第100話 王子の信頼
☆★☆★ コミカライズ ダブル更新 ☆★☆★
本日「魔物を狩るなと言われた最強ハンター」と「劣等職の最強賢者」のコミカライズが、
ダブルで更新されております。どちらもニコニコ漫画で無料で読めますので、
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以下「魔物を狩るなと言われた最強ハンター」抜粋
ドオッ! と音を立てて、キマイラは倒れた。
ロラン王子はピクリとも動かなくなった魔獣を覗き込む。
完全に白目を剥いてるのを確認した王子は、絶叫した。
「る、ルーシェル!?」
「はい。なんですか、王子」
「脳筋にも程があるだろう!! こういう時ってもうちょっと頭を使うものじゃないのか?」
なんか焦っている。
僕なんかロラン王子を焦らせるようなことをしたっけ?
確かに合い言葉的なことを言えって言われたけど。
「でも、ロラン王子はこの守護獣を止める合い言葉を知らないんですよね」
「ん? ま、まあな」
「僕も知りません。なら、無理矢理大人しくさせるしかないじゃないですか」
拳を掲げる。
すると、ロラン王子は絶句してしまった。
「も、もういい。強いとは思っていたが、まさか守護獣を倒してしまうとは」
「倒してませんよ」
「はあ?」
「だって、まだ魔獣が消えてないでしょ?」
「そう言えば! 魔獣が消滅していない。……ルーシェル、お前何をした?」
よく考えたら、ロラン王子に魔獣の未消化技術を見せるのは初めてだったっけ。
「実は――――」
僕は簡単に魔獣の未消化について説明する。
「なんとそんなことができるのか、お前。そう言えば、そなたスライムにもやっていたな。なんか当たり前のようにやっていたから、スルーしたが」
「やってみると簡単ですよ。リーリスもできますし」
「何!? それは聞き捨てならんな。……今度余にも教えよ」
「え? いいんですか?」
「なんか余だけ仲間外れみたいでイヤだ」
あははは……。
なんか子どもっぽい理由だな。
ロラン王子は子どもだけどね。
「確かに魔獣は倒すと消滅する。その肉を得るには、消滅化を防がなけれならないのは道理だが……。よもやそんな方法があるとは。ん? ちょっと待て、ルーシェル。今、それをキマイラに施したということは」
「はい。食材にしようかと。キマイラの肉って、色々な肉の味が混じってておいしいですよ」
僕は包丁――ではなく、昔ドラゴングランドを倒した時に作ったドラゴンキラーを取り出す。
大物を捌く時はこれが一番なのだ。
大太刀を片手で軽々と構えると、僕は動いた。
「よっ!!」
剣閃がエルドタートルの内部で閃く。
すると、あっという間にキマイラはバラバラになってしまった。
外皮を剥き、骨を丁寧に取り、柔らかで適度に脂肪分の入った部分を厳選する。
一瞬にして骨と、食材として使えない内臓と翼の部分だけになってしまうと、キマイラは思い出したかのように消滅した。
「な、な、なんじゃそれはあああああああっ!!」
ロラン王子はまた声を荒らげる。
キマイラの肉を、昔から愛用している影魔獣シャドードールで作った魔法袋に入れていく僕を見て、また驚いていた。
「る、ルーシェル。今のどうやったのだ? キマイラが一瞬にして……」
「どうやったと言われても、剣で斬ったんですよ」
「斬った? 何回斬れば、あのようになるのだ?」
「うーん。何回でしょ? 軽く1000回ぐらいでしょうか。キマイラは大きいですから」
「1000回!! あの一瞬で1000回も斬ったのか?」
「魔晶石が消滅の指令を出す前に斬らないと、肉が全部なくなってしまうので」
「まさかこれもできるのか、リーリスは」
「まさか! でも、ロラン王子なら50年ぐらい剣の鍛錬をすればできますよ。王子はとても筋がいいですし」
「ご、50……。はあ……。今さらながら、お前が普通ではないことがよく理解できた」
「……やっぱり。その、怖いですか。僕のこと」
ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。
山ではいつもやっていたことだけど、ロラン王子には刺激が強すぎただろう。
「怖くないと言えば嘘になる。そなたの刃がもしかしたら余に向けられるのではと思うと、夜もおちおち眠れぬであろう」
「僕はそんなことしません!」
「わかっておるよ。ルーシェルはそんなことはしない。だからこそ余はそなたとともにしている。初めからそなたのことを危険と感じるなら、余は近づかぬ。余は王族だ。君子危うきに近寄らずといってな。命のリスクがある場所には、近づかぬようにしている」
「それは逆に言えば、僕の側の方にいた方が安全だって言っているように聞こえるのですが?」
「獅子は怖いが、味方となれば安全であろう。むしろ頼もしい余の護衛役の力量を見て、満足しているところだ」
ロラン王子はニヤリと笑う。
なんとも王族のロラン王子らしい信頼の仕方だ。
「それにルーシェルは余の友人だ。信頼しているのは、当然であろう」
「ロラン王子」
「くさい台詞まで言わせるな。ルーシェルこそ、もっと余を信頼してほしいものだがな」
「ごめんなさい」
「うむ。余は少し気分を害したぞ。罰として、そのキメラを食する時は余も呼べ」
「え? いいんですか?」
「お菓子の家もうまかったが、あれは魔獣という感じがしなかったからな。今度はガッツリ魔獣の肉も食してみたい」
「はい。是非食べて下さい!!」
僕は思わず目を輝かせる。
王子は「ふふふ」と笑った。
「ルーシェルよ。そなた、料理のことになると目の色が変わるな。さすがは、公爵家の小さな料理番か」
「小さな料理番って……」
「良いではないか。王族を饗応に誘う栄誉を授かったのだ。家の料理番を名乗っても、バチは当たらぬであろうよ」
僕のことなのに、ロラン王子は誇らしげに笑う。
公爵家の小さな料理番か。
ソンホー料理長が聞いたらなんて言うかな。
いや、その前にヤンソンさんに「100年早い」って言われそうだけど。半目で睨まれるのがオチだ。
でも、料理人で料理番か。
悪くない響きだ。
いつかみんなの料理を毎日作って、お客様にも自分の料理を食べてもらいたい。
そんな日がくると、いいなあ。








