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第103話 密談

 話は僕とロラン王子が、レティヴィア家所有の山に戻る前に遡る……。


 ロラン王子は唐突に僕にお願いをしてきた。


「余を英雄(ヒーロー)にしてほしい」


「ロラン王子を英雄に?」


 王子はすでに王族だ。この上、英雄になることを望むなんて、何か訳があるのだろう。


 真剣な表情のロラン王子に対して、僕は少し前のめりになりながら、訳を尋ねた。


「余は余の力を以て、あのゼブライガーを倒したいのだ」


「ゼブライガーを!?」


 ゼブライガーはBランクの魔獣だ。


 キマイラよりも弱いけど、それでもロラン王子が相手するには、かなり危険と言わざるを得ない。


 しかも、僕の見立てでは何者かに【狂化】されている。厄介な相手だ。


「理由は2つある。1つは反ロラン派に対する牽制だ」


「反ロラン派……」


「うっすら気付いていると思うが、余に帯同している者の中に、どさくさに紛れて余を殺害しようと企んでいる者がおる」


 それはゼブライガーが【狂化】されていることからもわかることだ。


 何者かがロラン王子を殺そうと山に解き放ったことは明白だろう。


「恐らくこのタイミングを選んだのは、余を殺害した後、すべての責任をレティヴィア家に押し付けるつもりだろう」


「なるほど。後ろ盾であるレティヴィア家まで一気に潰すつもりですね」


「もしくは脅迫し、懐柔しようとするかだな。恐らくそっちだろう。レティヴィア家は公爵家。しかも、ピュアエルフの一族だ。おいそれと家を解体するわけにもいかぬ。ならば、傀儡として使うのが常套というものだろう」


 ひどい話だ。


「だが、逆にこの危機を乗り切り、余の武勇伝として書き加えることができれば、余に味方してくれる人間も多くなる。少なくとも余にちょっかいを出そうなどと考える輩は少なくなるだろう」


