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外伝 9月2日小説発売記念「相棒の誕生日」(後編)

☆★☆★ 9月2日小説発売 ☆★☆★


後編です。

読んでいただき、新キャラのアルマを気に入っていただければ、

是非小説の方もご購入いただけますようお願いします。


挿絵(By みてみん)

 皿にのっていたのは、狐色に揚がったハンバーグだった。たっぷりとかかったパン粉の衣は、食べずともさっくりとした食感を想起させ、香ばしい香りを広げている。


 香りといえば、かかっているソースから立ち上る爽やかな香りも悪くない。

 ややケバケバしい色の薬草のペーストは、椰子の実ミルクが加わったことによって、落ち着いた色になり、先ほどの揚げたハンバーグに1枚の布を着せるようにかかっていた。


 見た目は美しく、何より食欲をそそる。


 そんな皿を前にしたアルマは、辛抱たまらないとばかりに唾を呑んだ。


「ルーシェル、この料理はなんだ?」


 本日誕生日を迎えたアルマは目を輝かせる。

 僕は1度咳払いをした後、少し勿体付けながら答えた。


「これはね――――」



 ハンバーグカツのグリーンカレー風だよ。



「おおおおお! ハンバーグカツ!! しかも、カレー…………。あれ、ステーキは?? ピザは????」


「それはまず食べてからのお楽しみだね」


「へぇ……。まあ、おいしそうだから別にいいけどな。いただきま~す」


 アルマは口を近づけ、出来上がったハンバーグカツを囓った。


 …………。


 …………う。


「うま~~~~~~い!!」


 アルマは飛び上がって絶賛する。


「囓った時のサクッという音がたまらないよ。何度も聞きたくなる。その後で、衣の中のハンバーグの肉汁がじゅわわわって溢れてくるんだ。口の中が肉の旨みで洪水を起こして大変なことになってる」


「気に入ってくれてよかった。ちなみに衣にはパン粉の他にも、粉チーズを入れてるよ。チーズを入れておくと、とても食感がよくなるんだ」


「だから、ピザ?」


 アルマは食べながら僕の方に振り返った。

 頬を膨らまして、咀嚼してる姿がまたキュートだ。


「まあまあ。慌てずに食べてみてよ」


「ふーん。でも、このハンバーグいつもと違うね~。食感がコリコリしてるというか。お肉のもぎゅっとした感触も残ってるというか」


「うん。挽き肉じゃなくて、お肉を細かく賽の目に切って、繋げているんだよ。だから、食感がダイレクトで面白いだろ」


「つまりはサイコロステーキがいっぱい入ってるみたいなものか。こういうのもありだな。さすが、ルーシェル」


 すっかり機嫌を取り戻したらしい。

 料理を作る前はあんだけむくれていたのに。


 アルマはさらにハンバーグカツを囓る。

 すると、中心から何やら黄色ものが垂れてきた。


「おおおおおおお! チーズが入ってる!」


「そうだよ。これはチーズインハンバーグカツなんだよ」


「すっっっげぇえ! ……でも、チーズだけでピザ要素ってのもなあ」


「あははは……。でもハンバーグの繋ぎの時に、食パンも混ぜてるから許してよ」


 そもそもステーキに、とんかつ、ハンバーグ、ピザ、香辛汁(カレー)を一緒くたに食べたいっていう要望の方が大変なんだから。


「う~~ん。トロトロのチーズ最高! 適度に酸味があって、ハンバーグから出る肉汁との相性も最高すぎる! チーズと肉汁が合わさって、舌が幸せ~~!」


 アルマは今にも天に召されそうな顔をしてる。

 実際、ちょっと浮いてた。

 あれ? クアールって、スキルなしで浮けたっけ?

 僕の気のせいだろうか?


 満足そうな顔をしながら、アルマの食レポは続く。牙を肉汁で光らせながら、最後に注目したのは、チーズイン粗挽きハンバーグカツにかかったカレーだった。


「でも、このカレーが一番いいなあ」


「気に入った?」


 アルマは食べながら大きく頷く。


「ハンバーグに、ステーキ、カツ、チーズ……。こんだけ重たい料理が食べてるのに、グリーンソースの爽やかな味が全部洗い流してくれるからいいんだよなあ。椰子の実ミルクのまろやかさが加わって、粗挽き肉の尖った感じも抑えられてるし」


