外伝 9月2日小説発売記念「相棒の誕生日」(前編)
本日は9月2日発売
『公爵家の料理番様~300年生きた小さな料理人~』の新キャラ「アルマ」のお話になります。
トロルに襲われていたところを、ルーシェルが助けたクアールの幼体。
ルーシェルと同じく不老不死になり、唯一時を同じくする相棒として成長する。
純粋なルーシェルとは違って、ちょっと皮肉屋でおませさん。
でも、やる時はやってくれる頼りになる相棒。
モフモフの毛と、ちょっと飛び出たお髭がチャームポイントです!
アルマは僕の相棒だ。
クアールの幼体で、人ではないどころか、人間にとって害悪である魔獣の子どもでもあるけど、僕はアルマと100年近く過ごしてきた。
見た目は魔獣だけど、最強の邪竜種ドラゴングランドのお肉を食べたことによって不老不死となり、おかげで僕と同じくずっと子どもの姿をしている。
成体となった時のアルマの姿も雄々しくて頼もしかったけど、僕は子どもの姿のアルマが好きだ。
だって、思う存分ギュッと抱きしめることができるし、成体の時と違って毛がモフモフで柔らかい。
抱き心地が最高なのだ。
「もう! ルーシェル! いきなり抱きついてくるなよ。暑苦しい!」
スポン、と僕の胸から逃げていく。
「ああ……。僕のモフモフが……」
「ボクのモフモフが――じゃないよ。そういうのをセクハラって言うんだよ。【知恵者】さんが教えてくれた。君だってボクがいきなり抱きついてこられたら困るだろ」
「うーん……。別に……」
「そこは否定してよ、ご主人様」
「でへへへ……」
「でへへへ――じゃないって! むしろ困ってよ。まったくもう!」
アルマは人みたいに前肢を組むと、プンプンと怒りを露わにする。
怒ってても僕の相棒はひたすら可愛いかった。
そんな僕の心中を知ってか知らずか、アルマは僕から顔を背けると、身体を丸めてしまった。
やれやれ……。すっかりふて腐れてしまったらしい。
昔はもっと愛らしかったんだけどなあ。
いや、そうでもないか。
トロルから助けてあげた時なんて、腰に収めたポシェットの中で暴れてたっけ。
最初はお互いに言葉がわからず、意思疎通も難しかったし。
(でも、それはそれで可愛かったんだよなあ)
ちょっとした仕草で何をしてほしいのか推理したりして、それだけで1日1日が楽しかったのを覚えている。
お互いに言葉を覚えてからはそういうやりとりもなくなってしまった。
さらに身に着けたスキルのおかげで、余計な知恵までついちゃって、若干皮肉屋に育ってしまった。
そんなところも可愛いんだけどね。
完全にお怒りなのかと思っていたけど、さっきからアルマはチラチラと僕の方を見てくる。随分とソワソワしていた。
これは僕に何か気付いてほしい時の仕草だ。言葉を覚えてからも、こういう所は小さい時となんら変わらない。
今でも小さいんだけどね。
「アルマ、ごめんって。機嫌を直してよ」
「ふ、ふんだ」
アルマは毛玉みたいなまん丸の尻尾を振る。
「それに今日は、アルマの誕生日だろ。アルマが食べたいものを何でも作ってあげるよ。だから気を取り直して」
「な、何でも……!?」
アルマは僕の方に振り返って、目を星のように輝かせた。
現金だな。ある意味、獣らしい素直な反応といえるけど。
そうなのだ。今日はアルマの誕生日なのだ。
といっても、正確には違う。
僕とアルマが初めて会ってから、アルマの成長を逆算してからの日付を誕生日としている。
でも、さほど離れてはいないはずだ。
山に来て、100年。
アルマと出会って、90年近く。
過酷な山の中で、僕たちは欠かさずお互いの誕生日を祝ってきた。
まあ、お互いあまり物欲はないし、山で手に入るものなんて限られている。
だいたい料理でお祝いというのが定番だった。
「じゃあ、ドラゴングラ――――」
「それはダメだって言ったでしょ。僕たち、あれを食べたおかげでひどい目にあってるんだから。もしかして忘れたわけじゃないよね」
「そうだけどさ……。ドラゴンのステーキ食べたいじゃん」
相変わらずドラゴンステーキが好きだなあ。まあ、おいしかったことは事実だから、気持ちはわかるけど。
「他にないの?」
「うーん。じゃあ、ステーキだろ」
「ステーキは絶対なんだ」
「あと、トンカツも食べたい。あとハンバーグだな。ああ。出来ればピザってヤツもいいし、香辛汁もかかってるヤツがいいな。あと、あと……」
「全部作れって?」
「違うぞ、ルーシェル。ボクは好物を全部一緒に食べたいんだ」
「え゛!?」
今言ったヤツを全部食べるの?
えっと? なんだっけ?
ステーキに、トンカツ、あとハンバーグに、ピザ? さらに香辛汁がかかってるって?
それどんな料理なんだよ!
でも、相棒が食べたいって言ってるんだ。
できれば叶えてあげたい。
それに作ってあげれば、臍を曲げた相棒もきっと僕を許してくれるだろう。
「わかった。頑張ってみるよ!」
僕は早速調理を始めた。
まず厚めのステーキ肉を小さく賽の目に切る。ハンバーグを作るように、玉葱のみじん切りと、すりおろした大蒜、卵、塩、胡椒、さらに香辛料を加えて、混ぜ合わせていく。
「なんだ? ハンバーグを作るのか?」
早速、アルマはボールの中身を見ながら、舌舐めずりする。
「まあ、お誕生日席にでも座って見ててよ」
すでにテーブルの用意はしてある。
白いクロスを張って、アルマ用の椅子を山の頂上に置いた。花も飾ってある。
一応席に着くけど、辛抱たまらないらしい。
器用に尻尾でフォークを掴むと、チンチンと皿を叩いた。
お行儀が悪いからやめなさい。
ただでさえ、今神経を使う工程なんだから。
ハンバーグはよく作るけど、賽の目にした肉をネタにして、ここまで粗挽きにしたハンバーグを作るのは初めての経験だ。
うまく繋がるか心配だったけど、試行錯誤の結果、何とか繋がる。
それを油を引いた鉄板の上で焼いていく。両面で軽く焦げ目が付いたら、水を回しかけし、蓋をして蒸し焼きにする。
だいたい火が通ったら、皿にのせて粗熱をとることにした。
次に僕がかかったのは、カレーである。
味はどうしようか迷ったけど、僕が手に取ったのは、数種類の青葉の薬草を混ぜ合わせた緑色のペーストだ。
ちょっとグロテスクな色をしているけど、食べたことがあるアルマは目を輝かせた。
「おお! グリーンカレーか!!」
そう。このペーストには、青唐辛子、青ネギ、大蒜、生姜、香草に加えて、シャキシャキ草や回復草、満月草の若草である新月草といった薬草などが入っている。それに加えて、変わり種としては烏賊の塩辛なんかも入っていたりする。
このペーストだとちょっと鼻にツンと来る味なので、椰子の実ミルクを加えて、まろやかさを足し、カレーの工程はここで終了。
さて、次にカツの工程だ。
木のボウルに、卵、小麦粉、牛乳を加えて混ぜ合わせる。
このバッター液にくぐらせるのは、勿論アレである。
5分後……。
「できたよ、アルマ」
「おおおおおおおおおおお!!」
アルマは皿にのった料理を見て、目を輝かせるのだった。








