。あたしたちをルーシェルくんにつけちゃって」
「たとえ団長が相手とはいえ、わたし手加減できませんよ」
2人の様子はいつもと違う。
まるで勇者を倒すために派遣されてきた悪役のような空気を纏っている。
常に笑みを浮かべ、リチルさんに至っては何度も眼鏡を光らせていた。
「ああ。構わんぞ。はっはっはっはっ」
変貌した2人に対して、フレッティさんはにこやかに応じるのだけど、目が全然笑っていない。
「ふふふふ」
「ぬふふふ」
「はっはっはっはっ」
3人は笑い続ける。
あの……これから一体何が始まるの?








