第114話 繭とドラゴン
☆★☆★ いよいよ明日発売 ☆★☆★
ついに明日となりました!
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書籍の方も、すでに店頭にでているところもあるみたいなので、
会社帰り、学校帰りに覗いてみてはいかがでしょうか?
WEB版をすべてリライトし、新キャラや絶品料理を追加しております。
TAPI岡先生のイラストも素晴らしいので、是非見てくださいね。
ご購入よろしくお願いします。
しばらく窓から外の景色を眺めていると、再び部屋の外が騒がしい。
誰かが走ってくるのがわかった。
半開きの扉をはね除けるように開き、カンナさんが現れる。
「なんだ。朝から騒々しいなあ。ルーシェルくんの部屋だよ。もうちょっとお上品にはいってこられないの、カンナ」
それ……ミルディさんが言うことじゃないよね。
横のリチルさんも同じことを思ったらしい。
ただ怒る気にもなれず、やれやれと首を振っている。
「どうしたの、カンナさん」
「朝から失礼します、ルーシェル坊ちゃま」
ペコリと頭を上げる。
今日のカンナさんは真面目なメイドモードみたいだ。最近、どこか締まりのない顔で僕の前に出てくることが多かったから、随分と久しぶりな気がする。
どっちのカンナさんも好きだけど、こっちの真面目モードの方が僕としては話がしやすい。
「至急、ユラン様の部屋に来てもらえないでしょうか?」
「ユランの部屋? ユランがどうしたの?」
そう言えば、正式にユランのお世話係&教育係はカンナさんということになったんだっけ?
ドラゴンと吸血鬼族。
長く生きるもの同士、話が通じるところもあるようで、割とユランも信頼してるらしい。
どっちも長生きだけど、カンナさんの方が昔から人間社会で生活してるから、ユランも学ぶことが多いのだろう。
「ご説明するよりも、見ていただく方がよろしいかと」
「ん? わかったよ。すぐ行く」
「お願いします」
カンナさんは頭を下げると、またどこかへ行ってしまった。
ユランの部屋に辿り着く前に、カンナさんが僕を呼びに来た訳がわかった。
ユランの部屋は僕の部屋の1つ上の階にあるのだけど、その部屋の前には何か繭のようなものが張り巡らされていたのである。
その繭の前ではすでに家族が集まり、武装したフレッティさんやガーナーさんが、繭を取り囲んでいた。
僕がやってくると、一斉にこちらを向く。
「おはようございます、フレッティさん、ガーナーさん。それにリーリスも」
「おはようございます、ルーシェル。その……」
リーリスはちょっと心配そうに繭の方に振り返った。
フレッティさんたちも同様だ。
「ルーシェル、これはどういうことか説明できるかい?」
先に現場に到着していたカリム兄さんが尋ねた。
側にいるクラヴィス父様やソフィーニ母様も心配そうだ。
「お騒がせしてすみません。皆さん、察しがついていると思いますが、これはユランの仕業です」
「ユランが誰かに何かされているというわけではないのだな」
「ええ……。ドラゴン――ホワイトドラゴン特有の現象というか」
「現象? しかし、繭のようなものは一体……」
クラヴィス父様は手で触れてみる。
「できれば、迂闊に触らないであげてください。それは繭ではなく、ユランの髪――つまり体毛なので」
「体毛!! これが?」
クラヴィス父様はことさら驚いた様子だった。
ただ魔獣学者としての血が騒ぐのだろう。
顔を近づけ、観察を続ける。
「あ。わかった。あたしみたいにユランも冬になると、毛が生え替わるとか? これはその前兆なんじゃない?」
「そんなわけないでしょ」
ミルディさんが何だかちょっと嬉しそうに指摘すると、すぐにリチルさんにたしなめられてしまった。
「いえ。その指摘は間違っていませんよ。これもまたユランの冬の姿といってもいいので」
