第99話 守護獣との戦い
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「馬鹿な! キマイラだと!!」
ロラン王子は珍しく声を荒らげる。
王子の反応に呼応するかのように、様々な生物が合わさったAランクの魔獣も己を鼓舞するように吠えた。
エルドタートルの内部で反響する。
耳がキィンとして、もはやそれだけで兵器に近い。
実際、ロラン王子は声を聞いて居竦んでいた。
だが、絶好の攻撃のチャンスなのに、キマイラは動かない。
まるで僕たちを値踏みでもするかのように睨むと、頭に直接語りかける声を聞いた。
『アイコトバヲ イエ』
「なんだ。これは?」
ロラン王子は突如聞こえてきた声にポカンとする。
キマイラから発した声ではない。エルドタートルという感じでもなかった。
おそらく誰かが設置した魔導具が反応したのだろう。
すると、先ほどまで大人しかったキマイラが襲いかかってくる。
ロラン王子に向かって走ると、大きな爪を振り下ろした。
間一髪、僕はロラン王子を横抱きにして、回避に成功した。
「大丈夫ですか、ロラン王子」
「う、うむ。それよりあのキマイラに、謎の声!! ええい! わからんことが多すぎるぞ、ルーシェル。なんとかしろ」
「いや、そんなこと言われても……」
僕はキマイラから一旦距離を取る。
しかし、キマイラは追撃することはしなかった。
その足の下には、先ほどの攻撃による穴ができている。
凄い力だけど、キマイラが追ってこないのは何でだろう。
まるでブルーシードを守っているような……。
いや、それは当たり前か。キマイラからすれば、僕たちはご馳走を奪いに来た外敵なんだから。
『お任せを!!』
僕が命令を下すと、火蜥蜴がキマイラに突撃していく。
鋭い爪をかいくぐると、大きく胸を膨らませた。
直後、キマイラの顔面に向かって大きく火を吹く。
その業火に、さしものAランク魔獣も怯んだ。
うまい。周りにはブルーシードがあって、広範囲に炎を使うわけにはいかない。
だから、火蜥蜴は近づいて、直接火を食らわせたのだ。
火蜥蜴はただの獣ではなく、精霊だ。
僕の意を汲み、動ける知恵がある。普通の獣魔とはひと味違うのだ。
「いいぞ、火蜥蜴!」
ロラン王子も手を叩く。
だが、その顔はエルドタートルの中で輝いたが、すぐに暗くなってしまった。
火蜥蜴の業火を真っ正面から受けたというのに、キマイラはほとんどダメージを受けていなかったのだ。
「火蜥蜴の攻撃を受けて、無傷だと!!」
ロラン王子は驚愕する。へたり込みそうになったのを、僕が支えた。
「大丈夫ですか、王子?」
「ああ。しかし、ルーシェルよ。火蜥蜴の炎が効かないとは、余ほどの手練れだぞ、あの魔獣」
王子の指摘は正しい。いくら強いといっても、Aランクの魔獣が火蜥蜴の攻撃を完封するなんてあり得ない。
「考えられるのは、ブルーシードですね」
「ブルーシードだと?」
「ブルーシードに、おそらく魔獣を強くする成分が含まれているのかと」
魔草や魔実の恩恵を受けるのは、何も人間に限ったことじゃない。
僕の料理で人間の身体能力が上昇するように、魔獣にもまた同程度の向上が見られることは昔から知っていた。
でも、ブルーシードは摂取できる魔力量こそ多いけど、能力上昇効果なんてあったっけ?
どうかな、【知恵者】さん?
僕はスキル【知恵者】を使う。
ブルーシード【分類;魔草・魔実】
主にエルドタートルの胃の粘膜に寄生する魔実。
食べると、あらゆる身体の欠損部分が修復される。
うーん。やっぱりそういう効果はない。
ということは、やっぱり別の要因か。
『アイコトバヲ イエ』
またあの言葉が、頭の中で聞こえる。
「だから、合い――――」
僕は反射的にロラン王子の口を塞いだ。
だが、遅かったらしい。
再びキマイラが攻撃してくる。
お返しだとばかりに、獅子の口から炎を吐き出した。
エルドタートルの内部は広いとはいえ、一瞬にして僕の視界は紅蓮に染まる。
ロラン王子を引き寄せながら、僕は防御魔法を展開した。
「ルーシェル、大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
僕はケロッとした顔で答える。ロラン王子は顔を引きつらせながら、「お前に聞いた余が馬鹿じゃった」と何故か自省を始める。
僕、なんか悪いこと言ったかな?
「それより、王子。合い言葉に何か心当たりはありませんか?」
推測の域を出ないけど、ここは昔権力者の保護下にあった山だ。
おそらくブルーシードを秘密裏に育てるため、守護獣としてキマイラを設置したに違いない。
その権力者は当にいなくなっているんだと思うけど、未だにブルーシードを守る仕掛けが作動しているのだろう。
僕はまた【知恵者】に尋ねる。
この仕掛けについての解説を求めた。
守護獣の加護【分類;魔法】
一定の地域を守護させる限定型魔法。
場所、行動などを縛ることによって、対象の能力を極端に上昇する事が可能。
魔力がある限り、半永久的に動き続ける。おそらくエルドタートルが吸収する魔力が動力源と思われる。
『解除』のためには、魔法使い本人が設定した符丁を音声で答える必要がある。
「つまり、あやつを動かしているのは、ここエルドタートルに仕掛けられた魔法そのもので、それを解除するためには、合い言葉が必要ということか。あー! もう!! 面倒くさいことをしてくれたものだな!」
翻せば、この場所が当時の国にとってよほどの聖域だったということだろう。
「で、どう? なんか王家に伝わる秘密の言葉みたいなものはないの?」
「残念だが、全く心当たりがない」
だよね。おそらく、この守護獣の加護も相当昔に施術されたものと見て、間違いない。
多分、僕の300年でも足りないぐらいだ。
「仕方ないですね?」
「どうするのだ、ルーシェル? 相手は生半可な攻撃では通じないぞ」
「ですね。火蜥蜴」
僕は声をかけると、火蜥蜴は消えた。
一旦召喚を破棄したのだ。
「火蜥蜴が消えたが……。まさかルーシェルよ。そなた、1人でやるのか?」
「はい。そのつもりです」
「待て待て! 相手は精霊すら圧倒する魔獣だぞ。Aランクどころか、Sランクの力を持っていても」
「大丈夫ですよ、ロラン王子。キマイラと戦うのは、割と慣れてますから」
「へっ?」
「じゃあ、行ってきますね」
僕はタンッと地面を蹴る。
えっと……。キマイラの急所は確か――――そう。あったあった。
そのままキマイラの鼻先をかすめて、獅子の耳下辺りに貼り付く。
そして、腕を掲げた。
「来い!」
雷魔法【雷拳】
雷属性の魔力が、僕の拳に宿る。
青白い光りと鋭い音を響かせた拳を、僕はキマイラのこめかみ付近にぶち当てた。
強烈な光がエルドタートルの内部に満ちる。
ぐるり、とキマイラの目が白くなり、一気に3つの頭を持つ魔獣は倒れてしまった。
「うん。こんなものかな。……終わりましたよ、王子」
僕は軽く手を振る。
ロラン王子は口をあんぐり開けて固まっていた。いい男の子が台無しだ。
「な、な、なんじゃそりゃあああああああああああああああ!!」








