第112話 新たな仲間
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本日はレティヴィア騎士団を紹介!
騎士団長フレッティ!
神官騎士で、眼鏡キャラのリチル。
元気いっぱい、もふもふいっぱいのミルディ。
何を考えているかわからないガーナー(雑!)。
小説1巻でも大活躍するキャラクターたちですが、
なんとその最期が明かされるという構成にもなっています。
気になる方は、9月8日発売の小説1巻をお買い上げください。
◆◇◆◇◆ ユージェヌ ◆◇◆◇◆
『狩初めの儀』はつつがなく終わった。
国にとって重要であり、王子王女にとっては王位継承戦において大事な儀式でもあった。
それでも儀式は儀式である。
試験のように点数がつけられる類いのものでもない。
しかし、この儀式の中で、注目を浴び、国王陛下の覚えめでたい子どもたちは、間違いなくロラン王子であっただろう。
声をかけられ、頭を撫でられたのである。
それは王位継承戦を戦う王子王女にとって、金塊以上の価値があった。
といっても、ロラン王子はまだ5歳である。
神童と家臣たちは騒いではいるが、子どもであることに変わりはない。
すでに成人している王子王女は、国王が我が子の頭を撫でる光景を微笑ましく見つめていたが、ロラン王子と年の近い王子王女は違った。
特に3歳年上のユージェヌにとって、頭の痛い出来事だ。
儀式が終わった後からずっと癇癪を起こして、怒りを露わにしている。
大好きな肉料理が出てきても、顔色は変わらず、今日の『狩初めの儀』でとれた猪肉料理は割れた皿とともに、カーペットの肥やしになってしまった。
「お前のせいだぞ!」
ユージェヌが指差したのは、ひっそりと食堂の隅に立ったクライスだった。
主が顔を真っ赤にしているというのに、動揺することなく佇んでいる。
その表情も仮面をつけたように感情を窺い知ることができない。
そのクライスは頭を下げた。
「申し訳ありません」
「謝罪などなんの意味ももたない! 元はといえば、お前が仕留め損なったのが悪いんだぞ!」
「それは――――」
ユージェヌは突然席を立つ。
さっと自慢のプラチナブロンドの髪を払うと、クライスの前にやって来る。
そして静かに「頭を下げろ」と命令した。
言われるまま主人の言う通りにすると、ユージェヌに頭を掴まれる。
さらに髪を引っ張り上げられた。
「なあ、クライス! 俺に何か落ち度があったか?」
「そ、そんなことは……」
「ないよな。じゃあ、俺は優しいか?」
「……や、優しいです」
「優しいよな! だって、1度ミスしたお前に、俺は2度もチャンスをやった。いや、『狩初めの儀』も合わせれば、3度だ。そんなお前に、俺は服を与え、俺の側で息することを許可し、今生きている権利を与えているんだ」
恫喝の仕方が8歳の子どものそれではない。
もはや反社会勢力のボスのような凄みがあった。
「お前はクビだ」
ようやくユージェヌはクライスの髪から手を離す。
「…………かしこ、まりました」
やや悔しそうに顔を歪めた後、クライスは食堂から出て行こうとする。
それを呼び止めたのは、ユージェヌだった。
「……あ。そうだ、クライス。1つ忠告しておいてやろう」
「何でしょうか?」
「生きて王宮を出られると思うなよ」
最後に乱れたプラチナブロンドを櫛で梳きながら、ユージェヌは暗い声を上げた。
「…………承知しております」
クライスは静かに扉を開けて、ユージェヌの前から姿を消したのだった。
◆◇◆◇◆ ロラン ◆◇◆◇◆
「で? 余のところに来たと」
ロラン王子は私室のベッドに座って、話を聞いていた。
その少年の前に立っていたのは、先ほどユージェヌ王子の側付きを正式にクビになったクライスである。
ロラン王子の次の側付きが決まるまで、クライスは貸し出されていたわけだが、ユージェヌのところにクビになったことによって、ロランのところにやってきたのだ。
「その通りです、殿下」
クライスは深々と頭を下げた。
すっかり陽が落ちて、王宮に夜が訪れていた。
5歳ともなれば、夜更かしもせずにもう寝る時間である。
実際、クライスが来た時も、ロランは「今から寝るところだ」と不平を漏らしたが、その恰好は寝間着などではなく、普段使いしている城のブラウスであった。
「さっきまでユージェヌに尻尾を振っていたとは思えない、身の軽さだな。そんなに命が惜しいか?」
「はい。その通りです」
