第104話 お疲れ様、リーリス
本日『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~』のコミカライズ第10話が更新されました!
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無事、ロラン王子とともに山を下りた僕は、家路に着いた。
ロラン王子は護衛の騎士の馬に乗り、得意顔だ。
騎士たちに武勇伝を聞かせながら、盛り上がっていた。
若干盛っているというか、かなり誇張されているところもあるのだけど、ロラン王子にとって必要なことなのだろう。
散々自分のことを心配させたのだ。
泣き顔や、不安な顔を見せるのではなく、笑顔を振る舞い、心配していた家臣たちを奮い立たせることこそが、権力者としての務めだと考えているのだろう。
エルドタートルの中で、ロラン王子は「権力者が嫌いだ」と言い捨てた。
それでも、ロラン王子は今みんなに心配かけないように、王族として振る舞っている。
気丈と思うかもしれない。
でも、ロラン王子は嫌悪しながらも、自分の役目をきちんと担おうとしている。
たぶん、それこそがロラン王子が5歳であって、5歳に見えない由縁なのかもしれない。
レティヴィア家に向かう道すがら、僕は騎士団の一団と出会う。
先頭にいたのは、フレッティさんだ。リチルさんや、ミルディさん、ガーナーさんが付き従っていた。
さらに、その後ろには馬に乗ったピュアエルフの姿がある。
「父上……」
クラヴィス父上だ。
街の視察から戻ったのか。
でも、それにしたって早すぎる。レティヴィア公爵領はかなり広い。
1番遠い街だと、早馬を飛ばしても1日以上かかってしまう。
昨日の騒動からまだ1日も経っていないのに戻ってくるなんて。
「どうやって?」
首を傾げると、すぐに謎は解けた。
側にユランの姿があったからだ。ちょっと得意げな様子で、馬には乗らず自分の足で馬を追いかけていた。
「実は、昨日一旦屋敷に戻った時に、ユランにお願いしていたんです」
リーリスが声をかけてくる。
どうやらリーリスが、ユランを使って父上を呼び寄せたようだ。
結果的には遅かったわけだけど、ロラン王子が領内で襲われた。
領主としては、すぐに戻らなければ謀反の疑いをかけられることになる。
リーリスが僕たちを心配して父上を呼んだのだろうけど、公爵家の立場的にも知らせたことは正解だった。
父上は早速ロラン王子の前に来て、下馬する。
膝を突き、頭を垂れた。
「ロラン王子、無事のご帰還。お喜び申し上げます。加えて、我が領地にてお命が危ぶまれたこと。私が公務に出ていたとはいえ、不徳と致すところです。……責任は領主である私にございます。何なりとお申し付け下さい」
神妙な空気が流れる。
ロラン王子はしばし馬の上から、頭を垂れる父上を睨んでいたが、すぐに下馬してしまった。
父上の前に出ると、口を開く。
「夏の祭りの焼き増しだな、レティヴィア公爵よ。もしかして、そなた――余に折檻されるのが好きなのか?」
「い、いいえ! 滅相もない」
父上は頭を振る。
「お前がノーマルで安心した。むろん、余にもそんな趣味はない。納涼祭の時に言った言葉の繰り返しになるが、今回もそなたの息子に助けられた。そなたの息子を褒めることはあっても、そなたを責めることはない。出来れば、この言葉は金輪際にしてほしいものだな」
「しかし、これで2度目です。何もないというのは……」
「余の後ろ盾はそなただ。当然、余とそなたの関係性を分断しようとするのが定石。むしろ、そなたを叱ることによって、不和を生み出せば、策を練る者の思うツボになろう」
「仰る通りかと……」
「とはいえ、何も罰がないというのは、少々そなたも気持ち悪かろう、公よ」
「は、はあ……」
「であれば、今日は余をもてなせ。確か、お主には自慢の料理人がいたと思うが」
そう言って、ロラン王子は僕の方を見る。片目を瞑り、合図を送った。
クラヴィス父上も合図に気付いたらしい。
「かしこまりました」
「あと、納涼祭の時は叶わなかったが、今夜はそなたの屋敷に泊まるぞ。ベッドを用意しておけ」
「ははっ!」
クラヴィス父上はさらに深く頭を垂れる。
ちょっと驚きだ。
ご飯は食べていくことにはなると思っていたが、まさか泊まるなんて。
でも、もしかしらロラン王子にとって王宮よりもレティヴィア家の屋敷にいた方が心が休まるかもしれない。
(そのためにも、うんともてなさいないとね)
僕は自然と腕を捲るのだった。
◆◇◆◇◆
レティヴィア家に戻る。
ロラン王子は父上が先立って用意しておいた部屋に着くなり、眠ってしまった。
さすがのロラン王子も疲れたのだろう。夜通し、山を歩き、エルドタートルの中にも入って、キマイラ他魔獣とも遭遇した。
これで元気が有り余っているなら、ロラン王子は5歳の子どもを被った超人だろう。
クライスさんに加えて、ミルディさんとフレッティ団長を護衛に付ける。
ひとまずこれで安心だ。
「ふわっ」
大きな欠伸をしてみせたのは、リーリスだった。
「リーリスも眠ったら? 寝てないんでしょ?」
多分僕やロラン王子のことが心配で、昨夜は眠るどころではなかったのだろう。
とはいえ、僕は疲れていた。
ロラン王子と一緒にベッドで眠りたい気分だ。
「ルーシェルはどうするんですか?」
「僕も一眠りしてから、料理の下拵えを始めようと思う。王子から使命を受けたからね。頑張らないと」
「そうですか。じゃあ、わたくしも一眠りしようかし……ら……」
ストン、とリーリスは突然頽れる。
僕は慌ててリーリスを支えた。
何事かと思ったけど、聞こえてくるのは規則正しい寝息だ。
よっぽど眠たかったのだろう。
リーリスは僕とは違って、普通の女の子だからね。仕方ない。
僕はリーリスを横抱きにする。
「ルーシェル、ダメですよ。あまり危険なことをしちゃ……」
唐突にリーリスは口を開く。どうやら寝言らしい。実にはっきりした口調を聞いて、起きたのかと思ったけど、その瞼はしっかり閉じられていた。
「相当心配しておられましたよ、リーリス様」
廊下で声をかけてきたのは、カンナさんだった。
「気を張っておられたのだと思います。お父上も、兄君もいませんから。たぶん、レティヴィア家の唯一の人間として、気丈に振る舞われておりました」
「リーリスが……」
「とても貴族らしい振る舞いだと思います。失礼ながら、昔のお嬢様なら泣きながら、右往左往しているだけだったでしょう」
「そうなんだ。頑張ったんだね、リーリスも」
ユランを使って、父上を呼んだのはいい判断だったと思う。
リーリスはリーリスなりに、ベストを尽くそうとしたのだ。
「多分、誰かさんがとても頑張り屋なので、自分もと思ったのでしょう」
カンナさんはリーリスを労うように、その金髪を撫でた。
「カンナさん、僕がリーリスを部屋に運んでもいいかな」
一瞬カンナさんは戸惑った様子だったけど、結局僕の方を向いて柔らかく微笑んだ。
「ええ……。お願いします」
僕はそのままリーリスを横抱きしたまま、廊下を進む。
リーリスの寝顔を見ながら、僕は「よく頑張ったね」と声をかけるのだった。