「お気に召してくれて良かったよ。これでさっきの件は許してくれる」


 モギュモギュと幸せそうに食べていたアルマだったけど、突然食べるのをやめた。

 まだ半切れ残っていたけど、僕から顔を背ける。


「どうしようかなあ~」


「ええ~~。いいじゃないか。結構、作るのに苦労したんだよ」


「じゃ~あ……」


 アルマが薄く笑みを浮かべながら、振り返ろうとした時だった。


 僕たちは根城にしている樟の下で、食事をとっていたのだけど、そこに突然何かが飛来してくる。


 普通は樟の下では魔獣が入ってこないのだけど、どうやら匂いに気づいて迷い込んだみたいだ。


 魔獣は僕とアルマの間を一瞬にして通り抜けていく。

 その速度は凄まじいものだった。

 おそらく魔獣食によって鍛えられた僕とアルマの視力でなければ、見逃していただろう。


「今のはまさか――――」


「あっ!」


 僕は目で飛んでいったものを追いかける一方で、アルマは突如大声を上げる。


 すぐに理由がわかった。

 アルマが残していたチーズイン粗挽きハンバーグカツカレーの半きれが、忽然となくなっていたからだ。


 犯人は考えなくともわかる。


「今のはマッハバードだね」


 魔獣界でも1、2を争うほど速く飛ぶことができる鳥だ。その飛行速度は音の速度と一緒と言われている。


「マッハバードに追いつくのは至難の業だよ。今からおかわり――――」


「いやだ!」


「へっ?」


 すると、アルマはスキルを使う。


【浮揚】


【速度上昇】


【技術効果上昇】


【対圧耐性上昇】


【体幹上昇】


【重心制御上昇】


【連続技術使用】


【連続技術使用倍加】


【速度上昇】


【速度上昇】


【速度上昇】


【速度上昇】


【速度上昇】


【速度上昇】


【速度上昇】……。



「ちょ! アルマ!!」


「ついでに――――」



【蹴りの達人】


【筋力上昇】


【体術効果上昇】



 力が集まっていくのを感じる。

 これだけスキルを1度に使うと、スキルとスキルが反発し合うものなのだけど、アルマはものともしていない。


 いつも柔らかくモフモフの毛を青白い炎みたいに逆立たせると、お腹を付けて伏せる。


 次の瞬間、大砲のように空へと飛んでいった。


 強烈な衝撃が空を覆った樟の枝葉を揺らす。


 僕の目は飛んでいくアルマの放物線を見送る。最高速で飛んでいるマッハバードにドンドン近づいていった。







 アルマは迫ってくる空気の層を掻くように進む。

 鼻が曲がりそうだったが、アルマはひたすら堪えた。


 薄紫の瞳が見据えるのは、相棒のルーシェルが作ってくれたチーズイン粗挽きハンバーグカツカレーだった。


 アルマの気配に気づいて、マッハバードはさらに速度を上げる。

 かなりのスキルを使って、極限にまで速度を上げたアルマだったが、徐々に離され始めていた。


「返せよ!!」


 アルマは空で叫ぶ。

 前肢をグッと伸ばしながら、アルマは猛る。


「返せよ! それはルーシェルが、ボクの誕生日に作ってくれた料理なんだぞ!!!!」


 わぁん、と広がった声は一瞬音を置き去りにしたような気がした。

 びっくりしたマッハバードは、チーズイン粗挽きハンバーグカツカレーの半切れを取り落とす。


 アルマは慌てて方向転換し、地面へと落下していく半切れに向かって、前肢を伸ばした。






 しばらくしてアルマは僕の下へと帰ってきた。


「お帰り――――って、アルマ……。ボロボロじゃないか」


 アルマには土や木の枝、葉っぱなんかが貼り付いたままだ。

 ただその口には、奪われたチーズイン粗挽きハンバーグカツカレーの半切れが咥えられている。

 まるで勲章を見せびらかすようにアルマは、僕に見せつけた後、半切れをモグモグと食べてみせた。


 やがてゴクリと飲み込む。


「別に。これぐらいどうってことないって」


 アルマはまたぷいっとまた顔を背ける。


 本当に素直じゃないんだから僕の相棒は。


「僕が作ってあげた半切れのために、追いかけてくれたんじゃないのかい?」


「別にルーシェルのためじゃ……」


 すると、アルマはハッと何かに気づく。

 相棒が向き直るのを見て、僕は和やかに笑う。そして自分の耳を叩いた。


 アルマは銀毛がみるみる赤くなっていく。


「バッチリ聞こえたよ。ありがとうね、アルマ」


「ちちちち、違うぞ! 別にルーシェルのためなんかじゃないぞおおおおおお!!」


 アルマは走り去って行く。

 樟の小さな洞に入り、身体を丸めた。


「別に僕は気にしてないのに……」


 クスリと笑う。


 アルマは魔獣クアールの幼体だ。


 皮肉屋で、モフモフで、そしてシャイな僕の相棒だ。


いかがだったでしょうか?

9月2日まで、あと今日を含めて5日となりました。

アルマを含めて、様々な部分でWeb版よりパワーUPしております。

是非お買い上げいただければ幸いです(後書き下にリンクがございます)


ISBN978-4-06-529046-0


挿絵(By みてみん)

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