「ルーシェル。つまり、中で何が起こってるのですか? ユランは無事なのですか?」
リーリスが心配そうに尋ねる。
「無事だよ。ただ本人は困ってるだろうけどね」
「「「困ってる?」」」
僕はそっと髪に触ると、大きな声を上げて話しかけた。
「ユラン、起きてる?」
『…………』
「みんながびっくりしてるんだ。1度この髪を引っ込めてくれないかな」
2度話しかけたけど、返答はない。
でも、微妙に繭状の髪は揺れていた。
「まだ眠っているのでしょうか?」
「いや、多分起きてるよ。……ユラン、返事だけでもしてくれないかな。君の悩みを僕は解決できるから」
『…………い』
その時、何か微かに聞こえた。
僕だけじゃなくて、フレッティさんたちも聞いたようだから間違いない。
「ユラン、今なんて」
『……さむい』
「「「「さむい???」」」
みんなの頭に疑問符が浮かぶ。
「ユランってドラゴンよね」
「寒さに強いのではないですか?」
「私と戦った時、吹雪を吐いていたぞ」
「では、この繭のようなものって……」
皆が一斉に首を傾げる。
最後のリチルさんの質問に僕は答えた。
「基本的にドラゴンは、雪山に住むフロストドラゴン以外では、寒さに弱いんですよ。冬季になると、温暖な地域を探したり、火山の近くに移動したりするんです」
ただホワイトドラゴンのユランは、どっちかというと寒さに強い。
けれど、今日の寒さはホワイトドラゴンといえど、堪えたのだろう。
「それは聞いたことがあるが、この繭は……」
クラヴィス父様は質問を重ねる。
「怪我をして動けなかったり、老齢で空を飛ぶことができなくなったドラゴンは、こうして自分の体毛を伸ばして、寒さを堪え凌ぐみたいです」
とはいえ、僕もこうやって繭を張ってるドラゴンを見るのは、3回目だ。
うち、2回はユランだけどね。
「カンナさん、何か防寒着みたいなのを用意してくれませんか」
「かしこまりました」
カンナさんは走って行く。
「ユラン、今服を用意するから一旦体毛を縮めてくれないかな? 無理なら、僕が切るけど」
『ダメだ! カンナが言ってた。「髪は女の命だ」と』
うんうん……。
ユランが女の子らしいことを言ってくれて、僕はちょっと嬉しいよ。
ドラゴンらしさからはかけ離れてきているけど。
すると、徐々に広がっていたユランの体毛が縮んでいく。ゆっくりと巻き取られるように、部屋の中へと戻っていった。
ようやく中に入ることができると、僕はユランと再会する。
本人は二の腕を何度もさすりながら、カタカタと歯を鳴らしていた。
寒い寒い、と呟いているけど、そりゃそうだ。本人は薄着1枚だったのだから。
「おはよ、ユラン」
「挨拶などよい。ルーシェル、早くこの寒さをどうにかしろ」
「わかったよ。その前に、服を着よう。重ね着をすれば、寒さも和らぐよ」
ちょうどその時、カンナさんが部屋に入ってくる。
厚手のセーターなどを着せると、最後にマフラーを巻いた。
ちょっと重ね過ぎかなと思うぐらい、ユランはまん丸になっていたけど、本人は喜んでいた。
「おお! あったかい! あったかいぞ、ルーシェル」
「気に入ってくれたようでよかった。カンナさんにお礼を言うんだよ」
「ありがとう、カンナ! しかし、大発見だ。人間はなんでこんな防御力が低そうな服なんぞを常時身に纏っているか不思議だったが、寒さを和らげるためだったのだな」
「え……?」
今まで服をなんで着ていたのか知らなかったのか。
ユランらしいといえば、ユランらしいけど。
「しかし、今日は冷えるのぉ。ユランでなくても、私だって繭の中に籠もりたいぐらいだ」
クラヴィス父様は二の腕をさする。
「一気に寒くなりましたからね。こう雪が降っては……」
「うむ。こういう時は温かいものを食べるに限るな」
「それならとっておきの魔獣食がありますよ」
その時、僕の頭にある料理が浮かんでいた。