「何か理由があるのか? たとえば、病気の母親がいるとか」
「別に……。私は孤児ですし」
「孤児だったのか!」
「はい。だからでしょうか。他人より人一倍、生に執着があるようです。……私の言ってることはおかしいことですか?」
ロランは首を振った。
「いや……。余にもわかる。ただ余が呆れているのは、そうであっても、クビになってすぐ敵方の陣営にやってきて、雇えと言ってきたお前の胆力だ」
「意外でしょうか?」
クライスは表情を一切動かさずに尋ねた。
それがまた滑稽だったのか、ロランは再びクスリと笑う。
肩を震わせる王子を見て、先にクライスが口を開いた。
「そもそも私を引き入れたのは、ロラン殿下が先だと考えているのですが」
「余が?」
「とぼけないでください。私の前でこれ見よがしに見せつけたではないですか? あなたの新しい玩具を」
瞬間、ロランは立ち上がる。
ズカズカとクライスの前に歩いて行くと、鋭い目つきで睨んだ。
クライスは息を飲む。
先ほどのユージェヌの恫喝など、児戯に等しく思えるほど、ロランの表情は厳格で、どこか覇王の相を見たような気がした。
そう……。思わず傅きたくなるような。
「クライスよ。余に雇われたいのであれば、もう少し雇い人の機嫌を窺った方がいい。お前のポーカーフェイスは魅力的だが、感情を消したからといって、雇い人の心証が良くなる保証はない。むしろそなたのように心の内を隠す人間を余は好かぬ。……まあ、我が親友を玩具扱いされることに比べれば、些細ではあるがな」
「……失礼しました」
ロランはカッとなった頭を自ら諫めるようにため息を吐く。
元の位置に戻り、ベッドに座り直した。
「とはいえ、お前の指摘は当たっている」
「何故、私にルーシェル・グラン・レティヴィアの存在を教えたのですか?」
「余の力を見せつけるためだ」
「親友ではなかったのですか?」
「ああ。ルーシェルは親友だ。大事な、な。だが、王宮の連中はそう考えない。ルーシェルの存在がバレれば、あいつを兵器として見做すだろう。あいつの前父が、国家の兵器であったようにな」
「殿下。ルーシェル様をどうなさるおつもりで?」
「何度も言わせるな。ルーシェルは友だ。ただ――――」
ロランはベッドに寝っ転がりながら、少し遠い目をしながら天井を見つめた。
「できれば、あいつを前父のようにはしたくない。ただそれだけなのだ」
「なるほど。……私に共犯者になれと」
「それは違うぞ、クライス」
ロランは跳ね上がるように再び起き上がった。
「ルーシェルを守ってやるのだ、我々で。あいつは十分に苦しんだ。そして、今ようやく真っ当な人生を歩み始めている。できれば、あの力を使うことなく、生涯を過ごさせてやりた……なんだ、その顔は」
気づけばクライスは眉間に皺を寄せて、ロランを睨んでいた。
眼鏡の美人がその眼鏡をなくしてしまって、ちょっと人相が悪くなっている――そんな表現が、今のクライスにはピッタリであった。
「殿下は本当に5歳でいらっしゃるのですか?」
「さあな。余もたまに自分のことを疑うことがある」
「まるで我が子を心配する親のような顔をしておられました」
「そこまで歳を食ってはいないぞ。むしろ我が子側だと思うが」
「承知しておりますとも。それで、私を雇ってもらえるのでしょうか?」
「おや。余は元々そなたを熱烈歓迎していたつもりだがな。……クライス。余の力になれ」
「御意に」
クライスは胸に手を置き、頭を下げた。
ロランは短く「頼む」とだけ告げる。
「さて、お前の処分についてユージェヌ兄貴になんと言えば」
「ご心配なく。自分の始末は自分でつけることができるので」
「……何をしたのかは訊かんが、あまり大それたことをするなよ。余はこれでも5歳だ。かばいきれぬこともある」
「大丈夫です。……限りなく個人的で、証拠が一切残らない〝仕返し〟というだけですから」
翌日……。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
悲鳴が上がったのは、ユージェヌの私室であった。
しかし、騒動はそれだけで、ユージェヌが何故悲鳴を上げたのか、その理由は完全に秘匿された。
本人は一切外に出てくることなく、人を私室に入れることすら拒んだ。
一体何が起こったのかわからぬまま時は過ぎたが、ある時お城の焼却炉に、ユージェヌのものらしきプラチナブロンドの髪が1本絡んでいたという。
クライス・ゼレアン(22 女 黒狼族)
ロラン王子の新しい側付き。
特技:毒








