第9話 ケアスライム
ハイファンタジー2位まで来ました!
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僕たちは簡単に自己紹介を済ませ、早速僕の寝床に案内した。
「おお……。立派な木だ」
声を漏らしたのは、フレッティさんだった。
金髪に、優しげな緑色の瞳。ちょい二枚目の甘いマスクだけど、体格はがっしりしていて、頼もしい感じだ。
相当鍛えていることが窺える。
重そうな鎧を着ていても、背筋がピンと伸びていた。
やはり小さな騎士団の騎士らしい。
その手に握っているのは即席の担架だ。女の人が横たわっている。先ほどよりも随分顔色が良くなっていた。
良かった。あの飴が効いたようだ。
「ガーナー、私はミルディを中に運び込む。お前は周辺の警戒を頼む」
「はっ!」
ガーナーと呼ばれた騎士は直立する。
フレッティさんより頭1つ大きな大柄の騎士だった。岩石じみた四角い顔は、如何にも堅実そうな性格を窺うことができる。
生まれがこの辺りとは違うのかな。浅い茶色の肌をしていた。
ちなみにミルディというのは、担架に乗ったお姉さんのようだ。
フレッティさんの指示を聞いて、僕は首を振った。
「その必要はありません。ここには魔物が近づきませんから」
「魔物が近づかない?」
「全く近づかないことなどないだろう。油断はしない方が……」
最後に言ったのは治癒士のお姉さんだ。
確かリチルさんと名乗っていた。小柄で綺麗で清楚な人だ。ちょっと警戒心が強いみたいで、僕に対して1歩引いた態度を取っていた。
「魔物除けをしていて、この辺りの魔物は滅多に近づかないんです」
「魔物除け? 別に煙の匂いはしないが……」
煙?
たぶん、火をおこして魔物が嫌がる匂いを起こすタイプの魔導具かな?
僕は使ったことないけど……。
「いえ。ドラ――――ワイバーンの汗を周囲の木々に擦り込ませているんです」
「「ワイバーンの汗??」」
フレッティさんとリチルさんが、素っ頓狂な声を上げる。
寡黙なガーナーさんだけが、小さく眉を動かした。
「魔物の汗を魔物除けに使うなんて聞いたこともないのだが……。リチルはどうだ?」
「すみません。わたしも……」
困ったようにリチルさんはさらに小さくなる。
「嘘は言っていないように思えます」
ずっと口を閉ざしていたガーナーさんが発言した。
なかなか渋くていい声だ。
「先ほど探知魔法を使ってみましたが、魔物の気配はありませんでした。少なくとも近くの川縁より手前までは」
「この山は魔物専門ハンターでも滅多に近づかない場所だ。魔物の巣窟となっていると聞いていたのだが」
「それならこの子が生活しているのも、1つ納得できますが……」
リチルさんが言うと、「確かにな」とフレッティさんは頷いた。
「いや、それよりも何故この子がワイバーンの汗なんて持っているのか。ああ。もうわからんことだらけだな」
フレッティさんはガリガリと頭を掻いた。
「あの……。とりあえず怪我人を僕の家に入れませんか?」
「あ、ああ……。君の言う通りだ。むしろ失礼した。変な勘ぐりをしてしまって」
「いえ。お構いなく」
とは言ったけど、内心では冷や汗を掻きっぱなしだ。
気になって当然だろう。
僕がフレッティさんの立場なら、根掘り葉掘り聞き出したかもしれない。
それに僕は早速嘘を吐いてしまった。
ワイバーンというのは、嘘だ。
実はドラゴングランドの汗を使っている。強力な竜種の汗の臭いは、魔物にとって強烈でかなり広範囲まで届く故に、たいていの魔物が怯えて近づいてこない。
おかげで裏の畑の害獣の被害を心配する必要がなくなった。
とはいえ、範囲の限界はあるけど。
怪我人をひとまず僕のベッドに寝かせてもらう。
昨日まで大人の姿で寝ていたから、足がはみ出すことはない。ちょうどいいサイズだ。
ベッドの不自然な大きさに何かツッコミがあるかと思ったけど、フレッティさんは気にした様子はなかった。
そんなことよりも他に色々と考えることが多いのだろう。
「随分と顔色が良くなりましたね。後は、わたしの回復魔法が使えれば……」
リチルさんが指揮棒のような杖を取り出す。
集中するが、魔力が集まらないようだ。
「魔力が枯渇してるのですね。じゃあ、これを……」
「これはさっきミルディに与えていた。回復……薬、ではないのですか?」
「さっきとはちょっとだけ違います。ほら、色が違うでしょ?」
