第10話 300年間されたかったこと
ハイファンタジー部門、1位入りました!
総合では3位!!
ブックマーク、評価をいただいた方ほんっっっっっっとにありがとうございます。
よーし! 今日も更新頑張ります!!!
「――――というわけです」
僕は自分の事情を話した。
父がとても厳しい人で、弱い僕を山に捨てることを決意したこと。
自分には薬と料理の知識があって、なんとかこの山の中で生き延びることができたことを話す。
話を聞き終えると、待っていたのは沈痛な沈黙だった。
1分ほど声を奪われたように、僕と騎士団の人たちは黙りこくった。
「最後に聞かせてくれないか、ルーシェルくん」
フレッティさんが沈黙を破り、僕に問いかけた。
「はい……」
「君はどれぐらいこの地獄にいるんだい?」
「え? それは3びゃ…………」
あわわわわわ……。
違う。違う。そうじゃない。
「3びゃ……?」
フレッティさんが首を傾げる。
僕は慌てて訂正した。
「いいいいいえ。えっと、3年です。3年になります」
「3年か……」
フレッティさんは反芻する。
そしてジッと僕の方を見つめた。
優しげな緑色の瞳を見ながら、僕はドキドキしていた。
僕の証言は半分が本当で、半分が嘘だ。
父上に捨てられたことは本当だけど、薬と料理の知識だけでこの山での生活を乗り切ったとは言いがたい。
僕が300年間、山に引きこもっていられたのは、間違いなく魔獣食の副産物である能力の向上と効果によるものだ。
それに気付かなければ、僕はとっくの昔にトロルの腹の中だろう。
とはいえ、山の中でひもじくて魔獣を食べてたなんて言えない。ましてそれをフレッティさんの仲間に食べてもらったなんて、告白できるわけがなかった。
フレッティさんの視線が、真っ直ぐに僕を突き刺す。
僕が嘘を吐いていることを見抜かれているような気がして、慌てて目を背けてしまった。
「辛かったろう……」
次の瞬間、僕はフレッティさんに抱きしめられていた。
緑色の瞳からは涙が溢れている。僕には何故、彼が泣いているのか、理解できなかった。
胸は硬く、少し汗臭い。
でも不快じゃない。
久方ぶりの人肌のぬくもり。
いや、久方というのも何かおかしい。
一体いつぶりだろうか。
こうやって人に抱かれるのは……。
母上に抱かれたのは遠い昔のような気がする。
ならば父上はどうだろう。
記憶を追ってみたけど、思い出すことができなかった。
300年という月日のおかげで劣化したかといえばそうではない。
多分、ないのだ。
僕は父上に抱きしめられたことがない。
今、こうしてフレッティさんに抱きしめられて、初めてそれに気づけた。
同時にわかったことがある。
僕は父のような【剣聖】になりたかったわけでも、僕を僕として認めてほしかったわけじゃない。
魔獣料理の研究も、ずっと心の奥底にずっとあった願望を誤魔化すためのものでしかなかったのだろう。
長い間、待っていたのだ。
僕は300年もの間、フレッティさんがやっているようなことを、誰かにしてほしかったのだ。
「…………!」
いつの間にか視界が歪んでいた。
その歪曲した景色と一緒に、かつての屋敷の光景が重なる。
あれから長い、長い年月が経っていた。
多分もう、父上あるいは母上が僕を抱きしめてくれることはないと思うと、涙が溢れてくる。
人からすれば鬼畜な父上だったかもしれない。それでも僕の父親であったことは確かだ。
それがもう叶わないと思うと、涙が止まらなかった。
こみ上げてきた感情をそのまま声にする。
僕はまるで赤ん坊のような声を上げて叫んでいた。
ずっと僕は泣きたかったのだ。
山の中に捨てられてから。
それを300年間我慢し続けてきた。
300年間溜めに、溜め続けていた涙を一滴も余すことなく、僕はフレッティさんの胸に染み込ませるのだった。
300年遅れて、ルーシェルの本当の人生が始まります。
今日もあともう1話更新予定です。
よろしくお願いします。