「そんなものですか?」


「貴族のようななまじ権力を持つ者たちを従わせるのは、力を誇示することがもっとも簡単なのだ。頭の良さは、従わせてから示せば良い」


 さすがロラン王子……。


 5歳とは思えない帝王学ぶりだな。


「えっと……。もう1つは?」


「わからぬか? お前のためだ、ルーシェル?」


「え? 僕のため?」


「レティヴィア家以外の者に、お前がゼブライガーをあっさり捻り潰すことができる力があることを知らせるわけにはいかぬだろう」


「うっ! 確かに……」


「こっそり倒したとしても、結局お主が何者か疑われることになる。ならば、大々的に余が倒したと喧伝する方が得策だ。余の意図ともマッチするしな」


 悪くない案――――というより、ゼブライガーを処理するためには、その方法しかないと見ていい。


「わかりました。……ロラン王子を英雄にして差し上げます」


「よし。決まりだ。……それでルーシェル、余があの化け物を倒せる方法はあるか?」


 いくつかある。


 まずはロラン王子の身体を強化する魔法やスキルを使うこと。あるいは手持ちの魔草や食材を調合して、強くなることだろう。


 ただこれは身体の負担が大きすぎる。


 僕のように鍛えていればいいけど、まだ5歳のロラン王子ではさすがに心許ない。


 あとは、僕とロラン王子が入れ替わる方法だ。


 魔法で姿を変えたり、人の意識を変えたりする魔法がある。


 簡単だけど、魔法自体がキャンセルされた時にバレるとまずい。


「となると、やっぱり――――」


 そう言って、僕は背負っていた弓矢を掲げる。


 身体強化が無理なら、道具の方を強化するしか方法はなさそうだ。


 早速、僕は弓に強化魔法を付与する。



 【鋭利化】


 【貫通性能向上】


 【硬度上昇】


 【武器強化】


 【強化魔法向上】


 【獣特攻】


 【風属性付与】


 【致命の一撃】


 【耐性防御減少付与】



「お、おい……。ルーシェルよ。一体いくつ魔法を付与するつもりだ。その辺りで――」


「いえいえ。王子の安全を考えて、まだまだ付与しますよ」



 【金属性破壊】


 【防御無効化】


 【反動抑制】


 【魔法性能強化】


 【物理防御結界】


 【対魔法防御発動】


 【貫通防御弱体化】


 【運強化】


 【狙撃強化】


 【刺突強化】


 【巨獣特攻】


 【痛覚倍増付与】


 【自動追尾】


 【回避不可性能】


 【不幸付与】



「あと、何があるかな」


「もももも、もういい! 十分だ、ルーシェル。なんかかけてる魔法の種類を聞いてたら、段々とゼブライガーが可哀想になってきた」


 ロラン王子はやれやれと首を振る。


 そうかなあ。あと、2つ3つぐらいはほしいところだけど。


 まあ、これでも十分ゼブライガーを粉微塵にすることができるだろう。


 キマイラと違って食材としては、あまり優秀な方とは言いがたいしね。


 僕は付与魔法を施した弓を王子に渡す。


 ロラン王子はしげしげとそれを眺めた。


「先ほどの魔法付与を聞くと、まるで聖剣や神器を持ったかのようだ。見た目は使い古されたタダの木の弓にしか見えぬのに……」


「じゃあ、早速参りましょうか、ロラン王子」


 僕はミラーさんを呼びだして、レティヴィア家の山に戻ったのだった。




 それから程なくして、僕たちは山の麓へと降りていく。


 ゼブライガーはいない。


 すでに魔法による速度鈍化や麻痺はなくなっているはず。おそらく突然いなくなった僕たちに戸惑い、必死になって捜していることだろう。


「ゼブライガーと応戦せずか。このままではかの魔獣と出くわさぬうちに麓に付きそうだ」


 その方がいい。


 ゼブライガーと出くわすのは、麓でリーリスたちと合流する時が、タイミングとして適当だろう。


 そこで大々的に英雄ロラン王子が、ゼブライガーを倒す――一応、そういうストーリーを思い描いていたのだけど……。


「ゼブライガーをこちらにおびき寄せましょうか?」


「できるならそうしてくれるか、ルーシェル。なんとも間抜けな話だがな」



 スキル【気配逆探知】



 これは、仲間に自分の居所を知らせるスキルだ。


 まさか仲間でもなんでもない魔獣をおびき寄せるために使うことになるなんてね。


 僕は次に【気配探知】を使う。


 大きな気配がこちらに向かってきていた。


 間違いなくゼブライガーだ。


 同時に麓にも気配が。


 こっちは僕たちの救出隊だろう。


 このまま歩き続ければ、救出隊と合流する時にゼブライガーと接敵することができる。


 そして、その目論見は当たった。


「リーリス、伏せよ!!」


 合流した僕たちの前に、ゼブライガーが出現する。


 すると、ロラン王子は一喝した。


「今です、王子!」


「任せよ!!」


 ロラン王子は弓を引く。


 距離は30歩分。


 ちょうど練習していた距離だ。


 これなら今のロラン王子でも射貫くことができる。


 何より王子の射形は美しかった。


 ヒュッと弓弦が鳴る。


 次の瞬間、見事ゼブライガーの額に矢が撃ち込まれていた。


 そのままゼブライガーを貫き、消滅する。


 ロラン王子は声高に喧伝すると、騎士たちは大声を上げた。


「うまくいきましたね、ロラン王子」


「ああ……。ルーシェル、ありがとう。そなたは余の1番の友だ」


 魔獣を射貫いた細い腕で僕を抱きしめる。


 労うためだろうけど、僕はちょっとだけ照れくさかった。


 皆が盛り上がる中、クライスさんと目が合う。


 周囲とは逆に冷めた瞳は、僕を抱きしめているロラン王子に注がれていた。


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