「あ……。そういえば……。さっき見たのは、青だったのに、これは赤い?」
なおも警戒するリチルさんに、僕は飴を食べて見せた。
毒が入ってないことをアピールする。
口をもぐもぐと動かしながら、同じ袋からまた赤い飴を取り出し、差し出す。
リチルさんは1度フレッティさんの方を向いて目で確認を取った。
最終的にはフレッティさんも了承し、リチルさんは飴を受け取る。
「じゃあ……」
恐る恐る飴を口の方へと近づけていく。
舌の上に載せると、うんと頷き、同時に目をつむった。
直後、綺麗な青い瞳が大きく開く。
「おいひぃぃぃいいぃぃぃいいぃ!!」
リチルさんは絶叫した。
頬を膨らまし、みるみる顔が赤くなっていく。
口の中でペロリと舐める音が聞こえてきそうだった。
「だ、大丈夫か、リチル」
リチルさんの変貌ぶりに、逆にフレッティさんの顔が青くなっていた。
部屋の入口付近から眺めていたガーナーさんも口を開いて驚いている。
「は、はい、団長。でも、その……」
「な、なんだ?」
「こんなにおいしい飴を食べたのは初めてです。甘さが上品で、微かに果汁のような酸っぱさがあって。まるで貴族の皆様が食べるケーキのような――――はっ!」
滔々と語っていたリチルさんが、我に返る。
さらに顔が完熟したトマトみたいに赤くなっていった。
「す、すすすすすみません、団長。わたし、その取り乱してしまって」
「いや、いい。それよりも魔力はどうだ?」
「魔力?」
リチルさんは一瞬惚ける。
どうやら本来の目的を忘れるぐらい、飴はおいしかったらしい。
他の人はちょっと呆れた様子だったけど、僕はちょっと嬉しかった。
しばらくしてリチルさんは思い出す。また「すみませんすみません」と頭を下げていた。
「えっと……。魔力ですが、えっ…………」
「どうした、リチル?」
フレッティさんは息を飲んだ。
「そ、その……。全回復してるみたいです」
「ぜ、全回復……。そんな魔力液の瓶を空っぽにしたって、全部は回復しないだろう」
「す、すみません。で、でも、わたし……嘘なんか吐いてないです」
リチルさんは半泣きになりながら答えた。
今リチルさんに与えた飴はただの飴じゃない。
マジックスライムといって、スライム種の中でも珍しい魔法を使うスライムだ。
ちなみにミルディさんに飲ませたのは、ケアスライムの飴だ。
普通のスライムを加工し、その飴を与えても精々気分がよくなる程度。
けれど、ケアスライムの飴は傷付いた身体を回復させる効果を持っている。
でも、まあ……いずれにしてもスライムで作った飴といったら、驚くだろうなあ。
「団長、今は――――」
問答を続ける2人の間に、ガーナーさんが仲裁に入る。
「あ、ああ。まあ、全回復したのなら幸いだ。ミルディを回復させてくれ」
「は、はい……」
そう言って、リチルさんは杖を掲げた。
目をつむり集中する。
「癒神アリエルよ。傷付きし其は御子に癒やしの息吹と言の葉を贈りたまえ」
これが呪文か。
知識では知っていたけど、初めて見た。
リチルさんの杖の先に、緑色の魔力が集まる。
それをベッドに横たわったミルディさんに放った。
全身が緑色の光に包まれる。
血色がさらによくなり、脇腹の傷口がみるみるふさがっていく。
やがてミルディさんは完全に回復した。
「これでもう安心です。体力が回復するまで、しばらく寝ていると思いますけど」
「そうか。それは良かった」
フレッティさんはホッと息を吐く。
僕の方を見ると、深々と頭を下げた。
「ありがとう、ルーシェルくん。本当に助かったよ」
「いえ。大したことはしてませんから。頭を上げて下さい」
僕はぶんぶんと手を振った。
「ところで気になっていたのだが、あの飴は一体……」
「そうです。どうやって作っているんですか? 初めて食べました、あんな飴」
リチルさんは目をキラキラさせながら、僕に尋ねる。
どうやら飴の効力よりも、味の方が気になるらしい。
弱ったな……。
僕は困っていると、フレッティさんは顔を伏せた。
「いや、恩人に詮索するのは無粋か。今の質問は忘れてほしい。ただこれだけは教えてくれ。ルーシェルくん――――」
君は何故、こんな山に住んでいるのかな?
日間総合ランキングでは8位! 最近異世界恋愛が強いんですね。
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